もんじゅ
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もんじゅは、敦賀市にある日本原子力研究開発機構の原子力発電所(高速増殖炉)である。敦賀半島北端部西岸に位置する。
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[編集] 名称
「もんじゅ」の名は仏教の文殊菩薩に由来し、同じ若狭湾に面する天橋立南側にある天橋山智恩寺の本尊から来ているといわれる。原子炉の名前を釈迦三尊から取ったことに関しては、すでに運転を終了している「ふげん」(普賢菩薩に由来)と共に仏教関係者などからの批判的意見が多い。
所在地:福井県敦賀市白木2-1
[編集] 特色
通常、原子力発電所は軽水炉でウランを燃料として消費するが、併せて少量のプルトニウムも生成される。その生成されたプルトニウムを利用してエネルギーを作ることができるのが高速増殖炉である。 高速増殖炉はエネルギーを生み出す際、消費以上のプルトニウムを生成できるため、「夢の原子炉」と言われていた。
しかし、冷却材に、軽水炉では軽水を利用するのに対し、高速増殖炉では、管理の難しい金属ナトリウムを使用しているなどの問題もある。アルカリ金属であるナトリウム単体は酸化されやすく、空気に触れると火災を起こし、水に触れると爆発をする危険性が高く、管理には高度な技術が必要になる。もんじゅでは1995年、温度計の設計ミスから温度計のさやが折れ、ナトリウムが漏れた。火災が起きたが、その現場のビデオを当時の事業者であった特殊法人、動力炉・核燃料開発事業団(動燃)が編集したことが社会問題化した。
事故原因の究明、安全性総点検を経て、安全性を一層向上させるための設備改造に対する国の安全審査が2002年末に終了した。また福井県の全自治体での説明会開催などの地道な地域理解活動が行われており、もんじゅは2008年の運転再開を目指して現在改造工事中である。この間、動燃は国による二度の組織再編を受け、核燃料サイクル開発機構(サイクル機構)を経て独立行政法人 日本原子力研究開発機構(原子力機構)となっている。
[編集] 最高裁判決
もんじゅの原子炉設置許可について周辺住民32人が国(経済産業相)に許可処分の無効確認を求めた行政訴訟(1985年提訴)が争われてきたが、2005年5月30日に最高裁は「国の安全審査に見過ごせない過誤や欠落があったとは言えず、設置許可は違法ではない」との判決を下し、国の勝訴が確定した。
一方、もんじゅの建設・運転の差止を求めた民事訴訟も争われてきたが、2003年に原告自らが訴訟の取り下げを行っている。
[編集] 反対派の主張
長崎に落とされた原子爆弾はプルトニウムが原料であるが、その何十倍ものプルトニウム、更にはナトリウムが一箇所に存在することは原子爆弾の何十個分が存在するのと同等で、大変危険だと反対派は主張している(当然であるが、原子炉が核兵器のような爆発を起こすことはない)。
又、反対派の主張の一つには、「日本が将来、核武装する為の物ではないのか」という内容がある。これに対して、発電用に使用するプルトニウム燃料は主にプルトニウム241で構成されており、核兵器に使用されるプルトニウム239は微量である、という反論が電力会社などからなされている(→放射性同位体)。
[編集] 仕様
- 原子炉型式:高速増殖炉
- 熱出力:71万4千kW(714MW)
- 電気出力:28万kW(280MW)
- 燃料の種類:MOX燃料
- 燃料交換間隔:約6ヶ月
- 燃料交換方式:単回転固定アーム方式
- 熱効率:39%
- 冷却材:金属ナトリウム
- 原子炉入口冷却材温度:397℃
- 原子炉出口冷却材温度:529℃
- 燃料集合体:198本
- 燃料増殖比:約120%(1.2)
- 制御棒本数:19本
- 原子炉格納容器:鋼製格納容器
- 建設費: 約5,900億円(当初予算)事故後、動いていないが、掛かった総予算としては1兆円を超えている。
[編集] 事故
[編集] 経緯
1995年12月8日、「もんじゅ」では運転開始前の点検のために、出力上昇の試験をしていた。目標の熱出力43%を目指し、出力を徐々に上げていたところ、二次冷却系配管室で配管のナトリウム温度計が「温度高」を示した。引き続き同じ場所で、火災報知器が2箇所で、更にナトリウム漏洩を知らせる警報も発報した。
その後も火災警報の範囲は広がり、ついには階を超えて発報を始めた。すぐに試験を中止し、運転員らが現場に駆けつけたところ、目視で白煙を確認。ナトリウム火災の特徴だった。火災警報機が14箇所発報した時点で、運転員らは原子炉停止を決断し、原子炉の出力を徐々に落とし始めた。原子炉を急激に停止させる「緊急停止」は炉に負担をかけるため、緩やかな出力降下には、完成したばかりの炉を保護する目的もあった。しかし、一旦は落ち着いたように見えた火災報知器がさらに発報し、ついには34箇所にも及んだ。事態を重く見た運転員らは、事故発生から1.5時間後、原子炉を緊急停止させた。充満した白煙と高温により、防護服を着用しても現場に立ち入ることは困難で、被害状況は全くつかめなかった。しかし、原子炉停止後も火災報知器の発報は続き、最終的には66箇所に及んだ。
後に事故現場に立ち入り、状況を確認したところ、高融点の鋼鉄製の床が浸食され、さらにナトリウムが周囲にスプレー状に散布されている事がわかった。 なお、漏洩した金属ナトリウムは二次冷却系で、放射能は帯びておらず、原子力発電所の国際原子力事象評価尺度としては極めて軽微な被害ということになるため、尺度そのものに対する批判も絶えない。
[編集] 事故後の対応
事故後の会見はもんじゅのプレスセンターで行い、事故当時撮影した1分少々のビデオを公開。しかし数日後、これが編集されたビデオであることが発覚し、マスコミに指摘を受けた動燃は、編集前のビデオを渋々公開した。不適切な対応はこれに留まらず、さらに数日後、動燃側から更に事故発生直後の現場のビデオがあるとの発表があり、この事で、マスコミだけでなく行政からも、ほぼ完全に信頼を無くし、この時点でプロジェクトは完全に頓挫したといってよい。
[編集] 原因
事故翌年の1月8日未明の、前夜から行われていた、漏洩箇所のX線撮影により、一ヶ月もの間解明されなかったナトリウム漏洩の明確な原因が明らかになった。それまで最も有力だったのは、ナトリウムの温度を測定する熱電対温度計の収めてある「さや(ウェル)」と配管の接合部の破損であった。「さや」は、ナトリウムの流れる配管の中に、棒状に突出しており、直径3.2mmの温度計を保護する役割を果たしていた。この「さや」は大変丈夫に作られており、確かにナトリウムの流速程度の機械的負荷で折損してしまうとは考えにくかった。故に、破損箇所があるとするなら接合箇所であろうと、技術者の誰もがそう思っていた。しかし、X線写真によれば、問題の「さや」の先端は、途中のくびれ部分から完全に折損しており、中の温度計は45°ほど折れ曲がった状態で管内にむき出しになっていた。日本原子力研究所が調べたところ、ナトリウムの継続的な流れにより、「さや」に振動が発生。徐々に機械的強度が衰え、折損に至った。 この結果は、動燃側にとっては衝撃的な事態であった。「さや」の設計ミスが明らかになった以上、運転再開には同型の「さや」を全て交換する必要があるからである。同型の「さや」は、二次冷却系に計48箇所も設置されており、これの全交換は、すなわち二次冷却配管工事をすべてやり直すに等しい。
もう一点、火災報知器が広範囲で発報した理由として、ファン付き換気ダクトによって白煙の拡大を招いたことが明らかになった。直径60cmのナトリウム管路の下方にある、直径90cmの換気ダクトがそれだ。事故当時、換気ダクトのファンは作動したままになっており、原子炉停止後、ナトリウムの抜き取り作業が進み、ナトリウムの液位が下がった事で、ようやく自動停止した。これが、計66箇所にも及ぶ発報を招いた原因である。
管路周辺にスプレー状にナトリウムが散布されていた事も、予測できぬ事態であった。何故なら、金属ナトリウムは加圧されていないため、スプレー状に散布されるほどの勢いなど到底あるはずも無い。しかも、問題の配管は全て保温材で覆われており、仮に管内が多少加圧されていても、スプレー状の飛散には至らないのである。しかし、現場には確かに広範囲に飛散した痕跡があった。これは、換気ダクトのファンに付着したナトリウムが、遠心力で周囲に飛散したものだった。つまり、ナトリウムはスプレー状に散布され、かなり深刻なナトリウム火災が発生していた。
事故発生直後、運転員らは、ゆるやかな出力降下による原子炉停止を行っていた。しかし運転マニュアルには、「火災警報」が発報した場合は、直ちに原子炉を緊急停止するように記載されていた。「炉の保護」といった思考にとらわれず、マニュアル通りに緊急停止されていれば、事故の波及は大幅に低減できたとされる。よって、運転員の訓練不足とマニュアルの不備が、事故を拡大させた。
このように、「もんじゅ」の事故は、人為的過失とすら言えないような拙い判断ミスの数々が重なり、少量のナトリウム漏洩にもかかわらず、比較的大きな被害を生み出す結果となった。放射性物質の漏洩が無いことなど、事故の規模としては小さかったとはいえ、事故時の対応そのもの及び事故後の不適切な対応の数々が、世論や行政の、もんじゅのみならず原子力全般に対する大きな不信を招くこととなった。
[編集] 今後
2005年2月6日、西川一誠・福井県知事は、それまで留保していた「もんじゅ」の改造工事を了承した。これにより、「もんじゅ」の再稼動にひとつ道が開かれた形になる。西川知事は、「これをもって運転再開を了承するものではない」としているが、反対派からは、当然の如く激しい非難が噴出している。
2005年9月27日、フランスは日本に対し、もんじゅの共同利用を提案した。
[編集] 関連する原子炉
[編集] 親炉
[編集] 世界の兄弟炉
- フェニックス (原子炉)(フランス)
- スーパーフェニックス(フランス)
- BN600(ロシア。旧ソ連)
[編集] 関連項目
[編集] リンク
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