アコーディオン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
アコーディオン(accordion)は中央の蛇腹を左右に広げたり縮めたりして演奏する動作が特徴的な、小型のオルガン族・フリーリード(自由簧)楽器・鍵盤楽器である。日本語では「手風琴」という。
目次 |
[編集] アコーディオンの構造
両手で抱えるようにして保持する。右手側は主に主旋律を担当し、ピアノと同様の鍵盤もしくはボタンが並べられる。左手側には主にベース音や和音を奏でるボタンが多数配置されている。右手側が8~50鍵ほど、左手側が最大で120個ほどのボタンがあり、ボタンと空気弁を繋げるためにシャフトが張り巡らされた内部構造は大変複雑である。重量は2~15キログラム程度。
鍵盤やボタンを押すと、シャフトでつながった対応する空気弁が開くようになっている。蛇ばらをふいごとして伸縮することで送られた空気が、開かれた弁を通りリードを通り抜けるときに振動させ音を鳴らす。フリーリードというどちらの面からの通気でも音を発するリード(一端を固定した金属の板)を用いるため、吹くときと吸うときのどちらでも音を鳴らすことができる。同時に複数の音を鳴らすのが容易であり、一台で主旋律と伴奏をこなすこともできる。構造としてはオルガンやハーモニカによく似ているが、一人で持ち運べるサイズで取り扱いやすく、屋外での演奏にも適している。ハーモニカのように息を必要としないので、弾き語りもできる。
日本では小学校などの一般的な音楽教育の現場でも採用されており馴染みは深い。小学校などで用いられているのは、左手のボタンが無い簡略化した(ベースレス)ピアノ式アコーディオンである(楽器ごとにアルト、ソプラノ、テナー、バスと分担化されており、器楽合奏や鼓笛パレードで組み合わせて用いられる場合が多い)。しかしピアノやギターに比べるとその普及度は低く、楽器も安価なものは少ない。
ピアノ・アコーディオンなどの左手のボタン配置は「ストラデラ・ベース・システム」(The Stradella Bass System)を用いる。これは通常次の6列から構成される。2列目のボタンはファンダメンタル・ベース(the Fundamental Bass)と呼ばれ5度音階に従って並べられている。一列目のボタンはカウンター・ベース(the Counter Bass)と呼ばれ、2列目より3分の1高い関係になっている。メジャーコードは3列目に配置され、4列目はマイナーコードで構成される。5列目はセブンスコードを格納し、最後の6列目はディミニッシュ・セブンスコードを持つ。
次はアスキーアートによるボタンの配置図である。
... C G D A E B F# C# G# D# A# F C ... ... Ab Eb Bb F C G D A E B F# C# G# ... ... ab eb bb f c g d a e b f# c# g# ... ... abm ebm Bbm fm cm gm dm am em bm f#m c#m g#m ... ... ab7 eb7 Bb7 f7 c7 g7 d7 a7 e7 b7 f#7 c#7 g#7 ... ... abd7 ebd7 Bbd7 fd7 cd7 gd7 dd7 ad7 ed7 bd7 f#d7 c#d7 g#d7 ...
値段やサイズ、楽器の系統にも因るが、まったく無い列があったり、レイアウトが多少変更されていることがある。ほとんどのロシア式の配置は、ディミニッシュ・セブンス・コードの列はボタンひとつ分移動され、ディミニッシュ・セブンス・Cコードは図のディミニッシュ・セブンス・Fコードの位置にあり、人差し指が届きやすいようになっている。
アコーディオンはボタンの数と種類によって次のように分類される。
- 「12ベース」アコーディオン:ファンダメンタル・ベース
- 「24ベース」はAbからAまでで、ファンダメンタル・ベース、メジャーコード、マイナーコードを持つ。
- 「32ベース」はEbからEまでで、ファンダメンタル・ベース、メジャーコード、マイナーコード、セブンスコードを持つ。
- 「48ベース」はEbからEまでで、6つの列すべてを持つ。
- 「72ベース」はDbからF#までで、6つの列すべてを持つ。
- 「80ベース」はCbからG#までで、ディミニッシュ以外のすべてを持つ。
- 「96ベース」は80ベースと同様だが、6つすべての列を持つ。
- 「120ベース」はAbb(i.e. low G)からA#まで - 20行 - 6つすべての列を持つ。
[編集] アコーディオンの歴史
最初のフリーリード楽器は中国の笙であるが、これは息で空気を送り込むようになっている。この笙のようなフリーリードによる発声の仕組みを、18世紀にヨーロッパからの旅行者が中国から持ち帰ったものと思われる。最初のアコーディオンは1822年にベルリンのフリードリッヒ・ブッシュマン(Friedrich Buschmann)によって発明され、「ハンド・エリオーネ」と呼ばれた。近代的な10ボタンアコーディオンは1829年にウィーンのシリル・デミアン(Cyrillus Damian)が考案したもので、全音階(メジャースケールの7音)を持ち、単一のキーのみで演奏された。「アコーディオン」とはこのデミアンによる命名であり、「和音」を意味する「accord」に「器」を意味するギリシャ語の接尾語を組み合わせたものである。これらのアコーディオンは現在も演奏されており、ケージャン・アコーディオン(Cajun accordions)、メロディオン(melodeons)、ワン・ロウ(one-row)、ダイアトニック・アコーディオン(diatonic accordions)など多くの呼び方がある。
ロシア式アコーディオンのバヤンは、本来全く独自の鍵盤配列を持った民族楽器の一つで1907年にピョートル・ステリゴフによって開発された。後に、イタリア式クロマティック・アコーディオンを参照して、西洋伝統音楽に耐える構造に徹底的に作り変えられた。バヤンは右手のボタン配列が通常のアコーディオンと若干異なる。音の違いはほとんどないが、微妙なレヴェルでは違うと見られる。Akkobayan社は右手のボタンを5列から6列に増強し、どのキーでも同音連打が完全に可能なモデルを生み出した。大変な重さの為に右の8フィートのリードは二種だが、三種のも存在し重さは16KGを越え音栓数は31に及ぶ。これだけの重さに耐えなおかつ余裕で使いこなすロシア人の体力がよく解る楽器の歴史でもある。現在も、発祥時のモデルと改良されたモデル、どちらも生産されている。
[編集] アコーディオンの種類
アコーディオンはその成り立ちや形状、音域などからおおまかに5つに分類される。
[編集] ダイアトニック・アコーディオン
ダイアトニック・アコーディオンはもっとも初期に開発されたシンプルなアコーディオンである。ダイアトニック(diatonic)とは「全音階」を意味し、単一のキーのみが演奏でき、ピアノの黒鍵にあたる半音は出せない(半音を出すためのアクシデンタル・キーを追加したタイプもある)。蛇腹(じゃばら)を伸ばすときと縮めるときで違う音がでる「押引異音式」になっている。ピアノ・アコーディオンなどに比べると構造が単純で軽量である。右手は主旋律を演奏し、左手は2~3のベース音とトニックとデミナントのシンプルな和音を演奏する。
[編集] クロマティック・アコーディオン
全音階でしか演奏できないダイアトニック・アコーディオンを改良したもので、ピアノなどと同様に半音階の音も出すことができる。ダイアトニック・アコーディオンが押引異音であるのに対し、クロマティック・アコーディオンは押引同音になっている。1850年ごろにウイーンのフランツ・ワルターによって作られた。
[編集] コンサーティーナ
イギリスの物理学者、チャールズ・ホイートストンが考案したアコーディオンの一種。1833年にデミアンのアコーディオンとは独立に作られた。重量は2キログラム程度とアコーディオンの中でも小型で、六角形の蛇腹をもつ。なお、concertina(英語)の日本語表記はいまだ固定しておらず、「コンサーティナ」「コンサルチーナ」「コンツェルティーナ」その他の表記があるため、ネット検索などのときは要注意である。詳しくは「コンサーティーナ」の項を参照。
[編集] バンドネオン
ドイツのハインリッヒ・バンドにより発明されたもの。詳しくはバンドネオンを参照。
[編集] ピアノ・アコーディオン
ピアノ・アコーディオンは18世紀にヨーロッパで開発され、現在最も一般的なタイプのアコーディオンである。右手部はピアノの鍵盤と同形状の鍵盤になっており、ピアノよりは鍵盤が小さいがピアノの演奏者でも演奏することができる。
[編集] Vアコーディオン(電子アコーディオン)
ローランド(株)が2004年に発表。2006年の現行機種としては、ピアノ・アコーディオン・タイプのFR-7、FR-5と、クロマティック(ボタン)アコーディオン・タイプのFR-7bとFR-5bがある。また2006年1月にはアメリカのNAMMショーにて、新機種のFR-3sとFR-3(スピーカー未搭載モデル)を発表、小型軽量化とコストパフォーマンスに優れたエントリーモデルとして2006年6月頃に国内発売を予定。現在はアコーディオン奏者の長坂憲道氏がV-Accordionの第一人者として、全国的に演奏活動を行っている。楽器の位置づけはアコースティックギターに対してエレアコ、またハモンドオルガンB-3等に対してエレクトーン他、各社の電子オルガンの対比に近いニュアンス。世界の代表的なアコーディオン17台分をモデリング搭載しており、簡単なボタン操作でそれらのアコーディオンを持ち替えることもできる。また、左手のベースボタンはスタンダード・ベース(ストラデラ・ベース)から、各種フリー・ベース・システムにも簡単に切り替えることが可能。奏者のスタイルにマッチするよう、細かく設定を作り込み、世界に一台のアコーディオンを作り上げられるシステムである。
[編集] 代表的なアコーディオン奏者
- 横森良造
- かとうかなこ
- 尾上隆治
- 桑山哲也
- 長坂憲道
- 御喜美江
- coba(小林靖宏)
- Revo(Sound Horizon)
- Teodoro Anzellotti
- Tony Cedras
- Dick Contino
- Myron Floren
- Guy Klucevsec
- Joey DeVilla, "Accordion Guy"
- John Linnell of They Might Be Giants
- Pauline Oliveros
- "Weird Al" Yankovic
- Charles Magnante
- Lawrence Welk
- Frank Marocco
- Guoping Zhang
- Tony Lovello
- Dick Contino
- Art Van Damme
- Richard Galliano
- Mika Huusari
- Jimmy Shand
- Dr. Busker
- Walter Ostanek
[編集] 参考文献
- 渡辺芳也「アコーディオンの本」ISBN 4393934229