イリヤ・プリゴジン
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イリヤ・プリゴジン(Ilya Prigogine, 1917年1月25日 - 2003年5月28日)は、ロシア出身のベルギーの化学者・物理学者。非平衡熱力学の研究で知られ、散逸構造の理論で1977年のノーベル化学賞を受賞した。統計物理学でも大きな足跡を残し、エントロピー生成極小原理はよく知られている。
[編集] 生涯
プリゴジンは1917年にモスクワに生まれ、1921年から家族とともにベルギーのブリュッセルに移住した。ブリュッセル自由大学で化学を学び、1941年に博士号を取得、1947年から同大学の教授となった。1960年代にはアメリカ合衆国のテキサス大学でも物理学と化学の教授を兼任し、のちに彼の名前を冠することになる研究所の創設にも関わった。そして2003年、ブリュッセルで死去した。
[編集] 業績
プリゴジンは、化学平衡から遠い状態にある溶液について研究した。溶液が平衡状態にあるときは、温度や圧力などの物理学的性質は変化せず、また系への物質やエネルギーの出入りもないはずである。実際には溶液中では恒常的に変化が起こっているにも拘らず、系としてある程度の秩序は保たれている。
溶液の温度を低温から急に上昇させると、溶液の小さい部分部分(セルとよんだ)が秩序を保ちながら全体の中を動くことを発見した。それまで非平衡状態では予想可能な秩序が生じることはないと考えられていた。またプリゴジンはこの現象は不可逆であり、つまり溶液を冷却しても逆の現象は生じないことを発見した。
こうした非平衡系における秩序の仕組みとして「散逸構造」という概念を提唱した。
周囲の環境と共存した状態で存在する散逸系を考え、物質とエネルギーがたがいに作用しあってより秩序性の高い状態になる現象を数量的に研究するプリゴジンの理論や思想は、物理化学の研究のみならず、社会学や生態学、経済学や気象学、人口動態学のモデルとしても応用されている。著書「カオスからの秩序」(1979年)は科学の専門家でない一般向けに、彼の理論を理解してもらおうと書かれたものである。そのほかの著書として、「存在から生成へ」(1980年)や「複雑さの探究」(1989年)などがある。科学思想のみならず時代思潮に与えた影響もきわめて大きい。
[編集] 著書
- 『化学熱力学』-R.デフェイとの共著 みすず書房刊、ISBN 4622024071
- 『構造・安定性・ゆらぎ : その熱力学的理論』-P.グランスドルフとの共著 みすず書房刊、ISBN 4622025310
- 『散逸構造:自己秩序形成の物理学的基礎』-G.ニコリスとの共著 岩波書店刊、ISBN 4000053965
- 『混沌からの秩序』 - イザベル・スタンジェールとの共著 みすず書房刊、 ISBN 4622016931
- 『存在から発展へ:物理科学における時間と多様性』 - みすず書房刊、ISBN 4622025426
- 『複雑性の探究』- G.ニコリスとの共著 みすず書房刊、ISBN 4622040891
- 『確実性の終焉:時間と量子論, 二つのパラドクスの解決』 みすず書房刊、ISBN 4622041081
- 『現代熱力学:熱機関から散逸構造へ』 -ディリプ・コンデプディとの共著 朝倉書店刊