カマキリ
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カマキリ目 Mantodea | ||||||||
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カマキリ(螳螂、蟷螂)は、昆虫綱・カマキリ目(蟷螂目・Mantodea)に分類される昆虫の総称。前脚が鎌状に変化し、他の小動物を捕食する肉食性の昆虫である。日本では特にその中の一種・チョウセンカマキリ Tenodera angustipennis の別名でもある。
分類法によっては、ゴキブリやシロアリなどとともに網翅目(もうしもく、Dictyoptera)に分類する方法、あるいはバッタやキリギリスなどと同じバッタ目(直翅目 Orthoptera)に分類する方法もある。この場合は、「網翅目蟷螂亜目」か「直翅目蟷螂亜目」という形で扱われる。
カマキリに似たカマキリモドキという昆虫もいるが、ウスバカゲロウ目(脈翅目)に属し、全く別の系統に分類される。
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[編集] 概要
全世界で2,000種前後といわれるが、研究者により1,800-4,000種の開きがある。特に熱帯、亜熱帯地方に種類数が多い。
体は前後に細長い。6本の脚のうち、前脚(前肢)が鎌状に変化し、多数の棘がある。頭部は逆三角形で、2つの複眼と大顎が発達する。前胸は長く、頭部と前胸の境目は柔らかく、頭部だけを広角に動かすことができる。触角は毛髪状で細長く、中脚と後脚も細長い。成虫には細長い前翅と扇形に広がる後翅があるが、多くのカマキリは飛行が苦手で、短距離を直線的に飛ぶのが精一杯である。かわりに威嚇に使う。地上性のカマキリには翅が退化したものもいて、これらは飛ぶことができない。
食性は肉食性で、おもに他の昆虫を捕食するが、大きさによってはクモや小鳥など、昆虫以外の小動物を捕食することもある。また、獲物が少ない環境では共食いすることもある。同種内ではメスの方がオスよりも大きいため、メスがオスを食べてしまうこともある(後述)。捕食の際は鎌状の前脚で獲物を捕えて抑えつけ、大顎でかじって食べる。他の昆虫を捕食することから益虫とされる場合が多いが、それぞれの環境によって、益虫を捕食してしまう場合には害虫に、害虫を捕食してくれる場合には益虫になるという両方の側面を持つ。
獲物を狙う時には、体を中脚と後脚で支え、左右の前脚を揃えて胸部につけるように折りたたむ独特の姿勢をとって、じっと動かずに待ち伏せする。獲物を捕らえるときに体を左右に動かして距離を測ることが多い。見つからないために何かに擬態した色合いや形態をしていることが多い。一般には茶色か緑色の体色で、植物の枝や細長い葉に似たものが多いが、熱帯地方ではカラフルな花びらに擬態するランカマキリや、地面の落ち葉に擬態するカレハカマキリや木の肌に擬態するコハダカマキリもいる。
前脚を持ち上げて待ち伏せする姿を祈っているようだと見て、日本では俗に拝み虫(おがみむし)とも呼ばれる。カマキリ類の学名は、ギリシャ語の名前 "mántis" に由来し、 "mántis" は、"予言者" の意味でもある。これは、英名の "mantis", "mantid" の元にもなっている。英語では、 "praying(祈る)mantis" とも呼ばれる。またさらにはその生態から、同音語の "preying(捕食する) mantis" との混乱も見られる。
なお、カマキリの体腔内に寄生する寄生虫としてハリガネムシが知られる。充分成長したハリガネムシは寄生主を水辺へと誘導し、水を感知すると産卵のためにカマキリの体内から脱出する。そのためカマキリの成虫を水で濡らすとハリガネムシが体をくねらせて姿を現すことがある。ハリガネムシが脱出したカマキリは急激に衰弱し、死ぬことが多い。平地に棲むオオカマキリにはあまり見られないが、山間地に棲むハラビロカマキリの成虫にはハリガネムシの寄生がよく見られる。
[編集] 生活史
カマキリは、卵 - 幼虫 - 成虫という不完全変態を行うグループである。
メスは交尾後に多数の卵を比較的大きな卵鞘(らんしょう)の中に産み付ける。卵鞘は卵と同時に分泌される粘液が泡立って形成され、大きさや形は種によって決まっている。1つの卵鞘には数百個前後の卵が含まれ、1頭のメスが生涯に数個程度の卵鞘を産む種が多い。卵は卵鞘内で多数の気泡に包まれ、外部の衝撃や暑さ寒さから守られる。
卵から孵化した幼虫は薄い皮をかぶった前幼虫(ぜんようちゅう)という形態で、脚や触角は全て薄皮の内側に畳まれている。前幼虫は体をくねらせながら卵鞘の外へ現れるが、外界へ出たと同時に薄皮を脱ぎ捨てる最初の脱皮を行う。
前幼虫からの脱皮を終えた幼虫は、体長数mm程度しかないことと翅がないことを除けば成虫とよく似た形態をしている。一令幼虫はまずタカラダニ、トビムシ、アブラムシなど手近な小動物を捕食するが、この段階ではアリも恐ろしい天敵の一つである。体が大きくなるとショウジョウバエなどを捕食できるようになり、天敵だったアリも逆に獲物の一つとなる。種類や環境にもよるが、幼虫は1日1匹の割合で獲物を捕食し、成虫になるまでに数回の脱皮を行う。
充分に成長した幼虫は羽化して成虫となる。成虫の寿命は数ヶ月ほどだが、この間にも獲物を捕食して卵巣など体組織の成熟をはかる。
[編集] 共食い
カマキリ類では、同じ種類でも体の小さいオスが体の大きいメスに共食いされてしまう場合がある。これがマスコミで紹介され、 "母は強い"、 "用済みのオスはいても邪魔なので処分する" などといった擬人化されたメッセージと共に、カマキリを特徴付ける現象として広まった。そのためか『かまきり夫人』のようにポルノ映画のタイトルになったりしたが、カマキリが持つこれらの特徴と人間の男性・女性のあり方についてはまったく関係がない。
共食いをしやすいかどうかの傾向は、種によって大きく異なる。極端な種においてはオスはメスに頭部を食べられた刺激で精子嚢をメスに送り込むものがあるが、ほとんどの種の雄は頭部や上半身を失っても交尾が可能なだけで、自ら進んで捕食されたりすることはない。日本産のカマキリ類ではその傾向が弱く、自然状態でメスがオスを進んで共食いすることはあまり見られない。ただし秋が深まって捕食昆虫が少なくなると、他の個体も重要な餌となってくる。
一般に報告されている共食いは飼育状態で高密度に個体が存在したり、餌が不足していた場合のものである。このような人工的な飼育環境に一般的に起こる共食いと、交尾時の共食いとが混同されがちである。交尾時の共食いも、雌が自分より小さくて動くものに飛びつくという習性に従っているにすぎないと見られる。またこのような習性はクモなど他の肉食性の虫でも見られ、特に珍しいことではない。
[編集] 分類
- カマキラズ科 Chaeteessidae - 南米に分布。名の通り鎌を持たない。
- ケンランカマキリ科 Metallyticidae
- カマキリ科 Mantidae
- ヨウカイカマキリ科 Empusidae
- Mantoididae 科
- Amorphoscelidae 科
- Eremiaphilidae 科
- ヒメカマキリ科 Hymenopodidae 科
[編集] 日本産のカマキリ
日本には、カマキリ科とヒメカマキリ科に属する2科9種が生息している。
[編集] カマキリ科 Mantidae
- オオカマキリ Tenodera aridifolia Stoll, 1813
- 体長 : オス68 - 90mm、メス75 - 95mm
- 分布 : 北海道、本州、四国、九州、対馬、日本以外では朝鮮半島、中国、東南アジア
- 日本最大のカマキリで、体色は緑色型と褐色型が知られる。チョウセンカマキリやウスバカマキリとよく似ているが、後翅の付け根を中心とした大部分が暗紫褐色なので区別できる。前脚の内側に模様がなく、左右の前脚の間の胸は目立たない淡い黄色、もしくは黄色斑紋上部縁側がエンジ色をしている。川原や林縁の草むらに生息する。
- チョウセンカマキリ Tenodera angustipennis Saussure, 1869
- 体長 : オス65 - 90mm、メス70 - 90mm
- 分布 : 本州、四国、九州、対馬、沖縄本島、日本以外では中国と朝鮮半島
- 単にカマキリとも呼ばれる。後翅の前縁部と中央にならぶ暗褐色の短いすじを特徴とする。前脚の内側に模様はなく、左右の前脚の間の胸はやまぶき色をしている。
- ウスバカマキリ Mantis religiosa Linnaeus, 1758
- 体長45 - 65mm
- 分布 : 世界各地に分布。日本でも北海道南西部以南に分布する
- 淡い緑色で、カマの内側に黒い楕円形紋がある。
- コカマキリ Statilia maculata Thunberg, 1784
- 体長オス35 - 55mm、メス46 - 63mm
- 分布 : 本州、四国、九州、対馬、日本以外では台湾など
- 小型のカマキリ。体色は褐色もしくは薄い紫褐色だが、まれに緑色や赤褐色のものがいる。前胸腹板には黒色帯があり、左右のカマの内側には2ヶ所の黒い模様がある。林縁の草むらや河川敷の草が生い茂った場所に生息しているが、地上性が強い。
- モリカマキリ Statilia memoralis Saussure, 1870
- 日本では九州に分布するが、コカマキリの緑色型の個体という説もある。
- ハラビロカマキリ Hierodula patellifera Serville, 1839
- 体長 : オス45 - 65mm、メス52 - 70mm
- 分布 : 東南アジアに広く分布する。日本では本州以南
- 通常緑色型で、前翅に白い斑点がある。鎌の前に3から5ぐらいの突起がある。他のカマキリに比べ前胸が短く、腹部は幅が広く見える。樹上性で、林縁の日当たりの良い木の上や開けた草原の樹上に生息している。
- ヒナカマキリ Amantis nawai Shiraki, 1911
- 体長 : オス12 - 15mm、メス13 - 18mm
- 分布 : 台湾、日本では本州以南
- 褐色の非常に小型のカマキリ。翅は小さくりん片状。台湾産のものには、翅が長くなる個体があるのが知られているが、日本国内では見つかっていない。胸部背面の中央にこげ茶色の縦すじがある。森林の落ち葉の上に生息する。メスが多く、オスはまれにしか見つからない。
[編集] ヒメカマキリ科 Acromantidae
- ヒメカマキリ Acromantis japonica Westwood, 1849
- 体長 : 24 - 36mm
- 分布 : 本州、四国、九州、対馬、屋久島、奄美大島
- 樹上性で小型のカマキリ。緑色型と褐色型が存在。幼虫はかなり特徴的な姿である。後翅が長くて前翅よりも後ろにはみ出し、その両側がとがる特徴がある。
- サツマヒメカマキリ Acromantis australis Saussure, 1871
- 分布 : 九州
[編集] 記録が少ない種
- ナンヨウカマキリ - 小笠原諸島に少数が存在する。
- ムナビロカマキリ - 南西諸島に分布。外観はチョウセンカマキリに近いが、卵嚢はオオカマキリに近い。チョウセンカマキリと比べるとやや腹部が太く、はねの色はより濃い褐色である。
- オキナワオオカマキリ Tenodera sp. - 奄美諸島から八重山諸島にかけて分布。外観はオオカマキリに近いが、卵嚢はチョウセンカマキリに近い。
- ヤサガタコカマキリ Statillia sp. - 前脚紋の違うコカマキリ
- スジイリコカマキリ Statillia sp. - 前脚紋の違うコカマキリ
- オガサワラカマキリ Orthodera sp. - 肩が尖った小型のカマキリ
[編集] 外国産のカマキリ
日本産と同様に草や枯葉に擬態し、緑色や茶色の体色をしたものがほとんどだが、一部には通常のカマキリとは異なる体型で、鮮やかな花や枯れ枝、落ち葉に擬態した種類が存在する。
- ランカマキリ Hymenopus coronatus Oliver, 1792
- 東南アジアに分布する。幼虫は脚の腿節が水滴型に平たく、体色もピンクや白をしている。ラン科の花に体を似せており、英名も"Orchid Praying Mantis"(ランカマキリ)と呼ばれる。擬態をしている昆虫として代表的なものである。ただし成虫になると体が前後に細長くなってカマキリらしくなり、あまり花には似なくなる。
- オオカレエダカマキリ Paratoxodera cornicollis
- 東南アジアに分布する。枯れ枝のような細長く茶色い体の所々に葉に似せた鰭状のものがついている。ドラゴンマンティスとも呼ばれる最大のカマキリ。
- カレエダカマキリ Euchomenella heteroptera De Haan, 1842
- 東南アジアに分布する。和名通り枯れ枝に似ている。気配を感じると前肢を伸ばして枯れ枝のふりをする。
- ボクサーカマキリ Acromantis gestri
- 英名"Boxer Mantis"。東南アジアに分布する。前脚のカマが円盤状になっている。
- カレハカマキリ Deroplatys sp.
- 東南アジアに分布する。前胸が左右に広がっていて落ち葉によく似ている。落ち葉に覆われた森林の地上に生息する。
[編集] カマキリのキャラクター
- 「愛の戦士レインボーマン」のカマキリサイボーグ
- 「怪獣島の決戦 ゴジラの息子」のカマキラス
- 「ヨシモトムチッ子物語」のサンマカマキリ
- 『仮面ライダーシリーズ』
- 『職業・殺し屋。』のマンティス
- 『グラップラーバキ』のカマキリ
- 「ポケットモンスター」のストライク
- 「陰陽大戦記」の白銀のチヨロズ
- 「金色のガッシュ!!」のカマキリジョー
- 「カマキリ女」(千之ナイフ)のカマキリ女
- 「ロックマンX8」のダークネイド・カマキール
- 「ゾイド」のディマンティス
- 「獣拳戦隊ゲキレンジャー」の獣人マキリカ
[編集] 寄生虫
- ハリガネムシ(針金虫)- アニサキスに近似の形態で、子供がカマキリを弄ぶ中で経口侵入することがあるが、成虫がヒトに感染することはなきに等しく(マシーンと違って生物なので成体は100%絶対に寄生しないとは言い切れないわけだが)、現にすぐに口から這い出てくる。
[編集] カマキリに関連した作品
- ドナルド・フェイゲン(スティーリー・ダン)のソロアルバム「カマキリアド」 (Kamakiriad)
[編集] 関連項目
- 蟷螂拳 - 中国拳法の一つ。伝説上の創始者が北派中国武術の技を集大成し、カマキリが蝉を捕らえるときの動きをヒントに流派を大成させたのが起こりであるという説がある。蟷螂捕蝉式という型も実際にある。
- 自転車のアップハンドルの一部はカマキリハンドルという呼び名があり、かつてブリヂストンサイクルが発売していたアルミ製の自転車の商品名になった事もある。
- カマキリは雪が積もる高さには産卵しないとされ、地面からの産卵位置によってその年の降雪量を予測する目安としていた地方もある。
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