シュトゥルモヴィーク
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シュトゥルモヴィーク(ロシア語:штурмовик シュトゥルマヴィーク;ラテン文字転写: Šturmovik、Shturmovikなど)は、ロシア圏で用いられる軍用機の機種区分の一つ。略号としてはしばしば Sh (Š;Шシャー)が用いられる。シュトルモヴィク、シュトルモビクといった表記をされる事もあるが、当記事ではシュトルモヴィークで統一する。
[編集] 概要

シュトゥルモヴィークは「攻撃機」と翻訳されることが多いが、機体によって性格が異なることもあり、「戦闘機」や「爆撃機」、あるいは「急降下爆撃機」と訳される場合もある。言語上のイメージとしては「襲撃機」という翻訳も考えられるが、こちらは日本陸軍の一部の機体にのみ用いられている名称であるため、あまり一般的ではない。こうしたことから、急降下爆撃を任務としないシュトゥルモヴィークでも「急降下爆撃機」と翻訳されるという弊害も生じている。逆に、「急降下爆撃機」(Пикирующий бомбардировщик)と呼ばれるAr-2やPe-2、Tu-2などがシュトゥルモヴィークと呼ばれることはまずない。一方、第二次世界大戦前半にソ連軍の主力対地攻撃機としてシュトゥルモヴィーク的役割を担ったSu-2は、「近接爆撃機」(ブリージュニイ・ボムバルヂローフシチク;ближний бомбардировщик;略号:ББ)または「軽爆撃偵察機」(リョーフキイ・ボムバルヂローフシチク・ラズヴィェーチク;легкий бомбардировщик-разведчик)と分類されている。また、ソ連には他に「攻撃機」(または「打撃機」;ウダールヌィイ・サモリョート;ударный самолет)や「戦闘爆撃機」(イストリェビーチェリ・ボムバルヂローフシチク;истребитель-бомбардировщик)という機種区分もある。前者は主流にはならなかったが、後者は特にジェット機時代、数多くの機体が開発・使用された。
特にIl-2を指して「シュトゥルモヴィーク」と呼ぶことがあるが、これはIl-2が最も有名なシュトゥルモヴィークであるためで、これがこの機体の固有名称というわけではない。シュトゥルモヴィークとして開発された初めの機体は、1928年2月から計画されたTSh-Bや同時期に開発され1931年に初飛行したTSh-1などで、前者は大型の単葉機、後者は小型の複葉機であった。前者は計画に終わったが、後者からはTSh-2などの発展型がいくつか製作され、1930年代中盤のSSS(R-5SSS)やDI-6Shなどの開発・配備まで使用された。
「штурмовик」という語は、一般に「襲撃する者」を意味する名詞で、ドイツ語系の名詞「штурм」(シュトゥールム:「襲撃、攻撃」の意味)から作られた動詞「штурмовать」(シュトゥルマヴァーチ:「襲撃する、攻撃する」の意味)から作られた語である。従って、ロシア語内では「攻撃機」以外により一般的な意味で使用されることも多く、航空機名としても単に「襲撃するもの」という意味で使用され始められたと考えられる。
なお、独ソ戦においてソ連兵はドイツ軍の使用した突撃砲のことも「シュトルモヴィーク」と呼んでいたと言われている。
[編集] 主なシュトゥルモヴィーク
旧ソ連圏で開発された航空機の内、シュトゥルモヴィークと分類されるものの年代順の一覧。年は初飛行が行われた年。
- TsKB TSh-1 (シュトゥルモヴィーク) 1931年
- TsKB TSh-2 (シュトゥルモヴィーク) 1931年
- TsKB ShON (シュトゥルモヴィーク) 1931年
- ツポレフ TSh-B (重シュトゥルモヴィーク)
- ミコヤーン、グリェーヴィチ TSh-3 (シュトゥルモヴィーク) 1934年
- ポリカールポフ SSS (R-5SSS) (高速軽シュトゥルモヴィーク) 1934年
- コチェーリギン、ヤーツェンコ DI-6Sh (軽シュトゥルモヴィーク) 1935年
- コチェーリギン BSh-1 (シュトゥルモヴィーク・爆撃機) 1937年
- ポリカールポフ VIT-1 (MPI-1、SVB) (対戦車攻撃機) 1937年
- グルーシン Sh-タンヂェム (シュトゥルモヴィーク) 1937年
- ポリカールポフ VIT-2 (対戦車攻撃機) 1938年
- ニェーマン HAI-51 (シュトゥルモヴィーク)
- ニェーマン HAI-52 (シュトゥルモヴィーク) 1938年
- コチェーリギン Sh (LBSh) (軽シュトゥルモヴィーク) 1939年
- スホーイ ShB (シュトゥルモヴィーク・爆撃機) 1939年
- イリユーシン BSh-2 (TsKB-55) (装甲シュトゥルモヴィーク) 1939年
- イリユーシン BSh-2 (TsKB-57) (装甲シュトゥルモヴィーク) 1940年
- イリユーシン Il-2 (重シュトゥルモヴィーク) 1940年
- ミコヤーン、グリェーヴィチ PBSh-1 (シュトゥルモヴィーク)
- スホーイ Su-6 (シュトゥルモヴィーク) 1940年
- イリユーシン Il-4 (重シュトゥルモヴィーク) 1941年
- ポリカールポフ U-2VS (多目的軽夜間爆撃機) 1941年
- ヤーコヴリェフ Yak-2 KABB (シュトゥルモヴィーク) 1941年
- トマシェーヴィチ ペガース (シュトゥルモヴィーク) 1942年
- スホーイ Su-4 (軽爆撃機・シュトゥルモヴィーク) 1942年
- ヤーコヴリェフ UT-1B (軽シュトゥルモヴィーク) 1942年
- ヤーコヴリェフ UT-2MV (軽シュトゥルモヴィーク) 1942年
- イリユーシン Il-8 (重シュトゥルモヴィーク) 1943年
- スホーイ Su-8 (重シュトゥルモヴィーク)1943年
- イリユーシン Il-10 (重シュトゥルモヴィーク) 1944年
- ツポレフ Tu-2Sh (重シュトゥルモヴィーク) 1944年
- イリユーシン Il-16 (シュトゥルモヴィーク) 1945年
- イリユーシン Il-20 (シュトゥルモヴィーク) 1948年
- イリユーシン Il-40 (シュトゥルモヴィーク) 1953年
- ミコヤーン、グリェーヴィチ SN (MiG-17SN) (シュトゥルモヴィーク) 1953年
- ミコヤーン、グリェーヴィチ MiG-15bis (ISh) (シュトゥルモヴィーク) 1959年
- ヤーコヴリェフ Yak-36 (シュトゥルモヴィーク) 1964年
- イリユーシン Il-28Sh (シュトゥルモヴィーク) 1967年
- ヤーコヴリェフ Yak-38 (シュトゥルモヴィーク) 1970年
- スホーイ Su-25グラーチュ (シュトゥルモヴィーク) 1975年
- イリユーシン Il-102 (重シュトゥルモヴィーク) 1982年
- ヤーコヴリェフ Yak-52B (軽攻撃機) 1985年
- スホーイ Su-39 (対戦車シュトゥルモヴィーク) 1993年
- MAPO MiG MiG-AT (多用途戦闘教育機) 1996年
- ヤーコヴリェフ Yak-130 (戦闘教育機) 1996年
- ROS-アエロプログリェース T-504ボリェーツ (戦闘教育機)
[編集] 関連項目
- IL-2 Sturmovik - ロシアで開発されたコンバット・フライト・シム。
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