スメルズ・ライク・ティーンスピリット
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スメルズ・ライク・ティーンスピリット | ||
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ニルヴァーナ の シングル | ||
リリース | 1991年9月10日 | |
録音 | 1991年5月 - 6月 | |
ジャンル | グランジ | |
時間 | 5 分 1 秒 | |
レーベル | ゲフィン | |
プロデュース | ブッチ・ヴィグ | |
ニルヴァーナ 年表 | ||
"Here She Comes Now/Venus in Furs" (1991) |
スメルズ・ライク・ティーンスピリット (1991) |
カム・アズ・ユー・アー (1992) |
スメルズ・ライク・ティーンスピリット(Smells Like Teenspirit)はアメリカのグランジバンドニルヴァーナの代表曲。1991年発売のアルバム『ネヴァーマインド』に収録されている。
目次 |
[編集] 概要
1991年、アルバム『ネヴァーマインド』は瞬く間にアメリカ中に知れ渡り、誰もが新たなグランジと呼ばれる新たなジャンルとニルヴァーナと呼ばれる新たなバンドに夢中になった。その成功を象徴するのが本曲である。
アルバムからシングルカットされた際にはビルボードで6位を獲得。多くの批評家からその年のベストシングルとして推挙された。またこの曲のPVはMTVビデオミュージック・アワードにおいてベストニューアーティスト賞、及びベストオルタナティブ・アーティスト賞を獲得した。 また2004年、ローリングストーン誌500 Greatest Songs of All Timeにおいて9位を獲得している。
[編集] 経緯
カート本人によれば「『ネヴァーマインド』を売り出すに当たって、ちょっとしたポップ・ソングを作ろう」と思って、「ピクシーズからリフをパクって(“Debaser”であると言われている)出来た曲」。カートは更にボストンAOR(”More than a Feeling”が似ているといわれることから)やブルーオイスター・カルト(“Godzilla”)などからも影響を受けていると冗談交じりに述懐している。
そのシンプルなリフと技術的に簡易なギターワーク、更には時代の「リアル」を反映した詩によって、たくさんの若者の支持を得た。多くの後進アーティスト達は「70~80年代のへヴィメタル、ハードロック、プログレなどのこれ見よがしでうすっぺらな音楽には飽き飽きしていたし、パンクは過激すぎてちょっとと思っていたが、ニルヴァーナの『スメルズ・ライク・ティーンスピリット』を聴いてこれならやりたい、俺達にも出来ると思った」と異口同音に証言している。
換言すればレッド・ツェッペリンやブラック・サバス、ピンク・フロイドなどに端を発する「(少なくとも普通の人には)歌えない」、「(複雑であったり難解であったりして)覚えづらい」、「(プレイするのが)難しい」、プレイヤー至上主義の従来型のロックに対して大きく唱えられた「NO」であったともいえる。
また、サミュエル・ベイヤーによるミュージックビデオは、曲の世界観を捉えた秀逸なものであり、当時のMTVの隆盛と共に一時代を築いた。2002年までにヨーロッパで最も多く流されたPVであったと言われている。
しかしながら、作曲者であるカート・コバーンはこの楽曲に愛憎半ばする思いを抱いており、前述したような発言からも明らかなように、しばしばこの楽曲を否定する発言を繰り返している。1994年、コンサートではこの曲をプレイする前次のような趣旨の発言をしている。 「契約の関係で仕方ないからこの歌を歌う。だけどこの曲は俺達の人生を、そしてシアトルを台無しにした。そして多分、お前らも」
[編集] 音楽性
『スメルズ・ライク・ティーンスピリット』のリフは90年代で最も簡単で覚えやすいリフの一つとして数えられる。乾いたトーンで奏でられるFsus4, Bb, Absus4, そしてDbと進むイントロは一度聴いたら忘れられない程のインパクトがある。
また、1弦と2弦の1フレットを交互に鳴らすだけというバッキングは、カートの意図はともかくとして詩を、特にバッキングの加速する「Hello,hello,hello,how low?(やあ、どれぐらい酷い?)」の一節を効果的にリスナーに届ける役割を果たしている。 この一節は現代の若者の心情を代弁しているとされ、大きな話題を呼んだ。
カート自身が冗談交じりに述懐しているように『スメルズ・ライク・ティーンスピリット』はポップ・ソングである。より正確にいえば、ポップソングとしての属性が強い。覚えやすいリフ、ボーカルラインをなぞったシンプルなギターソロ、口ずさみやすいメロディーライン、リフレインの多い歌詞など、一流のポップソングたる属性を多く備えている。
同時に『スメルズ・ライク・ティーンスピリット』はいわゆるパンク・ロックとも一線を画する。いわゆるパンク独特の早い曲展開や突っかかるようなリズム感は本楽曲には見られない。むしろそのリフを中心とした曲作りはハードロック的といってもよい程である。
つまり、この楽曲の優れた点は、ポップソングの「キャッチーさ」とハードロックの「勢い、わかりやすさ」、パンクの「リアルさ」を兼ね備えていた点にあると言えるであろう。
カートはインタビューなどで「パンクとは音楽的な自由のこと」と主張しており、その主義が表れた楽曲であったと言える。
[編集] 曲名の由来
「Kurt smells like Teenspirit」という落書きから由来する。カートはこのフレーズを気に入って新曲のタイトルにしたが、真相は“Teenspirit”はデオドラントの名前であり、同時に当時のカートのガールフレンドがつけていた物である。つまり、落書きの本当の意味は「カートは十代の精神を今でも持っている」という賛辞ではなく、「カートは“ティーンスピリット”の匂いがする」転じて「カートは“ティーンスピリット”をつけている誰かさんと付き合っている」という冷やかしであった。
カートは“ティーンスピリット”がデオドラントのことだとは知らなかったらしく、商業製品をタイトルに使って結果的に“ティーンスピリット”を宣伝したような形になったことを長らく悔やんでいたと言う。
当然と言うべきか、本楽曲がヒットした後しばらく“ティーンスピリット”発売もとのコルゲートは“Do you smell like teen spirit?”といったコピーで商品を宣伝していた。
[編集] 歌詞
この楽曲の詩はライブアルバムなどを聴くと明らかなように、幾つかのバージョンがある。当初のものはガールフレンドを詰ったものであったといわれており、アルバム収録のものは抑圧されたティーンの欲望を歌ったものであるとされる。
深読みすれば、いわゆる“クール”なクラスメイトに苛められたり、自意識過剰な同年代の女生徒に小馬鹿にされたりする高校生ほどの少年の心理を歌ったものと解釈できるが、カート本人は歌詞に意味はないと主張している。デイブ曰く、カートの作詞はウィリアム・S・バロウズに影響を受けており、自身の日記に記した内容をカットアップ(一部を切り取ってバラバラに繋ぎ合わせる技法)して行なっていたという。
カートによれば、「どうも皆深読みしたがるみたいだけど、ありゃ単なるゴミだよ」とのこと。
因みにボーカルにエコーがかかっている所為か、聞き間違いの多い楽曲でもある。公式の歌詞カードが存在せず、聴き取りで歌詞が起こされているため収録作品によって一部歌詞が異なる。カラオケでリクエストすると予期しない歌詞が出てきて戸惑ったりすることになるので注意が必要。
ちなみに、アンダーグラウンド志向であったニルヴァーナを、一気にオーバーグラウンドへと導いた曲であったためカートはこの曲をあまりよく思っていなく(経緯参照)、ある番組では1オクターブ下げてマイクに齧り付くように歌い、「ヤク中を撃ち殺せ」という風に歌詞を改変して歌っていた(Live Tonight Sold Out収録)。
[編集] 収録曲
以下ではシングル盤の収録曲を列挙する。
- スメルズ・ライク・ティーンスピリット"Smells Like Teen Spirit" (Cobain, Grohl, Novoselic) - 5:01
- イーブン・イン・ヒズ・ユース"Even in His Youth" (Cobain, Grohl, Novoselic) - 3:03
- アニューリズム"Aneurysm" (Cobain, Grohl, Novoselic) - 4:44
[編集] 影響と評価
1991年以降、「グランジ」は新たな若者達の音楽的・文化的キーワードになり、街にはカート・コバーンのファッションを真似た若者が溢れかえった。
現在では70年代のパンクムーブメント以来の音楽的革命であると言われ、『スメルズ・ライク・ティーンスピリット』は多くの批評家から「90年代における最重要曲」にして「ロックの歴史おける最重要曲の一つ」として挙げられる楽曲である。
ニルヴァーナ |
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カート・コバーン - クリス・ノヴォセリック - デイヴ・グロール |
オリジナルアルバム: ブリーチ - ネヴァーマインド - イン・ユーテロ |
ライブアルバム: MTV・アンプラグド・イン・ニューヨーク - フロム・ザ・マディ・バンクス・オブ・ウィシュカー |
ベストアルバム: ニルヴァーナ |
未発表&別テイク集: ホルモウニング - インセスティサイド - ウィズ・ザ・ライツ・アウト - スリヴァー |
楽曲: 「スメルズ・ライク・ティーンスピリット」 |
元メンバー: パット・スメア - アーロン・バークハード - デイル・クローバー - デイブ・フォスター - チャド・チャニング - ジェイソン・エバーマン - ダン・ピーターズ |
カテゴリ: ポピュラーソング | 1991年の楽曲 | 1991年のシングル