ソロ (音楽)
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solo(ソロ)は、音楽そのものやひとつの役割をたった一人で担当することや、そのパート、演奏者のこと。イタリア語から各言語に派生し、主に西洋音楽を念頭に用いられる語である。
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[編集] 一人とは限らない“solo”
西洋音楽とは関係なしに純粋に日本語の中においては、一人で行う対象が演奏であれば「独演」、歌唱であれば「独唱」、演技・演説であれば「独演」などと、様々な語が存在するが、主に西洋音楽に基づいた欧米語においての“solo”は、また異なった語感を持つ。
元となったイタリア語における“solo”は、音楽に使われる以前に「一人」を意味する名詞・形容詞・副詞であり、それが音楽に用いられるようになった。西洋音楽における“solo”は、基本的にイタリア語に準じており、一人の演奏者や一つの楽器が一つの役割を担当する際に、その行為や形態、パート、演奏者のことなどを広く“solo”と呼ぶ。それは、一人の演奏者だけで演奏する作品だけでなく、例えば、ピアノ伴奏付きの歌唱も、主旋律を一人で担当するという意味で“solo”であり、協奏曲における独奏楽器も、それが例えば三重協奏曲のように複数人いたとしても、独奏楽器を各一人で担当するという意味で“solo”であり、オーケストラ曲中におけるアンサンブル的な楽句においても、例えばそこにフガートがあった場合、それが仮に30声部にも及ぶものだとしても、人数にかかわらず各声部を一人ずつで担当する部分は“solo”と呼べる。すなわち、“solo”とは必ずしもたった一人で演奏するわけではなく、一つの役目(声部)を複数人で担当せずに、それをたった一人で担う形態を呼び示し、その対象は、主旋律であったり、楽曲そのものであったり、実態は様々である。
これらを踏まえ、イタリア語における“solo”に該当する日本語は様々あり、「独奏」・「独唱」・「独演」・「独奏者」・「独唱者」・「独奏声部」・「独奏曲」・「独奏楽器」などと意味は随分と広い。欧米各言語には、それぞれイタリア語から輸入されて派生していったが、フランス語でもドイツ語でも英語でも同様に、綴りは“solo”である。日本で「ソロ」と言った場合、基本的にそれはイタリア語由来とみなされるが、読みの異なるドイツ語や英語以外のフランス語ともみなされなくはない。但し、フランス語・ドイツ語・英語においては、独奏者のことを“sol(o)ist(e)”と呼ぶが、イタリア語においては奏者のことも“solo”である。しかしながら、特に音楽業界においてでは、フランスでもドイツでも英語圏でも、奏者のことを“sol(o)ist(e)”でなく“solo”と称してしまうことも恒常的であり、それは、音楽用語においてはイタリア語が共通語とみなされているということや、また各言語における“solo”はそもそもイタリア語から輸入されたものであるということに起因しているか、そうでなければ、日常的な場面で厳密ではなく漠然と使われるかのどちらかである。
ちなみに、日本語における「ソリスト」は、その発音からフランス語由来とされており、英語でもドイツ語でもない。また、各辞書で確認できるように、英語においては“solo”や“soloist”の“o”は通常、明確に[ou]と読まれる。
[編集] 欧州語における様々な“solo”の綴りと音と変化形の違い
特にイタリア語では、奏者のことも“solo”と呼び示す違いがある。ドイツ語では「ソロ」とは読まず、また、奏者については性変化を受ける点が異なる。イタリア語だけに限らず、日常的な場面や音楽業界では、これらの全ての領域において曖昧に“solo”と呼んでしまうことも間違いではない。特に日本語においては、「ソリスト」という語も浸透しているものの、イタリア語由来でこの全てに「ソロ」を適用してしまうことも日常である。
日本語 | 単複同形を採る日本語において イタリア語由来の「ソロ」として通用する意味の全領域 |
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独奏・独唱・独演・ソロ 独奏曲・独奏楽器・独奏声部 |
独奏者・独唱者・独演者 ソリスト・ソロ奏者 |
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性数変化 | 性 | 単数形 | 複数形 | 性 | 単数形 | 複数形 |
イタリア語 | 男性形 | solo [solo] |
soli [soli] |
男性形 | solo [solo] |
soli [soli] |
女性形 | sola [sola] |
sole [sole] |
女性形 | sola [sola] |
sole [sole] |
|
フランス語 | 男女共通形 | solo [sɔlo] |
solos / soli [sɔlo] / [sɔli] |
男女共通形 | soliste [sɔlistə] |
solistes [sɔlistə] |
ドイツ語 | 中性形 | solo [zoːlo] |
solos / soli [zoːloz] / [zoːli] |
男性形 | solist [zolist] |
solisten [zolistən] |
女性形 | solistin [zolistin] |
solistinen [zolistinən] |
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英語 | 男女共通形 | solo [soulou] |
solos / soli [soulouz] / [souli] |
男女共通形 | soloist [soulouist] |
soloists [soulouisʦ] |
[編集] 楽譜中における注意点
そもそも、西洋音楽における楽譜ではイタリア語が公用語とされていたため、多言語が氾濫する現代の楽譜の中においても、独奏を意図する書き込みは、イタリア語の性数変化を受ける。すなわち、フランス人がフランス語を用いて楽譜を書こうとも、ドイツ人がドイツ語を用いて楽譜を書こうとも、イギリス人が英語を用いて楽譜を書こうとも、基本的な楽語は伝統的にイタリア語が踏襲されているため、仮に楽器名がフランス語表記であっても、5線中に“solo”と書き込む場合にはイタリア語の扱いを受ける。実際に、多くのドイツ語を楽譜に書き込んだシェーンベルクの総譜を見ても、イタリア語の法則が厳密に踏襲されている。
例えば、オーケストラの総譜の中で、フルート1人がオーケストラの全休の中で独奏を繰り広げる楽句があれば、フルートパートに“solo”と書き込む。仮に3管編成のオーケストラで通常のフルートが3人いれば、フルートの段に“solo”と書かない限り、3人のフルートがユニゾンで演奏することとなる。また、例えばクラリネット2人がオーケストラの伴奏と共に別々の独奏を掛け合う楽句があれば、独奏が2人いるため、そこに書き込む指示は複数形となり、“soli”と書き込む。ヴァイオリン協奏曲の総譜であれば、独奏のパート名には“violino solo”と書いて、そのパートが独奏であることをあえて指示しておく。
[編集] “solo”と書き込めるパート――楽器名がイタリア語において男性名詞の場合
通常は、独奏・独唱が単数形ならば“solo”、複数形ならば“soli”と書かれることになる。この性数変化は、記譜がイタリア語以外を主としていたとしても、楽語としてイタリア語の法則に従うこととなる。パートの楽器名がイタリア語以外であっても、イタリア語における楽器名が男性名詞であるか女性名詞であるかによって、楽語の性変化がパートに異なって反映される。
[編集] “solo”と書き込んではいけないパート――楽器名がイタリア語において女性名詞の場合
楽器名がイタリア語において女性名詞であるパートでは、独奏・独唱が単数形ならば“sola”、複数形ならば“sole”と書かれることになる。イタリア語においてほとんどの楽器名は男性名詞であるため、実際には、女性名詞である以下の楽器さえ知っていれば間違うことはない。
イタリア語における楽器名が男性名詞のパート中に指示する独奏 | イタリア語における楽器名が女性名詞のパート中に指示する独奏 | |||
同一五線中に独奏が一人の場合 | 同一五線中に独奏が複数人の場合 | 同一五線中に独奏が一人の場合 | 同一五線中に独奏が複数人の場合 | |
solo | soli | sola | sole | |
対 象 楽 器 |
右記以外の全てのパート ※チェレスタは女性名詞扱いではない |
トランペット テューバ ヴィオラ ハープ |
[編集] 独唱曲
西洋音楽において、“solo”のための独唱曲は以下の二つに大きく分けられる。
- 歌曲:作品そのものを単独で演奏することが前提に作曲された歌曲で、その多くがピアノやオーケストラで伴奏され、無伴奏のことはほとんどない。また、組曲形式の歌曲を連作歌曲という。
- 大規模な作品中に含まれる独唱曲:オペラやオラトリオなど、複数の曲が組み合わせられて構成している大規模な歌曲には、様々な形態が多彩に組み立てられているが、その一部に含まれる独唱曲は多くがアリアと呼ばれる。そこでは、歌い手が一人であるがゆえに聴き手の意識は一点に集中し、登場人物の心情などを強く訴えかける見せ場となることが多い。基本的に、旋律らしいゆるやかなテンポや振る舞いでじっくりと聴かせる。