タナトス
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タナトス(Θάνατος, Tanatos, Thanatos)は ギリシア神話に登場する、死そのものを神格化した神。
ニュクス (夜)の息子でヒュプノス (眠り)の兄弟。抽象的な存在で、古くはその容姿や性格は希薄だった。ただ、神統記では、鉄の心臓と青銅の心を持つ非情の神で、ヒュプノスと共に大地の遥か下方のタルタロスの領域に館を構えているという。
しかしホメロスは、タナトスとヒュプノスの兄弟が英雄サルペドンの亡骸を トロイアからリュキアへと運ぶ物語を述べ、初めてタナトスは人格神として描かれた。 さらに後世の神話では、臨終を迎えんとする人の魂を奪い去って行く死神として描かれる様になる。 英雄の魂はヘルメスが冥府に運び、凡人の魂はタナトスが冥界へ運ぶともされる。
また、王妃アルケスティスの魂を運ぼうとしてヘラクレスに奪い返された話や、 冥府に運ぶはずのシシュポスに騙されて取り押さえられ、それから しばらく人が死ねなくなった話なども伝えられている。
一説にはレテと兄弟であるとも言われる。 また、ヒュプノスとタナトスの兄弟のモチーフは、ドイツではザントマンとその弟の死神として結実する。
フロイトの用語でも用いられ、神話でのタナトスの役割同様に、攻撃や自己破壊に傾向する死の本能を表す。