ツシマヤマネコ
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ツシマヤマネコ | ||||||||||||
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絶滅危惧IA類(CR)(環境省レッドリスト) |
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分類 | ||||||||||||
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亜科~亜種 | ||||||||||||
ネコ亜科 Felinae |
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英名 | ||||||||||||
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ツシマヤマネコは、ネコ目(食肉目)ネコ科に属する哺乳動物の一種。 最近は、南~東南アジアに分布するベンガルヤマネコ Prionailurus bengalensis(または Felis bengalensis)の亜種として位置づけられ、学名は P.b.euptilura (または F.b.euptilura)とされる。日本では対馬北部(長崎県)にのみ棲息する。
目次 |
[編集] 狭義のツシマヤマネコ
ツシマヤマネコは、モンゴル、中国北部、朝鮮半島、済州島、対馬に分布する。これだけ広い範囲に分布する動物を、対馬という小さな分布域で代表させた名で呼ぶのは、必ずしも適切ではないとの考えから、「チョウセンヤマネコ」または「マンシュウヤマネコ」 F. b. manchurica と呼ぶこともある。その場合、これらのヤマネコのうち、対馬に生息するものを特に「ツシマヤマネコ」と呼ぶことになるが、これはベンガルヤマネコの亜種であるチョウセンヤマネコの、さらにその下位のグループということになるので、変種の扱いとなる。以下、特にこの狭義のツシマヤマネコについて記す。
[編集] 特徴
- 体長:50~60cm
- 体重:3~5kg
- 寿命:8~10年
- 生息数:80~110頭(2000年代前半)
[編集] 絶滅に瀕するツシマヤマネコ
日本に分布するネコ類は、イエネコを除けば、対馬のツシマヤマネコと、西表島のイリオモテヤマネコの2種のヤマネコのみである。このうち、ツシマヤマネコは、1960年代に劇的に発見されてマスコミなどで注目を集めたイリオモテヤマネコほど知られていないが、同様に絶滅が危惧される希少動物である。1994年、環境庁(当時)によって「国内希少野生動植物種」に指定されているが、現在哺乳類でこれに指定されているものは、長らくイリオモテヤマネコとツシマヤマネコの2種しかなかった(2004年にダイトウオオコウモリとアマミノクロウサギが指定され、4種となった)。イリオモテヤマネコ Felis iriomotensis が絶滅危惧IB類(EN)(環境省レッドリスト)
- とされるのに対して、ツシマヤマネコ Felis bengalensis euptilura は、最も深刻な絶滅危惧IA類(CR)(環境省レッドリスト)
- に指定されている。1971年に国の天然記念物に指定されているが(学名は旧来のまま)、なぜかイリオモテヤマネコのような特別天然記念物への指定は未だ受けていない。
かつては、単に「山猫」と言えば、それは(野猫を指すことも多かったが、その場合を除けば)特にツシマヤマネコのことであった。「猿」と言えばニホンザル、「狐」と言えばアカギツネを意味したのと同様である。古くは200年ほど前の文献に「山猫」として記述されており、1902年ごろまでは、対馬全域に普通に生息していたと言われる。毛皮は利用価値が低かったが、肉は美味であり、島にはもっぱらヤマネコを狩る猟師も存在した。しかし、本州から猟犬が導入されると、ツシマヤマネコの数は激減したという。
それでも、1945年ごろまでは、山奥にはまだかなりの数が生息しており、山に入れば必ず目撃されたと言われている。しかしその後、森林の伐採による営巣地の破壊に加え、本来の植生である温帯照葉樹林や混合林の伐採された跡には、針葉樹の植林が進められたことや、山間部の耕作地の放棄が進んだこともあって、食物となるネズミや野鳥などの小動物が減少してしまった。しかも、対馬にはツシマテンやチョウセンイタチといった競合動物が多く、これらの動物はツシマヤマネコよりも雑食性が強いために、開発が進んだ環境にも強い。除鼠剤や農薬の使用がさらに追い討ちをかけ、最近ではノネコ、ノイヌの増加が、ツシマヤマネコの生存環境をますます圧迫しているという。1996年には、ノネコから感染したと思われるFIV感染症(いわゆるネコエイズ)のツシマヤマネコが発見されている。また、ニワトリ小屋をノネコなどの被害から守るために農家が設置した罠によりケガをする個体が相次いでいる。 近年では開発が遅れていた北部でも道路整備が進んだことで、交通事故により死傷するツシマヤマネコも増加している。このような悪条件のもと、1970年代以前には約300頭、1980年代には100~140頭と推定されていたツシマヤマネコは、1990年代の調査では、90~130頭、2000年代前半の調査では、80~110頭にまで減少している。現在では、島の南部では見かけられなくなってしまった。
福岡市動物園では、ツシマヤマネコの人工繁殖が試みられており、2000年と2001年にそれぞれ1頭の子ネコが誕生している。その後も同園では多くの子ネコが誕生し、飼育されている。2004年3月から年をとって野性にも返せないし繁殖もできないオス、メスそれぞれ1頭を一般公開している。
環境省は2006年9月、飼育を分散し繁殖をめざすことにした[1]。新たに井の頭自然文化園及びよこはま動物園にオス、メス一頭づつを移送し飼育し繁殖を試みる。分散飼育の目的は危険の分散、遺伝的多様性の維持である。
2004年10月には、インターネットのオークションにツシマヤマネコの剥製を出品した男性と、これを落札して譲り受けた中学生とその父親が、種の保存法違反容疑で、長崎県警から長崎地検に書類送検されている。
種の保存法は、絶滅の恐れのある野生動植物の個体や剥製を販売目的で陳列したり、譲渡・譲り受けすることを禁じている。
[編集] 保護の歴史
- 1949年 非狩猟鳥獣に指定され、狩猟禁止。
- 1971年 国の天然記念物に指定。
- 1989年 国設伊奈鳥獣保護区設定、保護事業開始(長崎県に委託)。
- 1991年 環境庁「レッドデータブック」に「絶滅危惧」として記載。
- 1993年 「ツシマヤマネコを守る会」結成。
- 1994年 種の保存法(1992年)に基づき、「国内希少野生動植物種」に指定。94?~96年度、「ツシマヤマネコ第二次生息特別調査」実施(環境庁が長崎県に委託)。
- 1995年 「ツシマヤマネコ保護増殖事業計画」告示。環境庁・林野庁ともに事業開始。
- 1996年 FIV(通称ネコエイズ)感染個体が発見される。
- 1997年 上県郡上県町(現在の対馬市上県町)に「対馬野生生物保護センター」開所。「ツシマヤマネコ第二次生息特別調査」調査結果発表。
- 1998年 「ツシマヤマネコ保護増殖事業連絡協議会」設置。環境庁の新レッドリストにおいて絶滅危惧IA類(CR)(環境省レッドリスト)
- 2000年 福岡市動物園において初の子ネコ(メス)が誕生。
- 2001年 福岡市動物園において2匹目の子ネコが誕生。
- 2003年 対馬野生生物保護センターにおいてFIV感染個体(愛称・つしまるくん)の一般公開開始。
現在、国設鳥獣保護区の設置など生息地の保全措置、地元自治体やNGOによる保護啓発活動、将来の再導入を視野に入れた飼育下繁殖が試みられている。