リシュリュー級戦艦
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
リシュリュー級戦艦 (—きゅう せんかん、Richelieu class battleship)とはフランス海軍が建造した戦艦。第二次世界大戦中は完成しないまま、各国軍と戦闘を交えた。
目次 |
[編集] 概要
ダンケルク級戦艦により、近代戦艦を獲得したフランスだったが、地中海での仮想敵であるイタリアが旧式弩級戦艦4隻の近代化改装と平行して、「15インチ砲搭載高速戦艦」(後のヴィットリオ・ヴェネト級)の建造を開始し、ドイツも「26,500トン型巡洋戦艦」(後のシャルンホルスト級巡洋戦艦)に続いてビスマルク級戦艦の建造に踏み切ったため、条約明けを見越して前級の拡大発展版である本級の設計・建造に踏み切った。
艦の形状はダンケルク級と同様に主砲塔を艦中央部に集中しており、4連装砲塔を間隔を空けて装備し、間に補助機械室を配置して主砲塔被弾損傷時の被害拡大を防ぐ構造にしたのも同様だが、ダンケルク級を運用した経験に基づき、不具合を改良した。
- 副砲の両用砲を廃止し、対軽艦艇用砲と高角砲に分ける
- 水上機格納庫が副砲の射界を狭めるために副砲の位置を変更。
また、列強に先駆けて煙突にMACを取り入れ、後檣の機能と合体させた点は今日でも評価できる。主砲口径は「1931年型正33cm(52口径)砲」から発展した「1935年型正38cm(45口径)砲」に拡大されている。また艦後部にはラ・ガリソニエール級軽巡洋艦にも採用された「1930年型15.2cm(52口径)砲」を3連装副砲塔を三角形状に配置し、「1930年型10cm(45口径)砲」連装砲塔に納め、片舷3基ずつ計6基12門を搭載した。
1935年度計画艦として、建造はネームシップである「リシュリュー」が1935年に、クールベ級の艦から名前を引き継いだ2番艦「ジャン・バール」が1936年から建造が開始されたが、1940年にフランスがドイツに降伏するまでにどちらも竣工できず部分的に未完成なまま、両艦共に本国から脱出、「リシュリュー」はダカールにてヴィシー・フランス海軍として英国艦隊と戦い(ダカール沖海戦)、撃退しつつも航空攻撃により大破。結局、自由フランス海軍に編入されてアメリカ本土ニューヨークにて完工するために回航された。
「ジャン・バール」はトーチ作戦(北西アフリカ上陸作戦)のカサブランカ制圧部隊に所属する米戦艦 「マサチューセッツ」と交戦した。この時、「ジャン・バール」は艦船用測距儀を未搭載のため、急遽測量用の簡易測量機を用いて戦闘を行ったにも拘らず、都合四発の命中弾を与えて「マサチューセッツ」を中破させた。思わぬ敵の抵抗に業を煮やしたアメリカ海軍は爆撃機を出撃させ、見事「ジャン・バール」の艦首と桟橋の間に爆弾を落とし水線下に大破口を開けた。「ジャン・バール」は水兵を陸戦部隊に回したため応急処置が足らず、着底してしまう。同時に砲撃により電気系統に障害を受けたため、射撃・戦闘不能となってしまい、奇妙な海戦は終った。その後、主砲塔を僚艦リシュリューに譲り渡した後は終戦まで修理が行われることはなく、終戦後に母国フランスにて完工して「世界で最初と最後に戦艦を作った国」として歴史の一頁を飾った。
1938年度計画艦として、3番艦「クレマンソー」は1939年に起工したが、1940年7月にブレスト港に侵攻してきたドイツ軍に捕獲された。ドイツ軍は本艦が使用していた乾ドックを空けるために工事を進めると同時に構造をくまなく調べ、やがて自国の造艦技術は隣国の二十年前のレベルだったことを知って驚愕した。1943年にハルクとして進水した後、軽火器を載せて港湾の防空砲台として1944年8月に連合軍機に撃沈されるまで母港を守った。
4番艦「ガスコーニュ」は未起工に終わった。クレマンソーは後部の副砲配置が艦橋と煙突の間の両弦に1基ずつ、艦尾に背負式2基に改められており、ガスコーニュはさらに主砲の配置を前後に1基ずつに改められる予定であった。
[編集] 同型艦
- リシュリュー
- ジャン・バール(Jean Bart)
- クレマンソー(Clemenceau)
- ガスコーニュ(Gascogne/未起工)
[編集] 要目
()内はジャン・バール
- 水線長:242m
- 全長:247.8m
- 全幅:33m(35.5m)
- 吃水:9.6~10.7m(9.2~9.9m)
- 基準排水量:35,560トン(42,806トン)
- 常備排水量:43,293トン(46,500トン)
- 満載排水量:47,548トン(49,850トン)
- 兵装:38cm(45口径)4連装砲2基、15.2cm(52口径)3連装砲塔3基、10cm(45口径)連装砲6基、37mm(60口径)連装機関砲4基、13.2mm連装機銃16基
- 機関:重油専焼缶6基+パーソンズ式タービン4基4軸推進
- 最大出力:150,000hp
- 最大速力30ノット(公試時32ノット)
- 装甲
- 舷側装甲:330mm~152mm
- 甲板装甲:150mm+40mm(機関部)、170mm+40mm(主砲火薬庫)、150mm+50mm(副砲火薬庫)
- 主砲塔装甲: 430mm(前盾)、300mm(側盾)、250mm(後盾)、195mm(天蓋)、パーペット部:405mm
- 副砲塔装甲: 110mm(前盾)、-mm(側盾)、-mm(後盾)、70mm(天蓋)、パーペット部:100mm
- 司令塔:350mm
- 航空兵装:ロアール・ニューポール水上機3機
- 乗員1,550~1,670名(2,134名)