ロボカップ
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ロボカップ(RoboCup)は、ロボットと人工知能の新しい標準問題「2050年、人型ロボットでワールドカップ・チャンピオンに勝つ」を設定し、その研究過程で生まれる科学技術を世界に還元する事を目標としている。
競技会場、メディアを通した一般への認知としては、高度なロボットコンテストに見えるが、そのエンターテイメント性にも意味があり、50年に渡り数世代に及ぶ研究課題として次世代を担う子供たちに科学技術の興奮と素晴らしさを伝えている。
ソニーCSLの北野宏明や大阪大学の浅田稔、電総研の松原仁(現:公立はこだて未来大学)ら日本の研究者が提唱して1993年に提案され、 1995年にスペシャルセッション、1996年にプレ大会、1997年より第1回として毎年開催される。
積極的な国では初夏に国単位の国内大会が開かれ、7月頃に世界大会が開かれる。 日本では、5月のゴールデンウィーク中にRoboCupジャパンオープンが開かれる。
4年に1度の人間のワールドカップの年には、ワールドカップ開催国で世界大会が開かれる。
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[編集] ロボカップ標準問題
ロボカップが提唱するロボットと人工知能の新しい標準問題として以下の一節が良く使われる。
By 2050, develop a team of fully autonomous humanoid robots that can win against the human world champion team in soccer. 「西暦2050年、サッカーの世界チャンピオンチームに勝てる自律型ロボットチームを作る」
[編集] 競技とシンポジウムの意義
ロボット工学の研究において、人工知能から機械へと必要とされる要素技術が多く、再現性の不確かなシステムに陥りやすい問題がある。 理論と現実の関連性の確保が難しく、誤れば研究の信頼性の問題となる。 ロボカップは、一般にはロボット競技が注目されているが、競技で実証した研究をシンポジウムで発表する事、実物を前に研究者が交流を持つ事に大きな意味がある。 競技だけでは従来のロボットコンテストであり、シンポジウムだけでは従来のシンポジウムである。
[編集] ロボカップサッカー
[編集] シミュレーションリーグ
外見上は、サッカーのコンピューターゲームに見える。 コンピューター画面上に11対11の人工知能の選手達が戦う。
外見は見慣れたサッカーゲームだが、見えない部分で内容は大きく異なる。
コンピューターゲームとしてのサッカーは、1つのプログラムがすべての状況を知って、棋士が将棋を打つように考えて戦う。フォーメーションやチームワークを持たせることが容易だ。
シミュレーションリーグは、現実の体を持たないロボットとして動作する。
これは、それぞれの選手が独立したプログラムで、仲間が何を考えているかは分からない。見えるのは首の向いた方向だけ、見えたボールや選手の位置も意図的に誤差を含めて、蹴ったボールも正確には飛ばない。声に相当する通信も少ない情報のみで届くことすら保障されていない。
不完全な情報、不完全な結果、予測できない仲間。これらの状況は人工知能の重大な問題を豊富に含んでおり、優秀な論文を最も多く生んでいる。
サッカーとしても、ゲームの質が最も高い。
1996年のロボカップ・プレ大会から始まる最も古いリーグ。
[編集] 小型ロボットリーグ
卓球台の約5倍のフィールドで1チーム5台の車両型(直径18cm以内)ロボットで戦う。 フィールド上空(天井)に、フィールドを見渡すカメラが設置され、 その画像を元に、チームのコンピュータがロボットに指示を出して戦う。 集約型システムのロボットとして、素晴らしい速度とフォーメーションで戦う。
5台のロボットを5人の人間がラジコン操作で勝負をしても勝つことはもはや不可能。
[編集] 中型ロボットリーグ
12×8mのフィールドで6台までの自律移動型ロボット(直径50cm以内)チーム同士で競技する。 小型ロボットリーグと大きく異なる点は、ロボットが完全に自律している点である。 カメラ等の搭載センサのみで環境を認識し、その情報を用い判断・行動している。 フォーメーションやチームプレイの難易度が高い。
人間がラジコン操作するロボットと互角なレベルに達しつつある。
近年、ループシュート(ボールが宙に浮くシュート)を打つロボットが現れた。
[編集] 四足ロボットリーグ
2.7m×4.2mのフィールドで1チーム4匹のAIBO(SONYの愛玩ロボット)で戦う。 ERS-110系を使用していた当初は特殊仕様のAIBOだった。 狭い視野角、低い機動力、シュート困難な短い足…。 これらのハード的な不利はソフト的な工夫で克服され、次第に素晴らしいプレイを見せられるようになった。 愛くるしい外見と多彩な表現力で、ゲームの合間や勝敗で楽しいモーションで和ませてくれるのも特徴だ。
狭い視野角は、低い姿勢で首を振って走査する。低い機動力には肘突き匍匐前進歩行。弱いシュートはボールにボディーでダイブで弾き出すシュートなどの新技で改善された。
AIBOの進化に合わせて機種変更がされてきた(ERS-110系→ERS-210→ERS-7)。2006年3月にAIBOシリーズの販売が終了したので、リーグ存続が危ぶまれている。
[編集] ヒューマノイドリーグ
2002年の世界大会から正式種目となった完全に独立した人型ロボットで戦う。 各リーグの困難な部分を集めて、それだけでも困難な歩行ロボットに実行させる最も過酷なリーグ。 2050年の目標へ向かうリーグであるが、現在においても客観的にサッカーをゲームとして運用するに至っていない。 ルールについても、各チームのロボットの状態に合わせて出来る競技をしている。
概ねの水準は以下のとおり。各年の最優秀のロボットは以下の例より優れている。
- 2002年:歩けないのが普通。特に優秀だと歩いてボールを蹴れる。多くが外部システムや電源に頼る。
- 2003年:優秀なロボットは歩く。特に優秀だとボールを蹴れる。
- 2004年:優秀なロボットはボールを蹴れる。特に優秀だとボールを見つけて蹴れる。
- 2005年:優秀なロボットはボールを見つけて蹴れる。特に優秀だと状況判断で機動する。
- 2006年:2対2のゲームが成立し始めた?
[編集] ロボカップレスキュー
1995年の阪神大震災の経験から始まったリーグ。
[編集] ロボカップレスキュー・シミュレーションリーグ
ロボカップジャパンオープン2001(福岡、2001年4月)およびロボフェスタ関西2001(大阪、2001年7月)を経て、2001年の世界大会から加わった。コンピュータ上の市街地の地図上に家屋、人、自動車、道路・・あらゆる人、物、事象をシミュレーションし、大規模災害の対応を研究するリーグ。 地球シミュレーターであらゆる地球環境・気象を研究するように、災害のあらゆる事象を研究する。具体的には、震災発生後、火災延焼などが進行するシミュレータプログラムが用意され、競技参加チームは救助隊・消防隊・警察隊・市民など個々に対応するエージェントと呼ばれるプログラムを作成することにより災害軽減化を目指す。競技開始前に被災地の状態は与えられていないので、各エージェントプログラムは自ら情報収集を行い、消火、舗装、救助活動を自らの判断で行う。競技の実況は2次元マップ、3次元マップ上に表示され、シミュレータ内で起こっている事象を実況中継するプログラムなどにより競技の様子を知る事ができる。 学生がシミュレーションで見つけた消火の最適解を消防士に話したら消防のマニュアルどおりだったというエピソードがある。地理情報システム(GIS)に含まれる建物には、建築年代、建築様式のみならず家族構成などの情報も含まれている。
[編集] ロボカップレスキュー・ロボットリーグ
2001年の世界大会から加わった。 レスキューロボットによる実物大の仮設の災害現場で災害救助活動の速度と精度を競うリーグ。 具体的には、フィールドから離れた場所に隔離されたロボット操縦者が遠隔操作によりレスキューロボットを操縦し、 フィールド内に複数置かれた「ビクティム」と呼ばれる被災者を模した人形(マネキン)を探索する競技である。 ビクティムの探索は、カメラによる画像のみによる視認だけでは有効ではなく、 温度センサや二酸化炭素センサなど複数のセンサの併用によって確認しなければならない。 また、その発見したビクティムの状態および置かれた位置についての情報の正確さが評価される。 競技で使われるビクティムは、赤ん坊型や成人男性型や成人女性型がある他、腕だけのもの、足だけのものがあり、 その一部に指先あるいは腕が動くものがある。 また、二酸化炭素や体温を発するもの、声や叩く音(タップ音)を発するものなどがある。 状態としては、身体全部が見えるもの、一部が隠れているもの、瓦礫に埋もれているものなどがある。 採点方法は複雑で小数点以下数桁が含まれる点数となりわかりにくいが、操縦者が少ないほど、発見したビクティムが多いほど点数が大きくなる仕組みになっている。
[編集] ロボカップジュニア
子供たちを対象とした、次世代のロボット開発者を育てるリーグ。教育とホームエンターテイメント向けのロボカップ。教材開発や、科学技術教育手法の研究を推進することも、ロボカップジュニアの活動の1つ。
[編集] サッカーチャレンジ
改造可能な市販ロボット等を使って1対1、2対2のサッカー競技を行う。ロボット単体の性能や、チームプレイを競う。 現在日本国内では、交流の機会が少なくなるとの理由から1対1は行われていない。
[編集] ダンスチャレンジ
子供達が製作したロボットによる自由演技ベースのダンスパフォーマンス競技。ロボットの動きだけでなく、全体のプレゼンテーション力も評価される。
[編集] レスキューチャレンジ
ロボットに決められたコースを辿らせて、早く確実に被災者を発見していくという競技。
[編集] ロボカップ@ホーム
[編集] 組織
ロボカップは、スイスにあるロボカップ国際委員会(The RoboCup Federation)を中心に各国の委員会が運営している。
ロボカップ国際委員会本部はスイスに登記されたNPO法人。
ロボカップ日本委員会(日本の委員会)は、NPO法人法の施行直後の1999年12月13日に、NPO法人として東京都の登記法人に登録。
各国の委員会は、以下の通り。 ドイツ、オランダ、イタリア、ポルトガル、スカンジナビア(スウェーデン)、オーストリア、アメリカ、ラテンアメリカ(ブラジル)、シンガポール、中国、日本、イラン。
[編集] 歴史
- 1993年 ソニーCSLの北野宏明や大阪大学の浅田稔、電総研の松原仁(現:公立はこだて未来大学)ら、日本の研究者がRoboCupを提案。
- 1995年 Special Session on RoboCup (JSAI AI-Symposium 95 シンポジウム)
- 1996年 Pre-RoboCup 96 Osaka (IROS-96でのテスト大会 実機リーグとシミュレーションリーグ)
- 1997年 RoboCup 97 Nagoya(第1回世界大会、日本:名古屋)【10ヶ国40チーム参加】
- 1998年 RoboCup 98 Paris(第2回世界大会、フランス:パリ)【20ヶ国63チーム参加】
- 1999年 RoboCup 99 Stockholm(第3回世界大会、スウェーデン:ストックホルム【35ヶ国120チーム参加】
- 2000年 RoboCup 2000 Melbourne (第4回世界大会、オーストラリア:メルボルン)【19ヶ国110チーム参加】
- 2001年 RoboCup 2001 Seattle(第5回世界大会、アメリカ:シアトル)【22ヶ国119チーム参加】
- 2002年 RoboCup 2002 Fukuoka / Busan(第6回世界大会、日本・韓国:福岡・釜山)【29ヶ国188チーム参加】
- 2003年 RoboCup 2003 Padua(第7回世界大会、イタリア:パドヴァ)【34ヶ国277チーム参加】
- 2004年 RoboCup 2004 Lisbon(第8回世界大会、ポルトガル:リスボン)【37ヶ国346チーム参加】
- 2005年 RoboCup 2005 Osaka(第9回世界大会、日本:大阪)【31ヶ国330チーム参加】
- 2006年 RoboCup 2006 Bremen(第10回世界大会、ドイツ:ブレーメン) 【 - 】
- 2007年 RoboCup 2007 Atlanta(第11回世界大会、アメリカ:アトランタ) 予定
- 2008年 RoboCup 2008 Sosyu(第12回世界大会、中国:蘇州) 予定
[編集] 関連項目
- 浅田稔
- 北野宏明
- 石黒浩
- 松原仁 (情報工学者)
[編集] 外部リンク
- ロボカップ2006ブレーメン・ドイツ大会公式サイト
- ロボカップ2005大阪大会公式サイト
- ロボカップ2004リスボン・ポルトガル大会公式サイト
- ロボカップ2003パドヴァ・イタリア大会公式サイト
- ロボカップ2002福岡/釜山大会公式サイト
- ロボカップ2001シアトル・アメリカ大会公式サイト