博士
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博士(はくし、はかせ)
- 日本や中国の朝廷などで、学術研究などの分野で仕えた文官の職名。文章博士など。発音は「はかせ」。
- 学位の最高位(学位#博士の学位参照)。ドクターのこと。俗に「はかせ」というが、正式には「はくし」という。博士課程に在籍して学位論文を合格、無事修了した者に授与される課程博士と、在学しないまま学位審査に及び合格した者に授与される論文博士がある。また、名誉学位としての名誉博士なども存在する。外交儀礼上、各国政府要人等が博士号取得者である場合、官名の後に博士閣下と敬称する事例が見受けられる。
- 法科大学院にて授与される専門職学位の名称。法務博士(専門職)という。法務博士号はいわゆる学術上の学位における博士とは異なり、学術上の評価としては修士に相当するが、あくまで法律家など実務上の能力における評価としての学位であって、既存の学位が評価する研究職としての能力を認定するものではないとする意見がアジア、特に日本において根強く存在するが、これらは学歴コンプレックスの一つであり、欧米においては通常の職業博士(医学博士、教育学博士等)として同列に扱われている。
- 市民カレッジで授与する称号。市民博士。
- 博識の人物、または特定の分野に対する知識が常人以上である人物に対する愛称。「中村君は虫博士」。
- 日本のタレント、水道橋博士。
- 上記1~5のような設定で物語等に登場する架空の人物の通称。
- 楽譜の一種。声明や雅楽の記譜法。西洋のネウマ譜に相当する。
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[編集] 博士号とは
博士の学位は、国際的には主にDoctor(ドクター)と訳され、国によって多少の差異はあるものの基本的に学位の最高峰として位置づけられている。
日本においては、明治20年(1887年)5月21日、勅令第13号学位令が公布せられ、同令第1条により、博士と大博士の二等の学位が定められ、第2条により法学博士、医学博士、工学博士、文学博士、理学博士の五種が定められた。さらに、第3条により、博士学位は大学院の定規試験を通過した者に、帝国大学評議会の許しを得て、授与された。後、大正3年(1914年)、勅令第200号として改正学位令が公布され、同令第1条により、学位は博士に統一され、学位の種類は文部大臣の定めるところとなった。同令では、学位授与の規定がより具体的に規定されるとともに、第10条により、学位の栄誉を汚辱した者にはこれを剥奪する、懲罰規定が盛り込まれるなどより詳細な規定が整備された。
今日の学位制度における博士の学位は昭和22年(1947年)の学校教育法の制定により整備されたものである。昭和28年(1953年)、学位規則が制定され、新たな学位として修士の学位が加わり、学位は博士と修士の二等となった。平成3年(1991年)改正学校教育法により、学位は博士、修士に加え学士の三等とされ、それまで専攻分野を冠した学位名称だったものを、すべて博士、修士、学士に統一し、その代わりとして、博士 (医学)というように学位の後に専攻名を括弧付きで併記することとされた。同年には、今日の独立行政法人 大学評価・学位授与機構の前身となる学位授与機構が発足し、大学校などで大学院博士課程の修了に相当する、教育課程をへた者に対する博士の学位授与は当該大学校及び学位授与機構の審査を経た者に授与されることととなった。2000年、学位授与機構は、大学評価・学位授与機構に改組され、それまでの学位事業は同機構に承継された。これによって今日の学位制度が整えられた。
現在、博士の学位については、学校教育法第67条、第68条の2において大学院を修了した者に博士または修士の学位が授与されることとされ、第68条2の2に前項の規定により博士の学位を授与された者と同等以上の学力があると認めるの者に対し、博士の学位を授与することができるとされている。さらに、学位規則第4条において、大学院博士課程を修了した者に博士の学位を授与することが規定されており、同条の2では大学院の行う博士論文の審査に合格し、かつ、大学院の博士課程を修了した者と同等以上の学力を有することを確認された者に対し博士の学位の授与を行うことができると規定されている。また、学校教育法第68条の2第4項第2号及び学位規則第6条の2において大学院(博士課程)に相当する教育を修了し、大学評価・学位授与機構の審査を合格した者に博士の学位を授与することとされている。
ちなみに平成15年以降、専門職大学院の1種である法科大学院において、法務博士 (専門職)の学位が新設されたが、これは通常の博士号ではなく、専門職学位であるとする意見があるが、これはアジアやアフリカなどの地域でよく見られる意見であり、欧米においては「職業博士」として、(医学博士、法務博士等)同列に扱われている。
[編集] 博士号の種類
米国では、学術による(専門博士でない)博士は、伝統的にDoctor of Philosophyの学位を得るが、MITのようにDoctor of Scienceを選択できるところもある。米国内では、以下の名称がある。日本語の訳は意訳であり、参考までにとどめて欲しい。
なお、Doctor of Philosophyは、Ph.D.と略される。
- 医学博士(英Doctor of Philosophy in Medicine)
- 薬学博士(英Doctor of Philosophy in Pharmacology)
- 歯学博士(英Doctor of Philosophy in Medical Dentistry)
- 獣医学博士(英Doctor of Philosophy in Veterinary Science)
- 理学博士(英Doctor of Philosophy in Science)
- 農学博士(英Doctor of Philosophy in Agriculture)
- 工学博士(英Doctor of Philosophy in Engineering)
- 文学博士(英Doctor of Philosophy in Literature)
- 言語学博士(英Doctor of Philosophy in Linguistics)
- 経営学博士(英Doctor of Philosophy in Business Administration)
- 政治学博士(英Doctor of Philosophy in Political Science)
- 経済学博士(英Doctor of Philosophy in Economics)
- 商学博士(英Doctor of Philosophy in Commercial Science)
- 社会学博士(英Doctor of Philosophy in Sociology)
純粋な基礎研究ベース以外に、アプリケーションを含む学位には、Doctor of Philosophyを用いず、以下のようなものがある。
- 神学博士(英Doctor of Theology 略称 ThD)
- 心理学博士 (臨床分野)(英Doctor of Psychology 略称 PsyD)
- 教育学博士(英Doctor of Education 略称 EdD)
- 法学博士(英Legum Doctor 略称 LL.D.)
これらの学位名、略称、取得方法・条件は、国によって違いが大きいため注意されたい。また、イギリスには、博士号の上にあたる学位もあるなど、博士の名称は一意でない。
専門職学位においても、PsyDは、アメリカでは、5年間のフルタイム就学が必須であるが、似たような学位やサーティフィケーションが博士号に満たない能力で取得できるケースもある。日本の臨床心理士などは、修士号取得者が取得できるが、欧米では、専門職技術者は、博士号が必須である。博士号がなければ、心理学者、または臨床心理士と自称することは、時として違法であり混乱を来たす。
[編集] 各種用語
- 博士課程
- 博士の学位の授与を受けるために在学する大学院の課程のこと。博士課程のうち、博士後期課程および後期3年博士課程は、修士課程および博士前期課程を修了した者が在学することが多い。医学研究科の場合、修士課程は存在せず、4年間の博士課程を経る。
- 博士論文
- 「博士の学位」の授与を受けたときの学位論文のこと。
- 博士号
- 「博士の学位」のこと。
[編集] 博士の学位の意義
博士の学位は、嘗て(明治・大正期)は、「末は博士か大臣(大将)か」という言葉もあるくらいに信頼の高い学位であった。日本の学術研究をリードしていく人材の育成、国際機関などにも人材供給していく上で大きな意義を持つ。
博士学位の周辺事情として、理系の研究領域において、博士号の授与例が多い一方、文系においては、授与例が少ないという傾向にある。大学教授であっても、そのすべてが保有しているわけではない。逆に博士号を有する人の中で無職(余剰博士―オーバードクター)であるという層も多い側面もある。
日本では博士号にはそれなりに高い信用があるが、実際のところは最大限に活かされているかという点では、大学院教育が諸外国と比較して遅れている面がある。また、博士の学位授与が厳格でそこまで育成する時間とコストが多大であるという面もある。 大学教授や研究者になるために、学位があるにこしたことはないが、必ずしも必須ではないため、「足の裏の米粒」(取らないと気になるが、取っても食えない)と表現される場合も多い。 その上、博士の持つ能力を一般社会ではまだまだ活かせていないという側面も浮き彫りになっている。
[編集] 博士号取得者のキャリア
最近は高等教育への関心が高まりつつある。前述した通り、社会人大学院や夜間大学院、通信制大学院といった形態で、働きながら研究して学位を取る人が増えている。またそうした社会経験の豊富な人口が大学の教授になったりと、世間知らずとも揶揄されがちな学界に新しい風を吹き込んでいるという一面もある。
現在の日本の雇用のあり方としては22歳学部新卒に重点が置かれてきたこれまでの日本の雇用のあり方は非常に膠着化してきている。昨今、終身雇用が崩れつつある中で、再雇用や中途採用といった活路も開けてきている情勢にある。これまで見向きもされなかった様な、有用な隠れた才を再評価することで企業価値への貢献の道を探ることもこれからの社会では大いに有効であろう。
理系であれば博士号はブランドとして認知され、実際に工業系の企業では何人の博士を雇用しているかが、信用の指標とされているケースもある。しかし、社会全体としては依然として博士の持つ力をどう活かすかということにつながっていない。雇用のあり方や世界や社会の変化にともない、より戦略的な人材供給の手段として博士の可能性を活かすことが重要であるとされる。しかし、基礎研究を行う大学・研究機関において、社会応用が第一義となっていない場合もあり、これを問題視する向きもある。もちろん博士号の取得が何か大きな能力を保障するものでは必ずしもないため、職域・活動に応じたスキルの向上は他の社会人と同様に育成する必要がある。
国際化や国民人口の高齢化、職業の多様化が進む中、リクルートメントやキャリアアップの面で有効に博士を活かすことが、より専門性を身に着けた国際的に通用する企業への成長を模索することにつながることになろう。
民間においては日立における博士号取得者からなる「へんじん会」が有名である。