国際法
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国際法(こくさいほう、international law, law of nations)とは、国際社会を規律する法をいう。
国際法は、「国際公法 (droit international public)」とも呼ばれ、成文化されたもの(条約)と、慣習によって成り立つ不文のもの(慣習国際法)、法の一般原則によって成り立っており、国家は国際機構の行動はこれによって法的に規定される。
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[編集] 変遷
歴史的には国際法は16-17世紀のヨーロッパにおける宗教戦争の混乱を経て、オランダの法学者グローティウスやスアレス、ビトリアらが創始したと考えられている。特にグローティウスの「自由海論」は当時の国際法的思考に大きな影響を与えたといわれる。ウェストファリア条約以降、国家間の紛争、通商及び外交関係を規律する法として成立、発展していった。
伝統的な「国際社会」(la société internationale)においては、主権国家の並列状態のみが想定されており、したがって国際法の主体となりうるものは国家のみであった。そのため従来的な国際法とは、国家間の合意もしくは不文律のことのみを意味していた。会社などの法人や個人は、いかに大きな存在でも、国際法の主体となりえず、せいぜい国家が国際法に関する権利を行使する過程で影響を受ける存在でしかなかった。
しかし、現代では、国際人権法、国際人道法に見られるように、個人も権利・義務の主体として位置づけられるようになった。また、国際環境法における「人類の共通利益」概念のように、「人類」(l'humanité)概念も登場するに至った。このように、現代の「国際共同体」(la communauté internationale)は、「国際社会」と個人あるいは「人類」の弁証法であると考えられる。そのような「国際共同体」を規律するのが国際法であるといわねばならない。
なお、幕末当時、ペリー提督が日本来航の折にアメリカが日本側に対して日米和親条約締結を求めた際には国際法が「万国公法(ばんこくこうほう)」と訳されていた。この訳は中国の影響を強く受けているものと推察される。
[編集] 国際法は「法」か
立法・行政・司法が集権的に実行される国内法と異なり、国際法には強制的な執行力を持つ機関が存在しない(国際司法裁判所が持つ強制力については、当該項目を参照)。そのため一見、国際法違反に対する効果的な制裁が存在しないことになり、日本が国際社会と接するにようになった初期の頃には「表に結ぶ条約も、心の底ははかしれず、万国公法(国際法)ありとても、いざ事あらば腕力の強弱肉を争うは、覚悟の前の事なるぞ」と戯歌にも歌われているように国際法の法的性質を否定する学説が唱えられてきた。
しかし、国際法違反に対しては、司法の統一的権力による強制的執行ではなく、関係国による復仇や制裁などといった形で存在し、また実際ほぼすべての国が国際法を法として認識し、かつ遵守されているため、現在では国際法の法的性質を肯定する学説が通説となっている。
[編集] 種類
主な国際法として(形式的法源)、条約法、慣習国際法、法の一般原則が挙げられる。これに加え、国際司法裁判所規程は、補助的な法源として、裁判所判例、および国際法学者の学説をあげている。なお、国家の一方的行為が法源に当たるかは争いがある。近年、国連国際法委員会で、国家の一方的行為の拘束性について法典化作業が行われている最中である。また、同様に国際連合総会決議にも法的効力があるかが争われている。
[編集] 条約
条約とは、一定の国際法主体(国家、国際組織等)がその同意をもとに形成する、加盟当事者間において拘束力を有する規範をいう。二国間条約と多数国間条約があり、ともに当事者の合意によって成立するが、後者はその成立に批准手続が取られることが多く、また特に多数の国が参加する場合には条約を管理する期間が置かれる場合がある。条約そのものの規律を対象とする国際法については1969年に国連国際法委員会によって法典化された条約法に関するウィーン条約がある。
[編集] 慣習国際法
慣習国際法は、不文ではあるが、条約と同等の効力を有する法源である。もっとも、不文であるため、それぞれの慣習国際法がいつ成立したのかを一般的にいうことは難しいが、もはや慣習国際法として成立したとされれば、国際法として国家を拘束する。
その成立には、「法的確信(opinio juris)」を伴う「一般慣行」が必要である。なお、かつて言われていた「長期にわたる反復」という要素は必ずしも必要なものではない(参考・インスタント慣習法)。むしろ重視されるのは、「広範に見られる」、「統一された」慣行(practice)である。また同時に特に利益を受ける国家がその慣行に加わっていることも重要である(「北海大陸棚事件」国際司法裁判所判決、1969年)。しかしながら、「一貫した反対国」や慣習国際法形成の後に誕生した国家に対する同法の拘束力が疑問視される。これらはともに、「合意」の有無が問題となっており、合意していない規範に拘束されるかどうか、問題となる。
なお、「一般慣行」が必要とされるため、長い年月をかけて多くの国が実践するようになったことによって成立したものがある一方、「大陸棚への国家の権利」のように発表からわずか20年足らずで成立したとされるものなど、その成立は様々である。
[編集] 法の一般原則
法の一般原則とは、「文明国が認めた法の一般原則」(国際司法裁判所規程38条c)をいう。すなわち、主要法体系に共通の国内法上の法原則を指す。しかし、その法的性質については議論が分かれている。その例として、例えば、信義誠実の原則(「核実験事件」(本案)判決)、衡平原則(例えば、「ブルキナファソ・マリ国境紛争事件」判決)、義務違反は責任を伴うの原則(「ホルジョウ工場事件」判決)などが挙げられ、禁反言(Estoppel)のような英米法の概念が法の一般原則に含まれるとされる場合もある(前記「北海大陸棚事件」判決)。しかし、いずれの場合も、裁判所は明確に「法の一般原則」と明示して援用はしていない。
[編集] 国連総会決議
国連総会決議は、国連加盟国すべてが意思を表明する場であるため、そこでの議決事項に拘束力を持たせるべきであり、総会決議は条約に類する国際法である、とする説がある。しかし、総会決議は「勧告」にすぎず、拘束力がないとする説が多数である。もっとも、予算に関する議決など、国連憲章に明文があるものに限り、国連憲章にもとづく拘束力を認める説が多いが、これは、条約である国連憲章に基づくものなので、総会決議の法源性には直接結びつかない。