地面効果
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地面効果(じめんこうか)はグランド・エフェクトの訳で地表効果とも訳されるが、以下の2つの異なった現象について言及されることが多い。
- レーシング・カーのボディー下面を適当な形状にするとより大きい下向き力(ダウンフォース)が発生する現象
- 航空機の翼が地表に近くを飛行する場合に揚力が大きくなる現象
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[編集] 自動車における地面効果
[編集] 車におけるグランド・エフェクトとその出現
レーシングカーでは、車体下面をベンチュリ管形状に整形させることによって車体下面を負圧にして、下向きの力の発生を利用したものを「グランド・エフェクト・カー(ウイングカー)」とよんでいる。いわゆるベルヌーイの定理を利用したものである。 コーリン・チャップマンのF1カーであるロータス78が導入した。グランド・エフェクトを用いることによってタイヤの垂直荷重を上げグリップを向上させることによりコーナーリング速度を飛躍的に上げることが可能であり、当時のF1界ではグランド・エフェクトを用いなければ勝つことが困難となり、急速に普及した。
グランド・エフェクトを獲得するためにはサイドポンツーンが高い剛性を持ち、ダウンフォースを受けても容易に変型しないことが必要とされた。これらはレーシングカーにカーボンファイバーなどの新素材を導入していくきっかけとなった。
[編集] グランド・エフェクト・カーの問題点
- F1
この効果はサイドポンツーンの形状だけではなく、サイドポンツーン下面と地面との間の空間が、外界と遮断されていることにより十分に発生する。そのためグランド・エフェクト・カーは、サイドポンツーンの横に可動式の硬質のスカートを備え、スカートを地面に接触させて空気を遮断している。つまり車体の一部を地面にたらし、ガリガリと引きずりながら走っているという事になる。
このスカートによる空気の遮断が何らかの原因によって阻害されると、ダウンフォースが急激に失われマシンは非常に危険な状態となる。グランド・エフェクトが発揮されている場合、タイヤのグリップ力が飛躍的に高まり横滑りしにくくなるため、コーナーリング時にも速度をそれほど落とさないで済む。これがグランド・エフェクト・カーの最大の利点なのだが、その状態でグランド・エフェクトが失われるとマシンは超高速で横滑りしてコースアウトし、激しくクラッシュする可能性が高い。これはドライバーにとって直接的に重傷あるいは死を意味する。
グランド・エフェクト・カーには非常に強い下向きの力がかかるため、サスペンションのスプリングレートは極端に高く設定しなければならない。またサイドスカートが地面から離れないよう、サスペンションの作動する幅は短く制限されてしまう。つまりサスペンションが無いに等しい状態になる。その結果ドライバーの身体には、路面からの衝撃がほとんど直接伝わってしまうという過酷な状況が生まれてしまった。世界チャンピオンのニキ・ラウダは「グランド・エフェクト・カーはドライバーのテクニックの巧拙ではなく、高速のままコーナーに突っ込めるかどうかの度胸が問われるだけ。身体にかかる負担も大きく、非常に危険で非人間的」と激しく非難していた。
もっと言えば、自動車がタイヤ以外の車体の一部(スカート)を常に地面に接触させ引きずっているというのは、一般車への技術的フィードバックが全くできない異常な状態であると表現できる。これは自動車レースというものの社会的な存在意義に抵触すると言えるだろう。
1981年にはサイドスカート下部から地面まで6cm以上の間隔を開け地面に接触させることが禁止されたが、これは停車状態での車検でチェックされるだけだった。そこでチーム・ロータスは車体を2重構造にしたマシン「ロータス88」を設計。停車状態では車体のどこも地面に接触していないが、ある程度のスピードで走りグランド・エフェクトが発生し始めると、2重の車体の一方が地面に下がって路面に接触し、可動スカートが存在するのと同じ状態になるのだ。この機構は他のチームの反対があったことや、「空力装置は可動不可」という規制に抵触することから禁止された。(ロータス88には、グランド・エフェクトの追求によるサスペンションの硬化に起因するポーパシング問題解決の目的もあった)。
ロータス88と同様に規制をかいくぐろうとするアイディアはいくつか登場した。その中でもブラバムは、同年のマシン「BT49C」に「ハイドロ・ニューマティック・サスペンション」という機構を搭載した。これは、油圧で車高を調整できる機構で、ピットイン時には車高を上げて車検に対応させ、走行時には車高を下げサイドスカートを地面に接触させグランド・エフェクトの効果を得るものであった。同機構は他チームも次々と採用したことから、サイドスカートの接触を禁止した規制は意味を成さなくなってしまった(この年、BT49Cに乗っていたネルソン・ピケがチャンピオンとなっている)。
1982年に発生したジル・ヴィルヌーヴの事故死やディディエ・ピローニの大事故による引退等も、グランド・エフェクト・カーの重大な問題点が一因だったと言えるかも知れない。それら数々の事故もあって、F1においてはフラットボトム(車体底面の一部を平らにしなければならない)という規制が行われ事実上グランド・エフェクト・カーは参加できなくなっている。
F1でフラットボトム規制が行われた後、シャシー後部の底を跳ね上げた構造(ディフューザ)にすることで、限定的にグランド・エフェクトを得ることが可能となり、現在でも採用されている。その後、サイドポンツーン部分の底を上げるステップドボトムへと規制が厳しくなった現在でも、上記構造が使用されている。
- 日本国内
日本国内レースでは、1983年の富士グランドチャンピオンレースにおいて高橋徹 (レーサー)がドライブするマシンが、スピンした後に宙に舞い上がり地面に激突。彼が事故死し、巻き込まれた観客も死傷するという大事故が発生している。これはグランド・エフェクト・カーが高速で後ろ向きに走ると、条件によってダウンフォースとは全く逆の力が発生するためと考えられている。高橋徹の事故の前後にも日本では同様の事故が数件発生しており、グランド・エフェクト・カーの危険性がささやかれていた。日本レース界でもグランド・エフェクト・カーは禁止されることになった。
似た現象に離対気流があるが、こちらは主に十分なボデー整形を行わずに車高だけを低く調整した一般車に多く発生し、車体に揚力を生む特有の現象である。
- インディーカー
インディカーにおいては2004年現在もグランド・エフェクト・カーが認められている。
[編集] 航空機等における地面効果
[編集] 翼による地面効果とその出現
航空機では、高度が主翼スパンの半分よりも低くなると顕著に影響が現れ、随伴渦と地面との干渉により自身への吹き下ろし(downwash) 角が減少する結果誘導抗力係数が減少し,同様の理由により機体が同じピッチ角の場合は揚力係数が増加する。換言すれば、地上付近で揚力が発生している翼が飛行している状態は、地面を対称線とした翼の鏡像が存在している状態と等価で、地面との干渉は逆向きの2つの翼の相互作用として解釈することができる。 地面効果で現れるその他の現象としては、ピッチダウン傾向の増加が挙げられる。これは、地上との干渉によって翼後流に現れる吹き下し 量が小さくなり、水平尾翼の相対迎え角が小さくなってピッチアップ・モーメントが不足するためである。
[編集] 翼による地面効果の応用例
[編集] WIG
地面効果は水面上でも同様に得られる。そこで、航空機に似た翼を持ち、水面上の低高度飛行によって揚抗比を改善する高速船が研究されている。 これらは地面効果翼船やWIG(Wing-In-Ground effect)、 水面効果翼船、表面効果翼船(Wing-In-Surface-Effect-Ship)、Ground Effect Machine(GEM)と複数の呼称があるが、基本原理は同一である。ロシアでは、これを エクラノプラン(ekranoplan)と呼ぶ。 エクラノプランに見られる機首のジェットエンジン(またはプロペラ)は、離着水時に高速気流を翼下に吹き込み、高揚力を得るためである。異様に大きな水平尾翼は、地面効果内におけるピッチングモーメントの急激な変化を抑えるためである。
[編集] 人力飛行機
人力飛行機が飛行距離を稼ぐために、高度を低く保って飛行する場合が多い。これは典型的な地面効果を利用した飛行であり、地面効果による誘導抗力減少によって、搭乗者の体力消耗は高い高度を飛ぶ場合よりも少なくて済むため、記録が出やすい。
[編集] その他の地面効果
スロットレーシングの世界においてウィングカーが存在する。
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