官僚
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官僚(かんりょう、bureaucrat)とは、辞書的には役人と同義語であるが、近年は国家の政策決定に大きな影響力を持つ公務員をさすことが多い。ヘーゲルによる定義では、国家への奉仕かつ私有財産の配慮を行う者の総称となっている。(官僚機構については官僚制の項目を参照のこと。日本の官僚については、官吏、キャリア (国家公務員)の項目も参照のこと。)
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[編集] 概要
官僚とは、通常、行政機関において企画立案等に携わる公務員、特に中央省庁の一定以上の地位にある国家公務員を指す。ただし、官僚という語は法律用語ではないため明確な定義は無い。一般に、政策立案、国会への対応、公務員の人事、出先機関や特殊法人・公益法人等への指揮監督、民間企業への監督・指導・許認可等の政策決定に関して大きな影響を与えうる権限を付与される地位にある者を指す。
他方、大臣や副大臣・政務官は上級の公務員であるものの、政治家(国会議員)であるため官僚にあたらない。
「官僚」「官吏」の語源であるが、「官」は上級公務員を意味し、「僚」「吏」は下級公務員や、官に雇われている者を意味し、これらの総称で「官僚」「官吏」となった。
なお、新聞・雑誌等では、「キャリア官僚」の対比語として「ノンキャリア官僚」という言い方もされることがある。
[編集] 任務
官僚の任務は、主に下記として分類される(政府機関によって異なる)。
[編集] 予算
日本においては、予算は、まず内閣府の経済財政諮問会議において基本方針が立てられ、各省庁の予算の細部については、財務省の主計局が審査を行い、内閣が予算を作成し、国会の議決を経る。各官庁では、大臣官房の会計課長が集計、管理する。また、各局長が主計局と折衝し、国会議員への根回しを行う。経済財政諮問会議や財務省主計局は、予算を通じて国政全般を仕切るところであるとも言える。
[編集] 法案
法律の制定は国会の仕事であるが、実際には官僚主導で内閣が議案を提出し国会で制定されることが多い。これは、各官庁の大臣官房の文書課長、各局総務課長や審議官を中心として案を総め、国会議員への根回しを行う。
[編集] 人事
各省庁の大臣官房の秘書課長、官房長、事務次官がキャリア公務員の人事、天下り先の確保を行う。
[編集] 指揮・監督・許認可
指揮、監督、指導、許認可はレベルがあり、場合によるが小規模の案件は地方局や地方公共団体(都道府県など)で行い、大きな案件は中央官庁で行われる。各局の担当官にて執行される。
[編集] 政策
官僚は政策の企画と施策を行うことが多い。この実現方法としては、法令の制定、予算確保による補助金や施設の発注、行政指導や許認可による民間企業へのコントロールという形を取る。内容的に上記の「予算」「法案」「監督・指導・許認可」に含まれるとも言える。この政策をまとめる局は、各省庁の筆頭局となることが多く、他局間の調整を行う。
なお、官僚の中でも、予算、法案、人事に関わるポストが出世コースであり、官房三課長(各官庁によって名称が違うが、通常は文書、会計、秘書課長)と呼ばれるポストは、事務次官になるための必要条件であることが多い(民間企業に例えるならば、文書課長=総務部長、会計課長=経理部長、秘書課長=人事部長であり、国会に相当する機関が株主総会といったところである)。
[編集] 官僚制度
官僚制度(官僚制)は、ピラミッド型に整理された、権限の分担とその指揮系統に関する階層構造を意味する。これは統治構造の一種であり、組織は問わない。当初は、各国の行政機関(官界)で顕著に見られた事から、俗に「官僚制」と呼ばれる事となった。(詳細は官僚制の項目を参照のこと。)
まず、課長という名前であるが、民間企業で例えるならば本社の部長クラスに相当する(民間企業では、例えば総務、経理、人事部長など重要なポストの部長は取締役となるレベルである)。本省課長は各々所管の法律を持つため、民間企業における課長というイメージよりは大きな権限が付与されている。なお、地方局→支局となるにつれ、同じ課長の名前でも権限は小さく職級は低くなる。これは、民間企業における本社→地方支社や親会社→子会社と同様である。
本省課長クラスより上の審議官クラス(民間企業なら取締役兼本部長または副事業部長)、局長(民間企業ならば専務取締役兼事業部長)、事務次官(民間企業ならば社長)ともなると、国の方針にも影響を与えるほどの大きな権限を持つ。そのため、その職務内容や権限・責任の重大さから、指定職として特別の俸給表が適用される。
[編集] 各国の官僚任用制度
国家公務員は、世界的に、上級ポストとその候補者(キャリアと呼ぶ)、および下級職員を分けて採用する国が多い。通常、官僚とは上級ポストの公務員であるため、ここでは各国の高級官僚(世界的に見て慣例的に局長クラス以上を指すが、場合によっては本省・本府審議官または課長級以上を指す場合もある)とその候補生の登用・昇進システムを説明する。
この登用・昇進システムは各国によって相違がある。主には、日本型(科挙型 メリット・システム)、アメリカ型の猟官制度(スポイルズ・システム)、高級官僚が貴族や一部の門閥で占められているタイプに分けられる。
更に官僚には、主に文官(いわゆる行政官)と武官の2つがある。また行政官には事務官と技官の二種類が存在する。武官は、各国軍部の大学校卒業者をキャリアとする国が多い。ここでは、行政官について説明する(日本についてはキャリアを参照)。
[編集] アメリカ合衆国
高級官僚は、大統領の交代と共に入れ替わる。通常の公務員は課長クラスまでしか昇進しない。アメリカでは、官僚の社会的地位は日本などに比べると低い。
[編集] フランス
メリット・システムと、スポイルズ・システムの折衷型である。フランスは、日本以上にキャリア選抜が険しく、又日本以上に烈しい官僚政治国家としても知られる(近年では、政治家の地位の方が上になって来てはいる)。官僚の社会的地位は日本より高い。事務官キャリアは国立行政学院(ENA)出身者で占められ、技官キャリアは理工科学校卒業生で占められる。高級官僚は、政治家の意向によって、キャリアの中から選抜される(政治任用)。
[編集] イギリス
日本と類似したメリット・システムによるキャリア制度となっている。試験名の日本語訳によっては、高等文官試験と表記されることがある。1855年に開始。インドの高等文官試験に影響を与えた。
オックスブリッジ(オックスフォード大学、ケンブリッジ大学の2大学)と呼ばれる学閥でキャリアが占められている。
余談であるが、イギリスでは貴族制は残っているが、それは上院の世襲議員という形である。
[編集] インド
イギリスとほぼ同様のシステムとなっている。試験名の日本語訳によっては高等文官試験と表記される。東インド会社がインド省になった際に、現地のインド人にも高級官僚の登用のチャンスが与えられるようになった。インド独立後には名称が若干変更された(Indian Administrative Service)。
[編集] ドイツ
元々日本のキャリア制度は、ドイツの公務員システムを参考にして作られた。しかしその後の歴史的経緯から、ドイツはフランスと同様にメリット・システムと、スポイルズ・システムの折衷型に落ち着いた。
公務員は「官吏」(いわゆる官僚)と「職員・労働者」で構成される。官吏の中で政治的官吏(高級官僚)は、キャリアの中から政治任用される。キャリアになるためには、大卒後2年の準備勤務を経て高級職ラウフバーン試験に合格する必要がある。高級職ラウフバーン試験は司法試験も兼ねており、合格すると弁護士になることもできる。
[編集] 日本の問題
[編集] 法案作成に関する問題
立法は国会の機能であるが、国会議員が自ら法案を起案することはほとんどない。法案のほとんどを占める内閣提出法案を官僚が作成するのはもちろん、議員立法も多くは官僚のサポートに依拠していると言われている。このように、官僚主導で法案を作成することについては、「自分たち(官僚)がやりやすいように、法律を作りがちになる」という批判がある。これらの批判は政治家から出されることも多いが、政治家が新法を起草せず、官僚に事実上丸投げする姿勢がそういった状況を生み出している側面もある。
法令(法律+政令)の起草技術は高度化しており、一つの法案を作成するために関連法令の調査から一字一句の吟味まで多大な労力が必要になっている。その為、単純に議員立法を増やせというわけにもいかず、扱いの難しい問題である。
- 成立法案でみると、政府立法が全体の85%程度を占める(1994-2004)
[編集] 人事システムの問題
日本の官僚には猟官的要素が非常に少ないため、学閥の弊害が指摘されている。特に、採用時と昇進時に東京大学(や京都大学)など特定大学出身者が優遇されているという指摘がなされる。
採用時についていえば、国家公務員採用Ⅰ種試験の合格者にいわゆる一流大学の出身者が多いことは事実であり、採用者も多くなっている。もっとも、情実採用が問題になることはほぼなく、この結果は、単純に能力差によるものが大きい。特に東大や京大は2次試験にまで数学が付いてきたり、それ程深い知識を追求させず論述問題を課すといったことをしていることが大きいといわれている。しかし、試験情報や、官庁訪問など就職活動についての情報の多寡が採用の成否に影響している部分も大きく、入省者の多様性を実現するためには、これら就職プロセスのより一層の透明化と情報開示が求められている。
[編集] 不透明な民間企業への関与の問題
民間企業に行政指導といった形で(実質上の)命令を行ったり、天下りと言った形で人事に介入することが、民間企業を不当に支配するものだとして問題になることが多い。行政手続法などにより行政プロセスの透明化は進んでいるが、官僚に大きな裁量権が委ねられている部分は多く、特定の民間企業から賄賂を受け取った政治家が、官僚の裁量権に影響を与えようと圧力をかけるなど腐敗の温床になりやすい。
[編集] 倫理観(人事院調査)
2004年9月15日、人事院は「国家公務員に関するモニター調査」の結果を発表した。 官僚について「倫理観が高い」と答えた人は1.85%、「全体として倫理観が高いが、一部に低い人もいる」と答えた人は43.1%、「全体として倫理観が低いが、一部に高い人もいる」と答えた人は21.8%、「倫理観が低い」と答えた人は10.5%、「どちらとも言えない」と答えた人は22.2%、「分からない」と答えた人は0.6%という結果となった。 調査は2004年の5月から6月に公募したモニター500人を対象に実施され、487人から回答を得た。