悪妻
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悪妻(あくさい)は、妻のうち品行の悪いものをいう。
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[編集] 定義
夫婦関係において実権を握る妻を悪妻とする見方もある。確かにこの定義は男尊女卑思想が支配していた時代には有効であったかもしれないが、20世紀後半に始まった価値観の転換によってそのような夫婦関係を「悪」と見なすべきではないという風潮が高まってきている。近年では男性が主導権を握る夫婦を「男尊女卑」「家父長制」として非難する意見も少なくない。
目下のところ、「夫が結婚したことを後悔するような品行の妻(家でくつろげないなど)」、もしくは、「傍目から見てあのような品行の女性とは結婚したくないと思うような妻」とするのが妥当な定義である。
ただし、この悪妻という言葉の定義が、今後変化する可能性もある。それは以下の理由からである。
対義語は良妻である。
[編集] 言葉
ことわざでは「悪妻は六十年の不作」とも「悪妻は百年の不作」とも言われ、男性を不幸にするものとして避けるよう説いている。これに対して、菊池寛は「悪妻は百年の不作であるという。しかし、女性にとって、悪夫は百年の飢饉である」と述べている。
坂口安吾の著作『堕落論』の中に『悪妻論』がある。また戸川貞雄は競輪を悪妻に例えた『競輪悪妻論』を持論としていた。
[編集] 世界三大悪妻
の名が挙げられている。異説では、ソフィア・トルストイの代わりに、
これらの女性を悪妻と見なしたのは後世の人であり、中には悪妻であったという逸話が後世に作られたといわれるものもある。しかしながら、そうした逸話も含めて、彼女達を悪妻とする根拠として挙げられるのはおよそ以下の事項である。
したがって、金銭的な問題と夫に対する愛情の欠如という問題に集約できるものと見られる。
[編集] その他、歴史上悪妻と言われる女性
世界三大悪妻の他に、その他、歴史上では以下のような女性が悪妻と言われている。
しかしながら、ここでも悪妻の基準が不明瞭であり、三条の方のように、史料根拠がなく、世界三大悪妻同様、後世に悪妻であったという逸話が作られたりなどしたと思われ、悪妻としての信憑性に疑問が残る女性達もいる。
北条政子・日野富子などもある意味では実務能力に長けた有能な妻という見方もできるように思われる。事実、北条政子はそのように解釈する者も少なくない。
このようなことを総括すると、東洋での場合は、悪妻とは
- 権力欲が強い
- 嫉妬深い
- 自己主張が強い
- 頭脳・体力に優れている(特に、夫よりも)
- 夫に従順でない
などが基準になっているようである。
また、日本史の場合、三条の方・築山殿のように、嫡子が家督を継承できないと、その生母が悪妻と考えられやすい面がある。
ただし、これらには無視できない例外もかなりある。帰蝶(織田信長の正室。濃姫とも呼ばれる)は、信長の嫡男(織田信忠)を産んでおらず、また自己主張も強かったとされるにも関わらず良妻と言われることがある。
これに対し、濃姫や巴御前が良妻とされた原因は、夫や恋人といった男性に対して健気である、献身的である、というところからきているとの解釈もある。すなわち、上記にある悪妻の条件の中の性格に関するもの(権力欲が強い、嫉妬深い、自己主張が強い、夫に従順でない)の逆であることから良妻とされた例と言えるだろう。
もっとも、悪妻・良妻の両方に言えることだが、後世にフィクションから形成されたものが多い。とくに濃姫は史料も極めて少なく、実像が不明な女性であるため、彼女の良妻説はフィクションの所産も大きく、逆の意味で三条の方の悪妻説と対をなすものとも言える。
悪妻と言われることの多い女性を再評価することは純粋な学問としての側面だけでなく、フェミニズムの観点から行われることもある。そのような中では、悪妻とされていた人物が、実像からかけ離れて高く評価されることも少なくない。女流作家や女性史家によって表現される北条政子や日野富子などが、過大評価されることが多いのはそのためであり、かえって歴史認識を誤らせているとの指摘もある。
その一方、フェミニズム的観点から肯定的評価をされた女性と対立した女性は、過剰に低い評価をされることもある。例として、今参局(足利義政の側室)は、日野富子がフェミニストによって評価されたことにより、男性に媚びた女性として貶められた。
また近年では、同様の視点から、夫や恋人に対して献身的であった女性を過剰に低く評価したり、夫への献身を否定するような記述がされることがあるため、今まで良妻に分類された女性が、今後悪妻に分類される可能性もある。もちろん、従来からの男性からの視点も偏っているといえるので、その調整点も必要であろう。
また、戦国時代で悪妻とされる女性達は、正室が多く、彼女達の代に婚家が滅亡しているケースが多く、その原因を彼女達が一身に負わされてしまっている場合も多々あり、有名人の妻、そして悪妻という存在は、往々にしてやはり何らかのプロバカンダに利用される事がある。
例えば、コンスタンツェ、夏目鏡子などは、彼女達の夫をあまりにも人々が崇拝し過ぎるため、客観的に見れば、それほど問題のないと思われる妻達に対して評価が辛くなっている、とも言える。また、こういったプロパガンダは、良妻の場合にも当てはまる。いずれにせよ、後世に創作された部分が多く、悪妻とされる人物の真相には不明なことが多い。
とはいえ、やはり悪妻・良妻というのは、男性の視点・都合、または時の権力者の大きな影響を受けやすい側面がある。実際に、政治家の良妻話というのは好んで取り上げられるテーマとなっている。
どのような人物も、例えば暴君とされていた人物が実は違っていた、などといった時代による評価の変動は、この場合も例外ではないといえよう。
- 北条政子(源頼朝の正室)
- 日野富子(室町幕府8代将軍足利義政の正室)
- 三条の方(武田信玄の正室)
- 築山殿(徳川家康の正室)
- 義姫(伊達輝宗の正室)
- 奈多夫人(大友宗麟の正室)
- おりき(千利休の妻)
- 六姫(池田光政の6女で、池田主計由貞・滝川儀太夫の正室)
- 夏目鏡子(夏目漱石の妻)
- 森志げ(森鴎外の妻で森茉莉の母)
- 呂后(漢の高祖劉邦の妻)
- エルザ・レーベンタール(アルベルト・アインシュタインの妻)
- リウィア・ドルシラ(初代ローマ皇帝アウグストゥスの妻)
- メッサリナ(ローマ皇帝クラウディウスの先妻)
- アグリッピナ(ローマ皇帝クラウディウスの後妻でローマ皇帝ネロの母)
- ゼルダ・フィッツジェラルド(スコット・フィッツジェラルドの妻)
- キャロライン・ラム(イギリスの首相ウィリアム・ラムの妻)
- マーサ・ワシントン(ジョージ・ワシントンの妻)
- マリア・アンナ・アロイジア・ケラー(ハイドンの妻)
- メアリー・アン・トッド(アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンの妻)