散弾銃
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散弾銃(さんだんじゅう)またはショットガン(shotgun)とは、多数の小さい弾丸を撃つ大口径の大型銃。狩猟や競技射撃で使用される。
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[編集] 概要
散弾銃の実包(ショットシェル)はプラスチック製のケースと金属製のリムで構成され、ケースの中にはあらかじめ多数の小さな弾丸(散弾)が封入されており、銃口より種々の角度をもって放射状に発射される。これ以外に一発の大きな弾体を発射するスラッグ弾という弾種もある。
散弾はシェルの中にあるワッズと呼ばれるプラスチック製の部品とともに燃焼ガスによって射出されるが、ワッズは空気抵抗により発射後すぐに分離し落下する。散弾は直径に応じた号数があり用途によって使い分けられる。
競技としては、クレー射撃などに使用される。これはかつては鳩を放ってそれを撃ち落としていたものだが、動物愛護・コスト・競技としてのコンディションの同一性の確保、などさまざまな理由から変更された。現在では装置によって射出された素焼きの円盤(クレー・ピジョン=粘土製の鳩)を撃ち落とす競技になっている。
猟銃としてよく使用される。動きの速い鳥類の狩猟には小粒の散弾が使用され、対象が大型の動物の場合には大粒の散弾、あるいは単体のスラッグ弾が使用される。日本国内での狩猟用ライフル銃の所持には10年以上の装薬銃所持実績が必要であるため、ライフル銃所持条件に満たない場合には大型動物の狩猟用にスラッグ弾と散弾銃の組み合わせで代用する事になる。
クレー射撃競技や狩猟用途では、散弾の飛散パターンと速射性から中折れ式上下二連や水平二連銃が好んで使用される。また多数の弾を連射するためガスの圧力や反動を使って薬莢を排出する半自動式(セミオート)や、装弾チューブの外側にあるスライドを前後させて装弾するポンプアクション式(レピータ)の散弾銃もあり、中にはこれらを必要に応じて切り替える機能がついたものある。ポンプアクション式は速射性に劣るものの機構が簡単で送弾不良も少ないため、接近戦用武器として採用する警察や軍も少なくない。
尚、日本国内においては、銃身の1/2にライフリングを刻むことが許されており、銃身手前側に刻んであれば単体弾(スラッグ弾)発射時においても比較的良好な弾道が得られる。
このような散弾銃の事を、ハーフライフルドショットガンと呼称し、スラッグ弾専用に販売されている(散弾に使った場合、散弾が飛び散る円錐の角度が大きくなり威力が減殺されるため、無意味である)。
散弾の材質としては、比重の重い鉛が一般的である。近年、狩猟時に使用された散弾を鳥が砂や小石にまじってついばんだり、射殺後放置された死体が他の鳥獣に食べられる事による鉛中毒が問題となっている。日本国内でも鉛散弾による狩猟が禁じられている地区がある。クレー射撃場での鉛害については、指摘する環境団体等により公営クレー射撃場が一時閉鎖されているが、対策工事が終了しても再開しない場合もあり因果関係が不明瞭である。
[編集] 歴史
開発当初はスカッターガン、鳥撃ち銃(fowling piece)などと呼ばれていた、歴史上ショットガンという名称が最初に使用されたのは1776年で、ケンタッキー州で西部開拓者の用語として紹介されたことが始まりである。
散弾銃は西部開拓者らによって猟銃やインディアンとの戦闘に重要な役割を果たし、騎兵隊などもショットガンを好んで使用した。
[編集] 世界大戦
第一次世界大戦においてはアメリカ合衆国軍がこの銃を多用した事で知られるが、後にドイツ軍から人道上の理由、鉛弾の使用などにより抗議を受けた。第二次世界大戦においては塹壕内が主戦場ではなくなったこともあり、ヨーロッパで使用されることは少なくなったが、太平洋戦線では多数が使用され、ジャングル戦で威力を発揮した。
[編集] 実包の種類
[編集] 口径による種類
ゲージ番号は1ポンドの鉛球の(1/ゲージ)直径に対する一定の割合の実包を使用出来る口径を持つ物をさす。
- 4番(4ゲージ・4G)、8番(8ゲージ・8G)
- 口径が1/4、1/8 ポンドの鉛球に相当する直径の実包を使用するもの。無煙火薬では無く黒色火薬の時代に使用された。現在この口径を持つ銃の製造はされていない。
- 10番(10ゲージ・10G)
- 口径が1/10ポンドの鉛球に相当する直径の実包を使用するもの。充填可能な火薬量及び散弾重量が大きくなるため強力な破壊力を持つ。日本国内では10番以上の口径を持つ散弾銃は過度の多獲狩猟につながるとしてトド、熊などの大型獣の捕獲を目的とした場合以外は所持と使用を制限されている。
- 12番(12ゲージ・12G)
- 口径が1/12ポンドの鉛球に相当する直径の実包を使用するもの。世界的に最も多く用いられている口径。日本国内では一般に許可される実質的に最大口径である(銃刀法上の最大口径は8番)。またクレー射撃公式競技は基本的に12番が使用される。
- 16番(16ゲージ・16G)
- 口径が1/16ポンドの鉛球に相当する直径の実包を使用するもの。レミントンM1100などのモデルで使用できるが、日本では12番や20番ほどメジャーな番径ではない模様。
- 20番(20ゲージ・20G)
- 口径が1/20ポンドの鉛球に相当する直径の実包を使用するもの。口径が小さく破壊力が弱いため主に鳥や小動物猟に使用される。反動も軽いため海外では女性や射撃入門用の散弾銃としての需要も多い。
- 28番(28ゲージ・28G)
- 口径が1/28ポンドの鉛球に相当する直径の実包を使用するもの。威力も反動も20番より更に弱い。16番と同じく日本ではあまりメジャーでない番径なのか、日本で販売されている機種の中で、これに該当するものは、あまり多くはないようだ。
- 410番(.410・410ゲージ)
- 口径が0.410インチの実包を使用するもの。20番より更に破壊力も弱いため主に近距離の鳥や小動物猟に使用される。20番同様海外では女性や若年者、射撃入門用の散弾銃として専用モデルも少なくない。口径がライフル弾に近いため、ライフル銃に改編を加えたバリエーションとして商品化されている銃もある(ウィンチェスターM9410など)。日本ではライフル所持に較べ散弾銃が比較的容易に所持できることから、ライフル銃を410番用に改造しスラッグ射撃用散弾銃として所持できるようにした商品もある。
[編集] 用途による種類
- バードショット(1~9号<7号からは間に7・1/2号、8・1/2号、9・1/2号が入る>)
- 鳥や小動物猟用の弾。小粒の弾を多数(数十~数百個)発射する。7・1/2号はトラップ射撃、9号はスキート射撃に使用される。
- バックショット (000B、00B、0B~4B、MB、6粒 9粒弾)
- 鹿などの中型動物猟用の弾(buck―牡鹿)。12番で6~9発の弾丸を発射する。また軍用でも使われる。
- スラッグショット(一粒弾)
- 熊、猪など大型動物猟用の弾。散弾ではなく単発弾(スラッグ、スラグ)であるため、発射直後の弾丸の運動エネルギーは大口径ライフル並みであるが、装薬の性質と重い弾頭重量により初速が遅く、大きい弾体形状により空気抵抗が大きく速度低下が大きいため遠距離では威力が落ちる。近接戦闘では屋内突入時にドア破壊にも使われるため「ドアブリーチャー」や「マスターキー」とも呼ばれる。
スラッグショットは大きく4つの種類に分類される。
- 丸弾: 文字通り球状のものだが現在ではあまり使われていない。
- フォスタースラッグ: 釣鐘状のものだが空気抵抗で横弾しやすく射撃精度は劣る。
- ライフルドスラッグ: 弾体側面の溝の空気抵抗で回転しジャイロ効果による射撃精度を向上させたもの。溝については一部にチョーク保護用との俗説が広がっているが誤り。溝の迎え角と回転モーメントの関係や射撃精度の資料は弾体を製造するブレネケ社などが発表している。
- サボスラッグ: 弾体をプラスチック製のサボ(サボット、ジャケット)で包み、ライフリングを施した銃身(ライフルドバレル)によって旋回させ撃ち出すもの。100m付近までの精度はライフルに迫りライフルドスラッグに比べ遠射性に優れているが、日本では銃刀法により銃身のライフリングは全長の1/2に制限されている。
[編集] 全長による種類
実包は規格により全長が定められている。この場合の全長とは散弾やスラッグをクリンプする前のケース長であり、適合した長さの薬室で発射する必要がある。12番の場合は標準が2・3/4インチであるが、より大きな破壊力と遠射性を得るためにケース長を伸ばし、薬量や弾重量を増やした強装弾(3インチマグナム)と呼ばれる実包もある。3インチマグナムの薬室では2・3/4インチ弾の使用は可能である。
[編集] 散弾重量による種類
散弾の実包はケースに収める散弾の重量による種類があり、12番の2・3/4インチでは24~32グラムまでの商品が通常弾として販売されている。強装弾では2・3/4インチ(43グラム)、3インチマグナム(56グラム)がある。
[編集] 主な散弾銃
[編集] 上下二連
- ペラッチ MX8(イタリア/国際競技クラス選手にも愛用者が多い)
- ベレッタ 682(イタリア)
[編集] コンバーティブル(セミオート・ポンプアクション切り替え式)
- フランキ SPAS12(イタリア)
- フランキ SPAS15(イタリア/ボックスマガジン式)
- ベネリM3(イタリア)
- サクソニア セミ・ポンプ(ドイツ)
[編集] セミオート
- ブローニング・オート5(ベルギー)
- ベネリM1(イタリア)
- ベネリM4(イタリア/アメリカ軍で制式採用。米軍名M1014)
- イズマッシュ・サイガ12(ロシア/セミオート・ボックスマガジン)
- レミントンM1100(アメリカ)
- ベレッタAL391(イタリア)
[編集] ポンプアクション
- レミントンM870(アメリカ/信頼性の高さで民間・軍・警察用としてロングセラー)
- レミントンM31(アメリカ/西部警察の大門圭介の愛銃として有名)
- モスバーグM500 (アメリカ)
- モスバーグM590(アメリカ)
- ウィンチェスターM1897(アメリカ)
- ウィンチェスターM1300(アメリカ)
- ウィンチェスターM12(アメリカ)
- イサカ M37フェザーライト(アメリカ/発売当初は最軽量)
- マーヴェリックM88(アメリカ)
[編集] ボルトアクション
- ミロク MSS-20(日本/スラッグ専用銃。高い命中精度を誇る)
- ブローニング A-BOLT(アメリカ)
- ターハント SLUG-GUN(高精度のサボット弾専用銃)
- モスバーグM695(アメリカ)
[編集] その他
- ウィンチェスターM9410(アメリカ/M94ライフルの410番散弾銃版。レバーアクション)
- ウィンチェスターM1887(アメリカ/ターミネーター2に登場したレバーアクション散弾銃)
- U.S. AS12(アメリカ・韓国/セミオート・フルオート切り替え式)
- ストライカー12(南アフリカ/多弾式・12連発)
[編集] 軍や警察と散弾銃
散弾銃はバックショットなどの強力な実包を使うと、一回の射撃で複数・広範囲の目標に対して弾丸が散布され機関銃に近い殺傷効果があるために、古くから軍や警察は接近戦用武器として採用している。機関銃やサブマシンガンに較べ散弾銃は機構も簡単であるため安価で信頼性が高い点も、広く採用される要因である。
アメリカでは軍において塹壕戦用に使われたことからトレンチガン(trench-gun)、警察では暴徒鎮圧用に使われることが多いためにライアットガン(riot-gun)とも呼ばれる。装備していれば独りで道路封鎖が可能なため、ポリスカーには必ず搭載されている。これらの銃は戦場や群衆の中での取り回しを考慮し狩猟用散弾銃より銃身が短く、装填できる弾数も多くなっている。また、銃床が折り畳み式になっているものもある。
市販実包の種類も多いために号数やスラッグを状況に応じて選択でき汎用性があるのも、散弾銃の利点である。実包サイズが大きいために用途に応じた軍・警察用の特殊弾も開発され、主なものに防弾ベスト等に対する貫通力を高めた多針弾頭弾(フレシェット弾)、暴徒鎮圧用弾丸として催涙弾(CN弾)やゴム弾(スタン弾)などがある。さらにはランチャー(発射筒)を銃口に付けて、手投げでは届かないような高層階の部屋へ榴弾(ガス弾・煙幕弾)を撃ち込むのにも使われる。
銃種としてはU.S. AS12のように機関銃のような全自動にも設定できる(セレクトファイヤー)のもの、SPAS-15のように箱型弾倉(ボックスマガジン)で多弾数と短時間での弾薬交換を可能にしたもの、ベネリM3のように状況や故障時に半自動式(セミオート)とポンプ式の切替可能なものがある。
軍用・警察用は狩猟用に較べ殺傷力が高いために、治安上の観点からほとんどの国では一般人の所持が制限されている。日本でも12番を越える口径は、トド猟などの許可がある場合以外は制限されている。銃所持に寛容なアメリカでも銃身や銃床を切って18インチ以下の短い銃身を持つものを一般人が許可証なしで持つことは連邦アルコール・タバコ・火器取締局(BATF)が厳しく制限している。また、軍用銃と指定され所持が制限されている散弾銃も少なくない。
日本では一般の警察官は散弾銃を所持していないが、特殊急襲部隊(SAT)がモスバーグ社(アメリカ)、もしくはレミントン社やベネリ社(イタリア)の散弾銃を装備しているとの説がある。また海上保安庁では、M870、M500が配備され逃走船追跡の際に使用されており、自衛隊では特殊作戦群がM870を使用している。これまで、自衛隊は散弾銃を装備していなかったが、近年の国際情勢から、屋内戦、テロ対策用に装備された。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- http://www.rit.edu/~andpph/photofile-c/shotgun-shot-seq-1g.jpg ショットガン発射直後の百万分の一秒ごとの写真。 [1]より
- 鉛散弾の規制に関する銃保有者と自然保護者との共同プロジェクトの記録