新井素子
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新井 素子(あらい もとこ、1960年8月8日 - )は日本のSF作家である。ライトノベル作家の元祖ともみられている。
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[編集] 略歴
東京都練馬区生まれ。両祖父、両親が全て講談社に勤めており、実家にも大量の本があったため、幼い頃から多くの本と接して育つ。
1977年、東京都立井草高等学校2年生のときに、第一回奇想天外SF新人賞に応募した『あたしの中の……』が佳作入選。星新一の絶賛を受ける。(入選後に星新一と新井素子の父が東京大学農学部の同級生であることが判明。)高校2年という若さでのデビューは、北野勇作や久美沙織ら同世代の作家に強い影響を与えた。
立教大学文学部ドイツ文学科に進学しながら作家活動を続け、1981年に『グリーン・レクイエム』で第12回星雲賞日本短編部門受賞、1982年、『ネプチューン』で第13回星雲賞日本短編部門受賞。1999年 -『チグリスとユーフラテス』で第20回日本SF大賞を受賞している。
[編集] 文体と作品傾向
デビューがSF誌『奇想天外』だったこともあり、その直後はSFを中心に執筆していたが、1980年には『高一コース』で『星へ行く船』を連載し、また集英社文庫コバルトシリーズ(コバルト文庫)から『いつか猫になる日まで』を上梓するなど、活動の場をジュニア小説へも広げた。デビュー作『あたしの中の……』のときから、その特異な文体は注目されていたが、ジュニア小説で活躍することにより当時の中高生から大きく支持されている。
同時代の口語表現を積極的に取り入れ、一段落を「が。」の2文字で終わらせて改行するなど規範を大きく逸脱した文体は、「新口語文」(高橋源一郎『ラカンのぬいぐるみ』)、「第2の言文一致運動」と評価もされたが、日本語の貧弱化のきっかけになったと批判されてもいる。
デビュー直後の『毎日新聞』インタビューで本人が「マンガ『ルパン三世』の活字版を書きたかったんです」と述べたことから、当初からその文体はマンガやアニメとの関係で論じられることが多かったが、その後の本人の発言ではアニメやマンガの影響は無かったと否定されている。彼女によれば影響を受けたのは小林信彦の小説『オヨヨ島の冒険』であり、自分の文体を作ろうと思い立った中学一年生の時、『オヨヨシリーズ』を読んで感じた「会話の妙」と「間」をお手本としている。(『オヨヨ島の冒険』(ちくま文庫/角川文庫)の作品解説による)
アニメやマンガからの直接的な影響は無かったにしても、彼女の作品は新しい世代の言語感覚による「文章で書いた漫画」であると指摘されており、後の作家に対する影響力は無視できない(『ライトノベル完全読本Vol.2 コバルト編集部ロングインタビュー』)。PCゲームやコンシューマ機で急速に発展し現在は飽和傾向にあるノベル形式のアドベンチャーゲームのシナリオにも少なからぬ影響を与えた。
このように、新井素子の文体は後のライトノベル文体に大きな影響を与えたとされており、ライトノベルの元祖的存在ともされている。出版する全ての本にエッセイ風のあとがきをつけたことも、ライトノベルの元祖説を補強する材料にされているが、これは新井素子が愛読していた平井和正が始めたスタイルである。
作品傾向としては、20代前半までは同年代の女性を主人公とするSF小説が主であった。25歳で結婚後は、自らの結婚体験を元にしたコメディ(『結婚物語』など)や、サイコホラー小説(『おしまいの日』など)のような新たなジャンルにも挑戦した。また、自身の不妊体験を下敷きにしたかのような「産むということ」や「不妊ということ」「女性というもの」について独特の視点に基づいた小説を発表するなど、執筆活動の幅を拡げていった。そして文体は当初ほど過激でない一般的なものに近づいている。
身近に起こった出来事を明るく軽妙に綴るエッセイストとしても有名。最近になってコバルト文庫の『ブラックキャット』シリーズを20年越しで完結させた。
[編集] ぬいぐるみ
新井素子はまた、非常なぬいぐるみ好きでも知られ、約400匹のぬいぐるみとともに生活している。 新井素子は「ぬいぐるみは呼吸も新陳代謝もしないが、未知のぬいぐるみパワーとでも呼ぶべきものによって生きており、一種の精神生命体である」と常々主張している。
ぬいぐるみ関連の著書として次のようなものがある。
- 『わにわに物語』『わにわに物語II』
- 白いワニのぬいぐるみ「わにわに」が語ったエッセイを新井素子が口述筆記したとされるもの。 ISBN 4062630222, ISBN 406263371X
- 『くますけと一緒に』
- 「ぬいぐるみホラー」を目指して書かれたとされる小説。両親を亡くしぬいぐるみと話す少女の、ぬいぐるみ「くますけ」との交流や内面を描く。 ISBN 4199050779
- 『ぬいぐるみさんとの暮らし方』(グレン・ネイプ著)
- ぬいぐるみの生態や接し方について述べた本を新井素子が邦訳したもの(共訳:土屋裕)。ISBN 4105220012
- 『テディベアに会えた日』
- テディベアの写真集に新井素子が短い物語を付けたもの。 ISBN 4537024372
[編集] 代表作品
- 『あたしの中の……』(1977年)
- 『大きな壁の中と外』(1978年)
- 『宇宙魚顛末記』(1979年)
- 『星へ行く船』(1980年/全5巻。番外編に『αだより』『星から来た船』がある。)
- 『いつか猫になる日まで』(1980年)
- 『週に一度のお食事を』(1980年/森脇真末味により漫画化)
- 『グリーン・レクイエム』(1980年/第12回星雲賞日本短編部門受賞/1985年映画化)
- 『緑幻想:グリーン・レクイエム II』(1990年)
- 『ネプチューン』(1980年/第13回星雲賞日本短編部門受賞)
- 『ひでおと素子の愛の交換日記』(1981年~/漫画家の吾妻ひでおとの共著)
- 『扉を開けて』(1981年/1986年アニメ映画化)
- 『ひとめあなたに…』(1981年)
- 『ラビリンス―迷宮―』(1982年)
- 『二分割幽霊綺譚』(1983年ラジオドラマ化。)
- 『…‥絶句』(1983年/1984年ラジオドラマ化。本人も本人の役で出演)
- 『ブラックキャット』(1983年/3巻目と4巻目の発行の間が長かった。第一巻から完結まで19年かかっている。)
- 『あなたにここにいて欲しい』(1984年/1992年映画化)
- 『ディアナ・ディア・ディアス』(1985年)
- 『結婚物語』(1986年/1987年、沢口靖子、陣内孝則の主演でドラマ化)
- 『今はもういないあたしへ…』(1987年)
- 『季節のお話』(1989年)
- 『ふたりのかつみ』(1989年)
- 『おしまいの日』(1992年/1993年NHK-FMでラジオドラマ化、主演:谷山浩子/1999年映画化、主演:裕木奈江)
- 『チグリスとユーフラテス』(1996年~1998年/第20回日本SF大賞受賞)
- 『ハッピー・バースディ』(2002年)
[編集] 関連人物
- 星新一
- 初めて読んだSFが星新一の『妖精配給会社』。また作家デビュー時には強力な推薦を受けている。
- 平井和正
- その小説の愛読者だった。『狼男だよ』の主人公、犬神明が新井素子の初恋の人である。
- 谷山浩子
- 対談、ラジオ番組でのデュエット、ラジオドラマ化された『おしまいの日』の主人公を谷山が演じるなど関わりが深い。
- 吾妻ひでお
- 共著でエッセイ(新井が文章、吾妻がイラスト)を執筆した。