煉瓦
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煉瓦(れんが)は、粘土や頁岩、泥を型に入れ、窯で焼き固めて、あるいは圧縮して作られる建築材料。通常は赤茶色で直方体をしている。 焼成レンガは、土の中に入っている鉄分の影響により赤褐色となる。耐火レンガは炉材にも使われる。
煉瓦建築の技術は、日本では近代化とともに導入されたが、構造材として用いる場合は地震に弱いという難点があり、関東大震災では多くの被害を出したことから、煉瓦建築は小規模な建物を除いて激減した。ただし、建材には煉瓦風のタイルも様々なバリエーションが存在し仕上げ材としては現在でも多く用いられる。これは洋風の雰囲気を出すため、木造や鉄筋コンクリート造の表面に張り付けるものである。
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[編集] 煉瓦の歴史
煉瓦が建築材料として使用されるようになったのはメソポタミア文明の時代からである。チグリス川、ユーフラテス川にわたる広大な範囲で煉瓦建築が発展していった。紀元前4000年からの約1000年間は、乾燥させただけの日干し煉瓦が使用されていた。紀元前3000年頃からは、焼成煉瓦が使用され始め、この頃には大型の建造物の外壁の仕上げに焼成レンガが使われている。内部の壁には一番厚い日干し煉瓦を使用し、焼成煉瓦はそれを保護するために使われていた。紀元前1600年から1000年の間には金型を使って様々なスタイルに表面を細工した焼成煉瓦も見られるようになる。紀元前700年頃から湿式法を用いて焼成されたレンガで多くのモニュメントや重要な作品が作られ始めた。その時代にはまだ全ての工程が手作業で行われていたにもかかわらず、広範囲に渡る地域で多数使用されており、その生産量は驚くほど多い。
エジプトにおける煉瓦を使用した建築物は、メソポタミア文明より後のものであり、エジプトから煉瓦技術が地中海沿岸やインド、中国に伝わっていったと考えられている。最も古いピラミッドの中には、内部の壁に乾燥レンガを使い、外側を石で仕上げてあるものもある。また、その頃エジプトで使われていたレンガの寸法は、現在使用されているものに大変近い。
ヨーロッパでは数世紀間、レンガの生産技術(採砂、準加工、乾燥及び焼成方法)はローマより取り入れられてきた。煉瓦建築は19世紀まではあまり変化を遂げず、乾燥はそれに適した時期だけ日干しし、焼成は野外にレンガを山積みにして作った釜で行われていた。
今からおよそ100年ほど前に発動機(蒸気による機械)が導入されるようになってから、煉瓦生産の技法が変わり始めた。この機械の導入によって、準加工と成形工程を機械化させることが可能になり、生産力及び工場設備(機械)の作業能率が高まった。また、この発動機をとりいれた焼成システムによって、生産が合理化され同時に熱の消費が大幅に減った。
[編集] 積み方
建築に用いられる積み方にはフランス積み(フランドル積み)、イギリス積みなどがある。日本ではフランス積み構造は少なく、ほとんどは明治初期のものである。一般的にはイギリス積みが用いられる。ただし、表面には仕上げ材の煉瓦を積むので、小口積みのように見えるものも多い。
正面から見たときに、一つの列に長手と小口が交互に並んで見えるのがフランス積み。一つの列は長手、その上の列は小口、その上の列は長手、と重ねてゆくのがイギリス積みである。フランス積みの方がより優美に見えるが、構造的にはやや弱くなるといわれる。(下図・濃淡は小口と長手の区別のため便宜的につけたもの。)
なお、長手積みとは全ての列に長手だけが見えるように重ねる積み方で、小口積みとは全ての列に小口だけが見えるように重ねる積み方である。 歩道などにレンガを敷く時は、市松模様や網代模様も見られる。
[編集] 寸法・規格
レンガの寸法は、職人が持ちやすい大きさで慣習もしくは規格によって統一されてる場合が多い。国・地域・時代によって違いがあり、たとえば現在のアメリカでは 203mm x 102mm x 57mm、イギリスでは 215mm x 112.5mm x 75mm、日本では 210m x 100mm x 60mm のものが広く使われている(日本ではJIS規格が定められるまで、様々な寸法のレンガがあった)。この寸法を標準とし、各辺を 1/2、1/4、3/4 などの単純な分数倍したものを組み合わせて用いる。たとえば、日本で建築用に使われているものには以下のような寸法がある。(単位 : mm)
- 全形 (210x100x60)
- ようかん (210x50x60)
- 半ようかん (105x50x60)
- 半ます (105x100x60)
- さいころ (100x100x60)
また、JIS (日本工業規格)には、以下のものが定められている。
- 普通レンガ (JIS R1250)
- 建築用レンガ (JIS A5213)
- 耐火レンガ (JIS R2204~2206、JIS R2213) …… 炉材として使われる。
[編集] 煉瓦と環境問題
煉瓦を焼く燃料として薪を得るために無計画な森林伐採が行われ、砂漠化を招く場合がある。インダス文明・メソポタミア文明の衰亡の原因であるとも推測されており、中世ドイツなどでも森林の過剰伐採が行われた。燃料の選択肢も少なかった時代、煉瓦は環境破壊につながる建材だったのである。しかし現代では燃料も多様化しており、逆に型枠として木材を用いるコンクリート造よりも木材が節約できる。コンクリートの打ち込み型枠としてブロックを利用し、そのまま取り外さずに躯体として一体化する型枠ブロック工法も確立され、煉瓦もそのひとつとして使われることがある。
[編集] 日干し煉瓦
日干し煉瓦は、粘土を固めた後に天日乾燥させて造る煉瓦である。よく成形して乾燥させた日干し煉瓦は、見かけ以上に耐候性に優れ、普及している地域には希な規模の集中豪雨や長雨に晒されない限り、建設資材としての機能を保持し続ける。地震に弱いというデメリットもあるものの、乾燥地帯では理想的な建築材料の一つであり、現在でも広く使われている。
[編集] 煉瓦建築
[編集] 世界
ヨーロッパでは煉瓦は多くの建物に用いられているが、本格的な建物の場合、構造が煉瓦造でも表面を漆喰や石で仕上げることが多い。赤煉瓦のままの建物はよほど古風なものか、工場、倉庫など簡素なものである。しかし、イギリスなどで中世趣味のため、あえて赤煉瓦のままとすることがある。
[編集] 日本
日本で最初期に造られた煉瓦建築は幕末の反射炉である。お雇い外国人の指導で官営事業を中心に煉瓦の製造、建設が始まった。銀座煉瓦街の建設の際は大量の煉瓦を必要としたため、東京の小菅に煉瓦工場が築かれた。明治中期頃には煉瓦職人も増え、一般的な技術の一つになったが、耐震性の問題から、関東大震災以降、鉄筋コンクリート造が主流になった。
- 北海道庁旧本庁舎 - 明治21年築、赤レンガ
- 富岡製糸場
- 聖ヨハネ教会 - 博物館明治村に復元されている。
- 上野図書館(国際子ども図書館) - 明治41年~昭和4年築 構造は鉄骨で補強した煉瓦積、仕上げは白タイル。
- 赤坂離宮 - 明治42年築、構造は鉄骨で補強した煉瓦積、仕上げは花崗岩。
- 東京駅 - 大正3年築、国内最大規模の煉瓦建築。空襲で被害を受け、復旧の際に3階建から2階建に改められたが、元の形に復元する計画がある。
- 立教大学 - 大正7年築、赤煉瓦の校舎がキャンパスに並ぶ。
- 誠之堂 - 渋沢栄一に贈られたもので、世田谷にあったが、切断して深谷市に移築された。
- 深谷駅 - 東京駅の煉瓦を焼いた工場が深谷にあったことから、赤煉瓦の駅舎を建てた。構造は煉瓦造ではなく、一種のフェイクである。
- 横浜開港記念会館 - 明治42年築
- 横浜赤レンガ倉庫 - 明治44年築、赤レンガパーク
- 韮山反射炉
- 舞鶴赤レンガ倉庫群 - 大正6年~大正9年築
- 同志社大学 - 明治19年~築、今出川キャンパスに国の重要文化財指定の煉瓦校舎5棟
- 大阪市中央公会堂 - 大正7年築
- 泉布観 - 明治4年築
- 煉瓦倉庫レストラン街 - 明治31年築、ハーバーランド
- 兵庫県公館 - 明治35年築
- 神戸文学館 - 明治37年築、初代関西学院チャペル
なお、煉瓦を焼くために築かれたホフマン窯が日本国内に4か所ほど残っている。