地震
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地震(じしん)とは、
- 普段は固着している地下の岩盤が、一定の部分を境目にして急にずれ動くこと。
- それによって引き起こされる地面の振動。
の2つの意味で使われる。
正確には 1. を地震(じしん)と呼び、2. は地震動(じしんどう)という。一般にはどちらも地震と呼ぶ。
目次 |
[編集] 概要
火山のマグマの上昇などによって起こる火山の山体内部での地震を火山性地震、爆薬などにより引き起こされる震動を人工地震と呼ぶ場合がある。人工地震に対し、自然に発生する地震を自然地震と呼ぶ。震度や地震波の規模が小さい割りに、大きな津波が起こる地震を津波地震という。
規模が大きな地震には、前震・本震・余震がある。本震の前に起こるものが前震、後に起こるものが余震である。ただし、どの地震が本震であるかの判断は容易ではなく、断層のずれの程度や前後に起こる地震の経過、断層の過去の活動などを考慮して判断される。
ほとんどの地震は1回の岩盤のずれのみで終わることは無い。規模が大きな地震であるほど、本震の後に起こる余震の回数・規模が大きくなる。この余震の経過を示す法則には大森房吉が発見した「余震の大森公式」を改良したものがある。なお、地震の規模と前震の回数・規模は関連性が薄い。
通常は地震というと地震動を意味することが多い。また、地下で断層が動いた境目(地震波の発生源)を震源と呼び、地上における震央の真上の地点を震央と呼ぶ。テレビや新聞などで一般的に使用される震源図は震央の位置を示している。一度の地震により複数の地震が連動することが多く、これらの震源が集中しているところを震源域と呼ぶ。
地震により発生する波を地震波と呼ぶ。地震波には、地表を伝わる「表面波」(レイリー波・ラブ波)と岩盤中を伝わる「実体波」(P波・S波)がある。
[編集] 地震の規模と揺れの指標
- 詳しくはマグニチュードを参照。
地震の規模を表す指標の一つにエネルギー量を示すマグニチュードがあり、Mと表記する。マグニチュードには算定方法によっていくつかの種類がある。日本では、気象庁が独自の定義による気象庁マグニチュードを発表しており、地震学では Mjと記される。これに対し、外国の多くでは表面波マグニチュード Msのことを、単にマグニチュードと呼ぶことが多い。他にもそれぞれの観測機関によって使用されるマグニチュードのタイプが異なる場合もあるが、差は最大でも0.1~0.3程度である。が、これらは最初にマグニチュードを定義したチャールズ・リヒターのものの改良版であり、基本的に地震動の最大振幅を基礎とする。いずれも8.5程度以上の大地震ではその値が頭打ち傾向になることから、地震学では地震モーメントから算出されるモーメント・マグニチュード Mwと呼ばれる値が地震の規模を表す指標として用いられている。
- 詳しくは震度を参照。
地震動の大きさを表す指標には一般に広く使われている震度のほか、地震動そのものの最大加速度や最大速度が用いられる。建築物や土木構造物の耐震設計の分野では応答スペクトルやSI値という指標も、地震動の大きさを表す方法として広く用いられている。 震度については、日本では気象庁震度階級、アメリカ合衆国では改正メルカリ震度階級、ヨーロッパではヨーロッパ震度階級(EMS)、CIS諸国やイスラエル、インドなどではMSK震度階級が現在使用されているほか、ほかにもいくつかの指標がある。
地震の規模が大きいほど震度は大きくなる傾向にあるが、断層のずれの方向や速度、震源の深さ、地面の構造や性質によって地上の揺れは大きく異なる。
[編集] 地震の原因と震源

研究段階であり完全に解明されたわけではないが、通常の地震はプレート運動により地殻内で応力が局所的に高まり、岩体の剪断破壊強度を超えて断層が生じあるいは既存の断層が動くことが原因であると考えられている。大きな地震では震源に近い別の断層が同時に動くこともある。火山活動に伴う地震(火山性微動)には断層と関係が無いものも多い。断層を原因として発生する地震には大きく3種類ある。
[編集] プレートの沈み込みによって発生する地震
日本周辺では海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込み、両者の境界が応力により歪みを受け、ばねのように弾性力を蓄え、やがてそれが跳ね返る時に地震が起こると考えられている(弾性反発説)。マグニチュード8クラスの大きいものはおよそ100~200年周期で発生し、海溝型地震とも呼ばれている。規模が大きいときには、海域での地震発生に伴って、津波が発生することがある。震源断層は海洋プレートと大陸プレートの境界そのものである。震源域が広く規模が大きいため、被害が広範囲にわたることがある。
2003年9月に発生した十勝沖地震、近い将来の発生が指摘されている東海地震のほか、東南海・南海沖の南海トラフ、宮城県沖や三陸沖の日本海溝、根室沖などの千島海溝で発生する。震源地は地面の下だが、関東大震災の原因となった関東地震も相模トラフの地震であり、この分類に含まれる。日本以外でもメキシコやチリ沖などの太平洋沿岸で大規模な海溝型地震が発生する。
なお、2005年8月16日発生の宮城県沖のM7.2の地震はこのタイプであったが、想定されている再来宮城県沖地震ではないという結論が同年8月17日の地震調査委員会で出された。
[編集] 大陸プレートの内部で発生する地震
大陸プレートが海洋プレートに押されつづけたその力に耐えかねてあちこちでひび割れ、押された力を上下に逃がす形で山が高く、谷が深くなるように岩盤が動くこととして説明される。このときに生じるひび割れが活断層である。場所によっては、岩盤が断層を境に水平にずれることもある(詳細は断層を参照のこと)。地震の規模は活断層の大きさによるが、大きいものではM7~8に達する。内陸の活断層は都市の直下や周辺にあることも少なくなく、直下型地震[1]とも呼ばれる。同一の活断層での発生は数百年から数万年に1回の頻度とされている。都市の直下で発生すると甚大な被害をもたらすことがあるが、大きな揺れに見舞われる範囲はプレート境界でおこる地震と比べると狭い領域に限られる。
1995年1月の兵庫県南部地震(M7.3、最大震度7)や2000年10月の鳥取県西部地震(M7.3、最大震度6強)、2004年10月の新潟県中越地震(M6.8、最大震度7)などが該当する。日本以外でも、アメリカの西海岸、フィリピン、インドネシア、アフガニスタン、イラン、トルコ、ニュージーランドなどにも活断層が密集しており、大きな直下型地震が発生する。このタイプの地震の発生を予測するために、地震学者たちは1980年以後日本全土の活断層を調査し、危険な断層を順次評価している。兵庫県南部地震の前に公表された活断層の地図には他の大断層類と同時に「危ない断層」として有馬・高槻・六甲断層帯が危険と表示されていた。この調査作業は現在も継続して続けられている。
[編集] 大陸プレートの下にもぐりこんだ海洋プレートが地下深部で割れて起こる地震
スラブ内地震、プレート内地震あるいは深発地震などと呼ばれる。一般に震源が深く、したがって震源と地上地点の距離は長い場合が多いにもかかわらず、被害としては侮れない。また深い分、広範で最大震度に近い揺れに見舞われることにもなる。
近年の例では、1987年の千葉県東方沖地震(M=6.7、深さ50km、最大震度5:千葉県全域)、1992年2月の浦賀水道の地震(M=5.7、深さ92km、最大震度5)、1993年1月の釧路沖地震(M=7.5、深さ101km、最大震度6)や2003年5月の宮城県沖の地震(M=7.1、深さ72km、最大震度6弱、広範で5弱以上…山形県村山市でも計測震度4.8を記録、建物被害あり)のような被害事例が見られる(注:2003年9月17日に気象庁によってマグニチュード算出方法が改訂されたが、これにより過去の地震も修正された。ここではそのマグニチュードを用いている)。
福島県沖や茨城県沖で頻繁に発生する地震のほか、1993年1月の釧路沖地震、2001年3月の芸予地震や2003年5月の宮城県沖の地震もこのタイプの地震である。
3種類の地震とも原因はプレートテクトニクスで説明できるとされている。
尚、2005年8月発表の京都大大学院理学研究科の嶋本利彦教授(構造地質学)らの研究によると、地震発生時に断層のすき間に水がある場合、断層のずれと水圧によって、強い地震の波が起きるとされている。
[編集] 人為的な原因によって起こる地震
人間活動が引き起こす地震もある。1つは、ダムの建設や地面の掘削・造成、石油や天然ガスなどの採掘が地下構造を変え、地震を誘発するものである。1967年12月10日にインドのマハーラーシュトラ州西部で起きたM6.3の地震は、貯水池の建設や貯まった水の水圧によって誘発されたものだった。もう1つは、爆弾の爆発によるいわゆる人工地震である。1961年10月30日にロシアのノヴァヤゼムリャで行われた核実験(ツァーリ・ボンバ参照)では、約M7に相当する揺れが発生した。
[編集] 地震動と地震波
断層のずれによって発生した振動は、地震波という形で周囲に伝わる。地震波には大きく分けて実体波と表面波の2つがあり、実体波はP波とS波、表面波はレイリー波とラブ波にさらに分類される。一般的に地震計で計測されるのは実体波のみであり、震度やマグニチュード、震源位置の推定などは実体波の計測結果から計算される。よく言われるのが、地震が発生したとき、初めに小さなゆれを起こすP波が来て、少し経ってから大きく揺れるS波が来る、ということである。これは基本的には正しいが、時に揺れの大きいP波によって被害が出ることもあるほか、震源が近くにある場合はP波とS波がほぼ同時に到達するなど、留意すべき点がある。
地表では、P波による揺れが始まってからS波が到達するまでは、初期微動と呼ばれる比較的小さい揺れに見舞われる。その後、P波が到達した後は主要動と呼ばれる比較的大きい揺れとなる。また震源から近い場所では、P波が到達する前後にレイリー波も到達し、同じく揺れを引き起こす。
[編集] 地震の多い地域・被害の大きい地域
主な地震の震源を地図にして地球の表面を概観すると、プレートテクトニクスの考え方でいう環太平洋造山帯やアルプス・ヒマラヤ造山帯の周辺は地震が特に多い地域があることが分かる。しかし、これ以外にも地震が多い地域がたくさんある。これらの地域は造山帯または地震帯(火山に着目した場合火山帯とも呼ぶ)と呼ばれ、地殻や地面の活動(移動)が活発で、地震も活発である。しかし、この地図はあくまで一定期間に発生した地震を集計したものであり、「地震の起こりやすさ」を表したものである。この地図で地震が少ない地域でも、絶対に地震が発生しないわけではない。
地震による(人間への)被害が大きい地域は、地震の多い地域とは異なる。右の図「表層地盤のゆれやすさ全国マップ」に表されたような地盤の揺れやすさや、人口密度の大小、建造物の強度によって被害が異なるためである。また、地震が発生する時間や時期などによっても被害は異なる。
[編集] 主な活断層・海溝
地球上で地震の原因とされる活断層(地溝・海溝などを含む)のうち、主なものを挙げる。これらは周期的に大地震を発生させるものが多い。
- アルペン断層
- カラヴェラス断層
- カスケード沈み込み帯
- デスヴァレー地域
- グレートグレン断層
- グレートスマトラ断層
- ヘイワード断層帯
- サンアンドレアス断層
- ニューマドリッド断層帯
- 北アナトリア断層(アナトリア断層帯)
- 日本海溝
- 千島海溝
- 南海トラフ
- スンダ海溝
- ジャワ海溝
- 中央アメリカ海溝
- ペルー海溝
- チリ海溝
- ケルマデック海溝
[編集] 地震による被害と対策
- 詳しくは震災を参照。
地震による災害のことを震災(しんさい)と言う。特に激甚な被害のあった震災のことを大震災と言い、地震とは別に固有の名称がつけられることがある(関東大震災、阪神・淡路大震災など。但し命名するか否かは気象庁長官の判断に委ねられる)。
- 地震による主な被害
- 窓が割れる。建造物のひび割れ、崩壊
- 家具や置物の転倒、飛散
- 火災
- がけ崩れ、地滑り、液状化現象
- 津波
- 道路や水道、送電線などのライフラインの遮断
- 怪我、生命への危険
- 治安の悪化
- 衛生環境の悪化、感染症の流行
これらの被害を防ぐため、耐震補強により建造物の耐震性を高めるなどの対策がとられる。日本においては、建築基準法などにより耐震基準が定められている。また、被害の拡大を防ぐために、地震や津波の情報を迅速に伝達することも重要とされる。現在、日本においては、一部の鉄道でユレダスが運用されているほか、一般に向けた緊急地震速報の運用も検討されている。大地震による災害時には、電話など通信の混雑への対策として災害用伝言ダイヤル(携帯電話においてもiモード災害用伝言板サービスなどの同様のサービスがある)が設置されるなどしている。また、自治体や民間が協力して臨時災害放送局を設置し、被災者への情報提供が行われた例もある。 普段においては、防災訓練や非常袋の準備などが代表的な対策として挙げられる。
長期的に見て、地震による被害は縮小する傾向にある。これは、建造物の耐震化や地震に強い社会基盤の形成、さらに地震に関する知識や防災意識の浸透によるものが大きい。
[編集] 地震予知
地震による被害を軽減するために、人類は揺れに強い建物を造る努力を続け、現在では大地震に耐えられるような建物を造ることができるまでになった。一方で、地震の発生時期を予測して被害を軽減しようと、数千年前から地震予知を試みてきた。しかし現在でも、一般には、地震の発生を事前に「正確に」予知することは困難とされている。
ひと口に地震の予知と言っても、そこにはさまざまな範囲や形式が考えられる。 端的に言って「何月何日の何時に、何処でどれだけの規模の地震が発生する」といった範囲・形式での予知を、科学的な手段による根拠を提示して行うことは、少なくとも現時点では不可能と言ってよい。
地震学者や行政が公式に認め取り組んでいるのは、ほとんどが地学的な地震予知である。また一部の研究者は従来の地学的手法とは異なる観測方法を用いた地震予知を研究している。これらのほかに、地震前に広く見られると言われている種々の前兆現象(宏観異常現象)を予知に用いる研究をする人もいるが、地震学者からはほとんど認められていない。
[編集] 広く認識されている地震予知
地学系研究:概略として、地殻にたまったエネルギーがひずみとして蓄積され、それが数秒~数分という短時間に一気に解放される現象が地震である(数日~数ヶ月に渡って解放されるスロースリップ現象なども、広義の地震には含まれるが)。そのため、地震学者はまず地殻や断層のひずみ(変形)の量、方向などを検証し、蓄積されていると考えられるエネルギーから各断層についてそれぞれのデータを集積し、切迫度や規模などを推測する。
この各種のデータや知見の精度を向上させることによって、既知の断層に関してはその切迫度(地震発生が近いかどうか)や、活動した際に解放され得るエネルギーを推測することは可能であり、断層が活動した際(地震が発生した際)の脅威度の比較や被害の算定、対策などに繋げてゆくことができる。
ただし、特定の断層にたまったエネルギー量がいつ地震を起こすほどになるかを判定することは容易ではない。 地震は岩石の破壊によって生じる現象であるが、そもそも破壊とは偶然に依存する面が大きいこととも関係している。例えるなら、「弓の弦がどの程度張っているか」を推測することは、既知の観測体制の整った断層に対しては、現時点でもある程度は可能である。一方、特定の地殻や断層に蓄積されたエネルギーが実際にいつ解放され地震を起こすか、「張り詰めた弦がいつ切れるのか」を判定することは容易ではない。
これが、現在地震学者などが一般的に認める「地震予知」という概念である。
現実的な地震予知の可能性については、茂木清夫(東京大学名誉教授、前地震予知連絡会会長)が指摘した。すなわち、1944年の東南海地震の直前に静岡県掛川市で実施されたいた水準測量で、地震の直前に異常な変動が観測されたというものである。これはその後、「東海地震は予知可能」との国の見解や世論へと発展した。一方で鷺谷威(名古屋大学助教授)など、その水準測量データや解釈に疑問を持つ科学者も多い。
日本以外では、地震予知に成功したという話がまれに聞かれる。たとえば1975年に中国で発生した海城地震は地震予知に成功し多くの人命が救われた例である。しかし翌1976年の唐山地震では、発生する可能性が高まっていることが分かっていたものの決定的な情報がないまま結局予知することができず、約24万人が死亡した。ギリシャでも地震予知に成功した例があるが(ただし政府は予知を認めず、科学者が独自に警告していた)、成功例はその1回のみで、同国ではその後もたびたび被害地震に見舞われている。
こうした例が示すように、地震予知は場合によっては可能だが、地震を「確実に」予知するということは極めて困難であるというのが地震学者の一般的な認識である。
- 南海地震
- 例えば、南海トラフの沈みこみを原因とする南海地震の場合、断層(トラフ)に近い室戸岬はプレートの沈み込みに引きずられて普段から少しずつ沈み続け、地震の折に一気に跳ね上がる。トラフから離れた高知市街では、室戸の沈みこみに対して浮き上がり続け、地震の際に一気に沈下する。
- これらの傾向はこれまで同地で記録された殆どの地震について一定している。それゆえ、沈みこみが鈍化・停止したときは、地震発生が近い可能性がある。南海地震については道後温泉の水位変化などの記録も蓄積されおり、地殻変動の観測以外にも予知に関する補助的な情報が豊富である。
- 東海地震
- また近い将来に発生するとされている東海地震については、日本の行政・研究者が予知の可能性が高いと考え、観測体制・判定会の開催・警戒宣言の発令等の手順が明確にされている。
- 1978年に地震学者の提言を受けて、国が「大規模地震対策特別措置法」を制定し、それ以来静岡県周辺で重点的に地震や地殻変動の観測が実施されている。東海地震は、世界で初めて「偶然ではなく狙って予知する」ことができるのではないかと期待されている。詳しくは「東海地震」を参照のこと。
[編集] 新しい観測手法
電磁波系研究(電磁気地震学)など
(Note.) 電磁波系研究に関しては、次のような仮説から行われている。地殻内における歪の蓄積によって、地殻崩壊が起こるとき、石英や花崗岩(主成分はSi)などが伸縮を起こすことによって、電流を生じさせる。この電流によって生じる電波や電流を観測することによって、地震の早期警戒に役立てようとする研究であるとされる。特に、大規模地震などの場合には、地殻の崩壊体積が大きくなる。よって、その分だけ地殻内に生じる電流量が大きくなるために、ある程度の精度の機器ならば検出が可能である可能性がある。ただし、大規模地震において、地殻の崩壊はある程度の範囲に分散するため、震央部の特定は難しいとされる。なぜならば、ある程度の特定地域に対して警戒情報を流すことができるが、その影響を被る全体への影響が考慮されないためである。
[編集] 宏観異常現象による地震予知
俗に「地震前にはナマズが暴れる」「動物などが奇妙な行動をとる」といった言い習わしがある。例えば微振動や地鳴り、低周波の振動などを敏感な動物が感知して騒ぐといった機序も、可能性としては考えることができる。あるいは、地電流の異常やそれに伴う地磁気の変動なども観測されうるといった主張もある。しかし、これらの仮説や言い伝えの妥当性や信頼性、「地震予知」の根拠や方法などとして実際に役立てられるかどうかについては、全くの別問題である。
この他にも、地震が発生する前に現われるとされる気象現象や生物の行動の変化などを宏観異常現象としてとらえ、地震を予知しようとする試みがあるが、その殆どがいまだその妥当性やメカニズムに関して一般的に論ずることのできる段階にはない。
特に地震雲については、岩盤の崩壊により電磁波が生じて雲を作るとされる。しかし、雲の形と地震発生との関係が全く不明(気象要因によって形を変えるとも言われる)、また雲のほとんどが気象状況により発生のメカニズムが証明できるもので、否定的見解が多数派。気象庁地震予知情報課も「占いと同レベル」としている。新潟県中越地震の直後に“地震雲では”と寄せられた情報のほとんどは、飛行機雲、巻き雲、高積雲などだったという。しかし、世間一般で言われる地震雲は、全て気象学上分類される雲のどれかに該当するという考えもある。 中国では、1975年に発生した海城地震において、国家地震局が動物の行動異常による直前地震予知に成功し、死傷者の軽減に貢献した事例が有ると言われている。しかし、どんな動物が何匹、何時騒いだのかは公表されていない(また、その翌年に発生した唐山地震においては同方法による直前地震予知は失敗しており、以後の検証も行われていない)。
[編集] 地震予知の問題点
日本では1997年から2006年までの10年間に阪神淡路大震災を含め27回の大地震が発生したが、予知に成功したケースは1度も無かった。日本で、「現状の地震学は疑似科学の領域である」と揶揄されるのはこの実績の無さが原因だとされる。
日本の科学的な観察機器による、地殻のひずみ計測の歴史は高々30年程度であり、蓄積された数千年のひずみに比べ30年は一瞬。
地震を予知したと危機感を強調する地震学者や有名人、一般の人でも地震の怖さを強調する人がテレビに出演しているという現状があり、メディアが科学的根拠が乏しい情報を煽っている部分がある。地道に、地震のことを研究している多くの地震学者からは不満の声もある。
地震調査研究本部の「確率論的地震動予測地図の試作版(地域限定-西日本) 平成16年 3月25日 」(参考[1])では、東海・東南海・南海などで30年以内に40~50%(50年以内なら80%以上)の確率で地震が起こると試算している。これらの地域では長さ数百kmの断層全体が一度に動き、広範囲に被害が及ぶような地震が度々起きたことが判っているが、「次」がいつ起きるのかはわからない。
日本全体でも年平均3回の大地震が起きているが「日本で年間数回必ず起きる」としかいえないのと同じことである。
確率論とは、人工衛星も、レーダも、観測機器も、無線もない大昔の台風の予測のように、昔の経験を基にして予測している。 それだけ、地震予知の理論的根拠は薄弱である。
阪神・淡路大震災は淡路島北部地下15kmで発生したが、その場所がどのようになっているか、地上の観測による憶測でしか分かっていない。
直下型地震は人の住んでいない所で起きれば被害も少なく大きな問題ではないが(鳥取県西部地震など)、大都市や町の近く(約50km以内)で起きれば大きな被害が出る恐れがある。[2]
各研究所では予算獲得の手段として、センセーショナルな予測をする傾向にあり、マスコミも不安を煽るために、データの一部分だけ報道し、視聴率アップの手段として利用する場合が多いとの指摘もある。
1万年前と同じように、1分後にも大地震が起こる可能性は否定できないわけであり、最悪のことを予測して対策を立てることは重要である。 また、日本では過去1000年間大地震が起きていない町が大半であるが、地震の経験の無い町も1分後に大地震が起こる可能性はある。
[編集] 日本における地震対策と体制
日本付近では4つのプレートが衝突し、約2,000以上の活断層が有ると言われており、調査が進むにつれて年々その位置は変わり、数は増えている。どこで地震が発生して被害が出てもおかしくない。地震が少ない国に比べて、個人にとっても社会にとっても、日本は地震被害による政治・経済・社会的なリスクが非常に高い国であるといえる。そのため、個人と集団がともに地震の被害を抑えるための対策をとることが必要である。
集団(政府・行政)による地震対策を見ると、日本には地震に関する組織が比較的たくさんある。ただし、業務が重複している部分も見られ、研究者の間でもこれらの組織の役割の違いを明確に説明することは難しいとされている。アメリカ合衆国ではアメリカ地質調査所 (USGS) が下に掲げているような役割をほぼ一元的に担っている。
[編集] 個人で出来る地震対策
地震の適切な対策を講じておれば、被害を未然に最小限にすることが出来る。
阪神・淡路大震災では、死者6,000人のうち、約5,000人が木造住宅の倒壊による圧死(その多くが即死)が原因とされる。したがって、出来るだけ新しい建築基準法に沿った、耐震性の高い住宅に住むことが一番である。特に、柱を土台と連結していない古い木造住宅、重い瓦屋根は地震の時圧死の危険があるといわれる。
対策としては、柱を土台とボルトなどで連結することや、骨組みへの筋交いの追加などの補強、瓦屋根よりも軽量な新建材にすることが有効といわれる。既設の住宅については、耐震診断や補強のための費用の一部が、自治体から補助される場合があるので、自治体に確認すると良い。
建物が地震に耐えられても、タンスなど室内の家具が転倒することがある。家具の転倒を防止するために、天井と家具の上部に渡すつっかえ棒や、家具自体を柱や梁にL字金具で固定してしまう方法がある。
避難場所としては、市町村で公園や学校などが指定されているが、本当に自分の住宅から避難する場合、適切な場所か実際に歩いて、確認をする必要がある(市町村の公務員が、全市民の住宅からの避難経路を全て把握している訳ではない)。
多くの場合、学校、新築のマンション、新築の住宅等が近くにあれば安全に避難が出来る。
[編集] 地震調査研究推進本部
1995年の阪神・淡路大震災をふまえ、1995年7月に制定された地震防災対策特別措置法に基づいて設置された組織である(略称「推本」)。 地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進について総合的かつ基本的な施策を立案することなどを目的としている(同法第7条第2項)。発足当時は、総理府に設置されていたが、中央省庁再編によって文部科学省へ移管された。本部長は文部科学大臣である。本部の下に政策委員会と地震調査委員会が設置されている。
政策委員会は関係各省庁の局長級幹部、地方自治体の長、学識経験者によって構成されており、各省庁の地震に関する研究及び調査観測計画の調整、予算配分の方針、調査の成果を社会に広報するための方針など審議している。定められた観測計画に基づき、強震計、高感度地震計、GPS連続観測点が全国に各1000点ずつ整備された。この観測体制は世界随一の体制である。また、地方自治体に交付金を配分し、活断層や地下構造の調査をさせている。
地震調査委員会では国立大学法人や独立行政法人などの研究者が毎月集まり、国内の地震活動の状況について検討し、評価文を毎回公表している。大地震が発生した場合には一両日中に臨時会が招集され、検討が行われる。また、地震調査委員会の下に設置される長期評価部会では、全国の98の主要活断層や主な海溝型地震についてその危険性を検討し、発生確率や規模などを公表している。同じく強震動評価部会では、長期評価部会での評価に基づき、それらの地震が実際に発生した場合の揺れの大きさをコンピュータシミュレーションによって試算した地震動予測地図を作成する作業を進めている。2005年3月末には全国を概観した地震動予測地図の第一版が完成し、各地域で将来見舞われる地震動の大きさが把握できるようになった。これはWWW上でも公開されている。
[編集] 中央防災会議
災害対策基本法に基づいて設置された内閣総理大臣を長とする機関であり、事務局は内閣府である。 会議は内閣総理大臣、全ての閣僚、指定公共機関の長4名及び学識経験者4名によって構成されている。国の防災基本計画の策定や重要施策の決定、大規模地震対策特別措置法に基づく東海地震の地震防災対策強化地域の指定(2002年4月見直し)、東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法に基づく地震防災対策推進地域の指定(2003年12月)などを行っている。地震のほかにも火山災害や風水害などの政策も担っている。
[編集] 気象庁
気象業務法に基づいて地震観測を行って、マグニチュードや震度などの地震情報を発表している。 また、東海地震予知のための地震防災対策強化地域判定会を設置しており、気象庁が行っている前兆現象の観測結果から東海地震の発生が予知された場合には内閣に報告し、内閣総理大臣が警戒宣言を発令する。 詳しくは気象庁を参照すること。
[編集] 地震予知連絡会
国土交通省国土地理院に設置されている。地震予知に関する観測データや研究成果などの情報交換のために設置されている。法律で設置されているわけではなく、研究者間の情報交換が主な目的であり、何か政策を決定するという類の会議ではない。通常は3ヶ月に1回開催される。
国立大学法人北海道大学、東北大学、東京大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、九州大学、独立行政法人防災科学技術研究所、独立行政法人海洋研究開発機構、独立行政法人産業技術総合研究所、海上保安庁、気象庁、国土地理院から選出された30人の委員及び若干名の臨時委員と名誉委員から構成される。委員の交代はあるが、構成機関は当該機関の組織改編などを除けば変わることはほとんどないといってよい。2005年現在の会長は、大竹政和東北大学名誉教授(在任2001年4月~)である。歴代会長は萩原尊禮(在任1969年4月~1981年3月)、浅田敏(在任1981年4月~1991年3月)、茂木清夫(在任1991年4月~2001年3月)と、その時代の地震予知研究の代表的な地震学者が会長に就任している。
[編集] 地震予知研究協議会
東京大学地震研究所に1978年に設置された機関である。東京大学の機関であるが、「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」という建議に基づき、各国立大学で行われている地震予知研究の方針、観測計画や予算に関する調整を大学間で行っている。大地震発生時の緊急対応のほか、政府と大学の間の窓口としての役割も担っている。現在、国内の各地域を分担するように、北海道大学・弘前大学・東北大学・東京大学・名古屋大学・京都大学・高知大学・九州大学・鹿児島大学によって運営されている。
[編集] 地震に関する言い伝え
日本では古来より地中深くに大ナマズが存在し、その大ナマズが暴れることにより大地震が起きるという俗説が信じられていた。その為なのか、一部の人などでは今でもナマズが暴れると大地震が来ると信じられている。だが、ナマズがどのようにして地震を予知できるのか根拠が見つかっていない。また、鹿島神宮にはこの大鯰を抑えるという要石があり、地震の守り神として信仰されている。地震避けの呪歌に、ゆるぐともよもや抜けじの要石鹿島の神のあらむ限りはというものがある。
北欧神話においては地底に幽閉されたロキが、頭上から降り注ぐ蛇の毒液を浴びたときに震えて地震が起きるとされている(詳細はロキを参照のこと)。ギリシア神話ではポセイドンが地震の神とされた。
[編集] その他
- 菅原道真は870年(貞観12年)に方略試という当時最高峰の国家試験を受けたが、そのうちの一問が「地震ヲ弁ズ」(“地震について述べよ”か?)というものであった。道真の答案は『菅家文草』によって読める。
- 江戸時代後期に佐久間象山が日本で初となる地震を予知をする機器「地震予知器」を開発した。安政江戸地震を機に大地震の予兆について人々から聞いた話を元に作られた道具で磁石の先端に火薬が付けられ、その火薬が落ちると大地震が来ると言われている。ちなみに科学的根拠は皆無とされている。
- NHKでは、震度6弱以上の揺れを観測する地震が発生した場合、テレビ・ラジオのすべての番組(内容によっては国際放送も)を中断して、地震の情報を伝えている。
- 地震専門家は1995年に起きた阪神大震災を機に、西日本は本格的な地震の活動期ではないかと推測しており、西日本で周期的に発生している南海地震や東南海地震、またそれに連動して東海地震を指摘する声もある。(西日本地域の地震参照)
[編集] 註
- ^ 関東地震のように、陸地の直下を震源とする海溝型地震もあるため、それと区別する意味で「陸域の浅い場所を震源とする地震」のような言い方もされる。
- ^ 阪神大震災の折でも神戸から50km離れた東大阪市では、地震の被害はわずかであった。100km離れた岡山市では被害が出ていない。
[編集] 関連項目
- 震災
- 地震の年表 -(世界中の地震のリスト、規模や被害による順位)
- 関東大震災/兵庫県南部地震/新潟県中越地震
- 東海・南海・東南海連動型地震(東海地震/南海地震/東南海地震)
- 東京大震災
- 地震学
- 地震波
- 震源・震央
- 震度・マグニチュード・メルカリ震度階級
- 余震
- 地震計・感震計
- 断層
- 津波
- 地震PML
- 火災旋風
- 深部超低周波地震・海震
- 月震:月に起こる地震
- 気象庁
- P2P地震情報・緊急地震速報
- 緊急警報放送・市町村防災行政無線
- E-ディフェンス(世界最大の震動破壊実験施設)
- 災害救助犬
- 災害
- 耐震基準
- 構造計算書偽造問題
- 長周期地震動
[編集] 出典
- 関連図書
- 『理科年表』文部科学省 国立天文台(編):過去の地震のデータ
- 2006年版 ISBN 4-621-07637-X
- 『大日本地震史料』震災予防調査会編纂 1904年
- 日本における幕末までの地震史料の集大成
- ウェブ
出典資料
- S C Bhatia, M Ravi Kumar and H K Gupta. "A Probabilistic Seismic Hazard Map of India and Adjoining Regions" Global Seismic Hazard Assessment Program. .
[編集] 外部リンク
- 地震
- 気象庁
- 気象庁 防災気象情報 地震情報 - 地震速報、震源・震度に関する情報、各地の地震情報。
- 気象庁 気象統計情報 地震・津波 - 地震・津波に関する最新情報、資料等
- 気象庁 気象等の知識 地震・津波 - 地震や津波に関するメカニズム・観測・情報、過去の地震災害、東海地震などの解説
- Hi-net(高感度地震観測網)・携帯版
- 東京大学地震研究所
- 東京大学地震研究所 地震予知情報センター
- webSEIS - 最近の地震情報などを見たり調べたり、これまでの地震活動の検索することができる。
- 日本地震学会
- 地震調査研究推進本部
- 独立行政法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
- 独立行政法人 産業技術総合研究所 活断層研究センター
- 活断層データベース - 日本の主な活断層の平均変位速度などのパラメータや、それらの算出根拠となった調査データがまとめられている。
- 防災
- 内閣府防災情報
- 「地盤のゆれやすさ全国マップ」(PDF)
- 「わが国の災害対策」 (PDF)
- 特定非営利活動法人リアルタイム地震情報利用協議会(緊急地震速報に関する研究調査や普及活動)