燕の巣
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燕の巣(つばめのす、漢名:燕窩)は、中華料理(広東料理)の高級食材とされるアナツバメ類(ジャワアナツバメなど数種)の巣である。
独特のゼリー状の食感が特徴であり、スープの具やデザートの素材や飾り付けとして用いられる。主にアナツバメ類の唾液腺からの分泌物からできている。海藻と唾液を混ぜて作った巣という俗説は正しくなく、海藻は基本的には含まれない。
タンパク質と多糖類が結合したムチンが主成分であり、タンパク質と共に、糖質の一種であるシアル酸を多く含む。古くから美容と健康によいとされている漢方食材でもある。
元末明初頃に中華世界に知られるようになり、清代になるとふかひれ、乾しあわびと並ぶ高級中華食材として珍重されるようになった。
日本で人家の軒先等に一般的に見られるツバメの巣とは別のものである。アナツバメ類はアマツバメ目アマツバメ科に属し、東南アジア沿岸に生息する。巣は海岸近くの断崖につくられる。アマツバメ科の鳥は一見スズメ目ツバメ科のツバメなどに似た姿をしているが、むしろカワセミやブッポウソウに縁が近く、ツバメとはかなり縁の遠い系統群の鳥である。
アマツバメ科は極端に空中生活に適応したグループで、繁殖期を除いてほとんど地表に降りることはない。睡眠も飛翔しながらとると言われている。巣材も地表から集めるのではなく、空気中に漂っている鳥の羽毛などの塵埃を集め、これを唾液腺からの分泌物で固めて断崖などに皿状の巣を作る。アナツバメ類の一部は、空中から採集した巣材をほとんど使わず、ほぼ全体が唾液腺の分泌物でできた巣を作る。巣によって羽毛などの巣材を比較的多く含むものから、全くと言っていいほど含まないものまで差があり、少ないほど食材としての品質は高い。調理に際しては湯で柔らかく戻してから、ピンセットなどで丁寧に羽毛などを除去する。食材として巣を採集された親鳥は巣を再建するが、時間をかけてほとんど分泌物のみから成る巣を作るゆとりはないので、新しい巣は他のアマツバメ科の鳥と同じように空中から集めた巣材を多く含む巣となる。
燕の巣は断崖絶壁にあるため、得るためには非常に危険を伴い、熟練した採集人によって採取される。こうした営巣習性の鳥はしばしば鉄筋コンクリート製の建造物の増加した近代的な都市を本来の営巣環境に近似した環境と受け止めて繁殖地とする事例(ハヤブサやチョウゲンボウの例が著名)が目立つが、アナツバメ類にもこうした傾向が見られ、最近ではタイなどの東南アジア諸国の都市部の鉄筋コンクリート製建造物の内部に条件を整えることで集団営巣地を作らせることができるようになり、市場への供給量が増した。
燕の巣には種類があり、一番高級と言われているのは官燕(ゴウヌイエヌ)もしくは血燕(シェイエン)である。