白酒 (中国酒)
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白酒(パイチュウ、ピン音:báijiǔ)は、穀物から造られた中国産の蒸留酒。主原料から高粱酒(カオリャンチュウ、gāoliángjiǔ)ともいい、中国東北部では白乾児(パイカール、báigār)ともいう。
白酒の“白”は“透明”の意味だといわれる。これに対して、醸造したまま蒸留していない茶色っぽい酒を、黄酒(ホアンチュウ、huángjiǔ)という。
なお、中国語で「白酒」と言った場合、洋食のレストランなど、状況によっては白ワインを指す場合がある。この場合は赤ワインを意味する「紅酒」(ホンチュウ、hóngjiǔ)の反対語である。
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[編集] 生産量
2004年の中国大陸での生産量は311.68万キロリットルであった。中国の成年平均にすると、1年間に約3.5リットルを飲む計算になるが、女性には飲まない人が多いので、実際は2倍に近いかもしれない。
[編集] アルコール度数
とくに油の多い寒い地域の中華料理には、口内の油分を流してくれるアルコール度数の高い白酒が合う。このためには、生(き)のまま(ストレート)で飲む必要がある。
以前の白酒のアルコール度数は、50度以上であった。現代の中国には酒に弱い人が多いので、1995年あたりから、白酒のアルコール濃度が下がってきている。今では、低度酒という38度の白酒が主流になっている。「低度」といっても日本の泡盛程度である。50度以上であった高度酒も、現在は45度のものが出ている(ウイスキーやブランデーはほとんどが40度)。16度程度の日本酒や水割り、酎ハイに慣れている多くの日本人には、舌や喉に刺激を感じて飲みづらいようである。
[編集] 芳香
白酒は「薫り高い」と表現されることが多い。たしかに芳香が強い酒であり、数十種類の香り成分を含んでいる。香りのもとは、酢酸エチル、カプロン酸エチル、乳酸エチルなどを主体とするエステルである。含有量は少ないが白酒独特の香りを発するエステルとして、酪酸エチル、酢酸イソアミル、バレリアン酸エチルなどがある。エステル以外に、香りと味の重要な要素として、エステルと分子構造の近いカルボン酸(有機酸)を含み、主なものは、酢酸、酪酸、カプロン酸、乳酸である。これらの多くは日本酒にも含まれ、吟醸酒などの香りのもとになっているが、(乳酸などを除いて)含有量は少ない。
白酒の香りは、一般の日本人にとっては芳香というより「臭い」と感じられる。場合によっては腐敗臭と思われる可能性もある。わずかな量でも広範囲に匂う。したがって、また上記の高いアルコール度数になじめないので、日本では黄酒(とくに紹興酒)を出す中華料理店は多いが、白酒を出す店はあまりない。
しかし、飲み慣れるとその匂いは気にならなくなり、やがて「悪くない香りだ」、「よい香りだ」と思えるようになる。中国本土の料理店ではこの香りが漂い、日本との違いを感じさせる。
[編集] 乾杯の習慣
中国での宴席で何度も行う乾杯には、基本的に白酒を使う(紹興酒などの黄酒は、産地の浙江省や上海市周辺で用いられる程度)。乾杯用には、小さいグラス(小酒杯)を用いる。飲んだ後で、相手に向けて杯を傾け底を見せたり、逆さにして、飲み干したことを示す習慣がある(習慣の詳細は乾杯を参照)。しかし、最近の北京では、乾杯に白酒を用いなくなってきている。この傾向は、やがて中国東部一帯に広がるかもしれない。
[編集] 製法
白酒の製法は、産地によって異なる。原料とする穀物に何を用いるかと、麹(こうじ)を何からどう造るかなどによる。典型的な製法を示す。
- まず麹を造る。麦や豆などを砕いたものに水を入れて混ぜ、レンガの形に整え暖かい部屋に放置して、クモノスカビや酵母、乳酸菌などを繁殖させ、“曲”(チュー、qū。繁体字では“麯[麦にょう+曲]”と書く。“麹”の意)と呼ばれる餅麹(もちこうじ)を造る。
- 蒸した高粱(蜀黍)に曲を混ぜ、地面に掘った穴の中に入れて土をかぶせ、土の中で発酵させる(仕込む)。[曲のような餅麹は、日本酒の製造に用いるコウジカビが純粋培養された撒麹(ばらこうじ)と異なり、糖化だけでなくアルコール発酵を行う微生物も含んでいる。したがって、このままの固体の状体のままでアルコールを含んだもろみとなる。]
- 数週間後に仕込んだ材料を堀り出し、風味用の高粱を混ぜて蒸留する。
- 蒸留し終えた原料に再び曲を混ぜ、仕込みを数回繰り返す。
- 蒸留によって集められた液体は、瓶に入れられて長期間熟成される。
こうして造られた白酒はアルコール度数が50%以上あって強いが、刺激的ではないまろやかな味と特徴ある香りがする。
[編集] 型と製品の種類
白酒は、産地によって特別な名前が付けられている。有名な白酒を挙げる。中国では、白酒独特の香り(カプロン酸エチルを主体とするエステル香)の高い酒が好まれる。
- 濃香型
- 五粮液(四川省宜賓市)、剣南春(四川省綿竹市)、瀘州老窖特曲酒(四川省瀘州市)、郎酒(四川省古藺県)、全興大曲(四川省成都)、洋河大曲(江蘇省泗陽県)、古井貢酒(安徽省亳州市)、孔府家酒(山東省曲阜市)
- 醤香型
- 茅台酒(貴州省仁懷市)
- 清香型
- 西鳳酒(陝西省鳳翔県)、汾酒(山西省汾陽県)
- 米香型
- 桂林三花酒(広西チワン族自治区桂林市)
- 兼香型
- 董酒(貴州省遵義市)、白雲辺(湖北省松滋県)、白沙液(湖南省長沙市)
- 馥郁香型
- 酒鬼酒(湖南省吉首市)
八大銘酒の例を挙げる。
- 五粮液、剣南春、洋河大曲、濾州特曲、郎酒、茅台酒、西鳳酒、汾酒
しばしば中国では、五穀すなわち高粱・大米(トウモロコシ)・小米(粳米)・糯米・小麦から作られた五粮液(ウーリャンイェー、Wǔliángyè)が最高の白酒といわれる。そのため、偽物も出まわっている。
[編集] 品質問題
中国の国家品質監督検査検疫総局での2004年のサンプリング検査の結果、全国の白酒の合格率は82.9%(銘柄比)であった。大手工場の品は97.1%が合格したが、中小工場の品は71.2%しか合格しなかった。不合格の理由は、アルコール度数の不足、独特の香りのもとでもあるカプロン酸エチルや総酸の過多、ラベルの不備などが多かったという。安心して楽しむためには、有名な銘柄を、信頼できる店で買うことが必要なようである。
[編集] 参考文献
- 花井四郎『黄土に生まれた酒 - 中国酒、その技術と歴史』東方書店、1992, ISBN 4-497-92357-6.