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竹島一件 - Wikipedia

竹島一件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

竹島一件竹嶋一件、たけしまいっけん)とは1692年元禄5年)から1696年(元禄9年)1月まで日本と朝鮮との間で争われた鬱陵島の領有問題。江戸幕府の許可を得て鬱陵島に出漁した米子の大谷・村川家が同島で朝鮮人と遭遇したことから問題になり、長期間交渉の末、幕府が日本人の鬱陵島への渡航を禁止する事により決着した。当時の日本では、現在の鬱陵島は竹島現在の竹島は松島と呼ばれていた。

(これ以下、当時の日本の名称に従い現在の鬱陵島を竹島、現在の竹島を松島と記述する)

目次

[編集] 竹島での朝鮮人との遭遇に始まる領有権の交渉

 鳥取県の大谷家に伝わる「竹嶋渡海由来記 抜書控」によると、1618年(元和4年)伯耆国米子(現・鳥取県米子市)の商人、大谷、村川両家が幕府より竹島を拝領して渡海免許を受けており、将軍家の葵の紋を打ち出した船印をたて、いわば同島の独占的経営を幕府公認で行っていた。大谷甚吉・村川市兵衛らは毎年交代で同島に赴いて、鮑・アシカ等の漁猟、木竹の伐採などを行い、鮑を幕府に献上していた。松島は竹島への寄港地、漁労地として利用されていた。また、遅くとも1661年には、両家は幕府から松島も拝領し、鳥取藩も毎年の渡海にあたっては、米や鉄砲の貸付をしていた。

[編集] 竹島への渡海免許原文

従伯耆国米子竹島江先年船相渡之由に候 然者如其今度致渡海之段米子町人村川市兵衛大屋(大谷)甚吉申上付而達上聞候之処不可有異儀之旨被仰出候間被得其意渡海之儀可被仰付候 恐々謹言
   五月十六日
                                         永井信濃守
                                         井上主計守
                                         土居大炊頭
                                         酒井雅楽頭
 松平新太郎殿


この事件の発端は、1692年(元禄5年)に竹島へ出漁した大谷、村川家が同島で朝鮮人と遭遇したことから始る。この時、竹島に朝鮮人が53人が来ていたが、日本側は21人の少数であったので争うことはしないで、早々に朝鮮人が作っていた串鮑のほか、笠、網頭巾、麹味噌を持ち帰って鳥取藩に報告した。この処理をめぐって鳥取藩から対処方法を問われた幕府は、すでに朝鮮人が竹島から退去したとすれば「何の構えも無之」と回答をして、特に問題にしなかった。

 翌1693年(元禄6年)4月にも40人の朝鮮人が来ていた。その中の2人を捕えて米子に連行した。安龍福(アンピンシャ)と朴於屯(パク・オドゥン)の二人で、米子で二か月にわたる取り調べの後、米子の家老・荒尾修理より報告を受けた鳥取藩は、この事を江戸に連絡して指示を仰ぐと共に、その指示があるまで安龍福ら2名の朝鮮人を米子の大谷九右衛門勝房方に留め、足軽2名を付き添わせて警護に当たった。また幕府には朝鮮人が来島しないよう朝鮮に申し入れをすることを要請した。幕府はこの2名を長崎奉行所に送り、対馬藩より帰国させると同時に対朝鮮交渉の窓口であった対馬藩の宗氏に命じ、竹島は日本領であるから朝鮮人の出漁禁止の措置をとるよう朝鮮国に要請させた。対馬藩主宗義倫は、交渉の使者正官・多田与左衛門の一行に帯同されて、釜山に着き、安龍福ら両名を朝鮮政府に引き渡すと共に、竹島に対する朝鮮漁民の侵入を禁ずる旨を通告した。この時より両国の領土をめぐる外交交渉が本格的に始まった。(安龍福は幕府の竹島放棄決定後、再び日本にやって来て鬱陵島、子山島(于山島)は朝鮮領であると訴える。)


5月26日:江戸より飛脚が到着、安龍福らを長崎に護送するように指示がある。 5月29日:米子を出発。 5月 1日:鳥府に到着。 5月 7日:山田兵衛門、平井甚右衛門を護送役として鳥府を出発。 5月30日:長崎に到着。 7月 1日:長崎奉行所に両名を引き渡す。 8月14日:対馬からの使者・一宮官助左衛門に引き渡される。 9月 3日:対州に到着。


 この時、対馬藩が朝鮮王朝に宛てた文書には「本国竹島」と記して、日本領土の島であるという認識を示していた。また対馬藩の『朝鮮通交大紀』にも、1693年に朝鮮人が「我隠州竹島に来り」と、竹島が鳥取藩に所属するということを表明している。

 日本の申し入れに対し、朝鮮は日本との友好を重んじ、穏便に解決をはかる方針で交渉に臨んだ。しかし、交渉が長引く間に政権を掌握していた領義政の権大運、左義政の睦来善、右義政の閔黯が何れも失脚し、領義政に南九万、左義政に朴世采、右義政に尹趾完が任ぜられ交渉方針を強硬姿勢に転じた。

1695年、朝鮮は接慰官を釜山に派遣し、礼曹参判李番の名をもって9月12日に返書を対馬藩へ送り、宗氏の竹島日本領説を反駁させた。この書契では、竹島は鬱陵島のことで、鬱陵島は空島としているが時々役人を派遣して調査をしているとし、東国輿地勝覧に照らしても、本土から良く見え、朝鮮住民がこの島でいろいろな物産を採っているとあり、朝鮮の領有は明らかであるとしている。


『粛宗実録』20年8月13日・『通航一覧』巻137

朝鮮国礼曹参判李番、奉復日本国対馬大守平公閣下、槎使鼎来、恵□随至、良用慰荷弊邦江原道蔚珍県有属島、名曰蔚陵、在本県東海中、而風濤危険、船路無便、故中年移其民空其地、而時遣公差往来捜検矣、本当峰巒樹木、自陸地歴々望見、而凡其山川紆曲、地形濶狭、民居遺址、土物所産、倶戴於我国輿地勝覧書、歴代相伝、事跡昭然、今者我国辺海漁氓往其島、而不意貴国之人自為犯越、与之相値、反拘執二氓、転到江戸、幸蒙貴国大名明察事情、優加資此、可見交隣之情於尋常、欽□高義、感激何事、然雖我氓漁採之地、本是蔚陵島、而以其産竹、或称竹島、此之一島而二名也、一島二名之状、非徒我国書籍之所記、貴州人亦皆知之、而今此来書中、乃以竹島為貴国地方欲令我国禁止漁船更往、而不論貴国人侵渉我境、拘執我氓之夫、豈不有欠於誠信之道乎、深望将此辞意転報東武、申飭貴国辺海之人、無令往来蔚陵島、更致事端惹起、其於相好之誼不勝幸甚、佳?領謝、薄物侑緘、統惟照亮、不宣 甲戌年九月

翻訳

我国の江原道蔚珍県に属島があり、名を蔚陵という。本県の東海にあり風濤が危険で船の便がなかったので、住民を移して空島にした。そして時々役人を派遣して調査させていた。蔚陵島(鬱陵島)の峰巒や樹木は陸地から歴々と望み見る事ができ、またその山や川は紆余曲折し、地形は濶狭で住民がその跡を残している。その土地にはいろいろな物が採れる。これは我が国の「輿地勝覧」に載っており、歴代伝えられていることから明らかである。このたび我が国の漁民がその島に行くと、貴国の人が越境侵犯して、逆に我が国の二人を捕らえて江戸に送った。幸いに貴国の将軍は事情を良く察し、厚いもてなしをしてれた。交隣の情が厚いことはほんとうに感激の至りである。しかしながら、我が民の漁労の地は、もともと蔚陵島であり、竹を産することからあるいは竹島と称している、これは一島二名である。一島二名のことは、ただ我が国の書籍に記されているだけでなく、貴国の人もまた皆これを知っている。それにもかかわらず、ここに来た書中では、竹島は貴国の地方のため、我が国の漁船が更に来ることを禁止して欲しいとあるが、貴国の人が我が国の境界を侵犯し我が漁夫を拘束したたことを論じていない。誠信の道に欠けるところがあるのではないか。深く望むことは、この意向を江戸の幕府に報告し、貴国沿岸の人が蔚陵島に往来し、再び事件が起こらないように命じてほしい。


その後、多田与左衛門の交渉は1695年6月まで続いた。交渉途中であった1694年(元禄7年)9月27日に対馬藩主・宗義倫が病死。後に、鬱陵島は朝鮮領であったにせよ、長く空島であったのだから、日本領であるという意見と、東国輿地勝覧(1481年成立)の記事などから朝鮮領だという立場に二分されていたが、この頃になると後者が大勢になっていた。

1695年(元禄8年)10月、対馬藩は新藩主・宗義方の襲名と参勤交代を期に、竹島は朝鮮領であるとして、江戸幕府に朝鮮側との交渉の中断を申し出た。江戸にて老中阿部豊後守正武に、朝鮮側との交渉も三年になり、朝鮮側が頑迷な事も伝え、幕府の判断を仰いだ。

[編集] 竹島への渡航禁止

 この回答を受けて幕府は竹島の本格的な検討を始めた。1695年(元禄8)12月24日、老中・阿部豊後守は鳥取藩に対し17カ条からなる「御尋の御書付」で問い合わせた。そのなかで注目される質問は「因州 伯州之付候竹嶋はいつの此より両国之附属候哉、先祖領地 被下候以前よりの儀 候哉」、「竹嶋の外両国之附属の嶋有之候哉、並是又 漁採に両国の者 参候哉」である。幕府は、竹島因幡伯耆を支配する鳥取藩付属の島であると考えていたことがわかる。

 ところが幕府の質問に対して鳥取藩は、1695年(元禄8)12月25日付の文書で「竹嶋は因幡 伯耆附属にては無御座候」「竹嶋松嶋其外両国之付属の嶋 無御座候」と回答し、竹島・松島は自藩領ではないとした。幕府は、鳥取藩が竹島は自藩領でないと回答したことや、その島に日本人が住んでいないこと、さらに地理的に因幡からよりは朝鮮からの方が近いことなどを考慮し、朝鮮との争いを避けることにした。

 「竹島一件」といわれている日朝間の外交交渉は、釜山の倭館を舞台に3年間続けられ、この時「兵威」を用いて竹島を日本領にする案もあったが、結局は竹島を放棄することとなった。そして1696年(元禄9年)1月28日付で、幕府が老中の連署でもって、「向後 竹島へ渡航之儀 制禁 可申付旨 被仰出之候間」と、鳥取藩主に竹島渡航禁止を通告した。竹島を「無用の小島」と断じて鳥取藩に同島への渡海禁止を申し渡したのである。また先に竹島渡海を免許していた大谷・村川両家に対しても、同時に松平伯善守あてに奉書を送り、竹島への渡海を禁じた。対馬藩に対しても、この幕府の姿勢を朝鮮政府に伝えるように指示し、対馬藩は1696年(元禄9年)10月、新藩主を祝うために来島していた同知(通訳官の官職)の卞延郁同知と宋裕養判事に其の方針を伝えた。両通訳官は翌年の1697年(元禄10年・粛宗23年)正月に帰国し、続いて対馬藩は二月に、阿比留兵衛を朝鮮に渡らせ、東莱府使 李世戴に書を渡して、幕府の命により日本人の竹島への出漁を禁じた事を知らせた。

ただし、鬱陵島と竹島が同一の島である事、およびその朝鮮領たることを承認する件については言及しなかった。しかし、朝鮮政府は、当面の問題であった漁業禁止に満足して、翌1698年(元禄11年)3月、礼曹参判李善薄の名をもって幕閣の決定に謝意を表し、併せて鬱陵島・竹島一島二名の理由を説明した。(「粛宗実録」二十四年庚子三月二十五日の条)

 この命令は、ただ竹島への渡海を禁止しただけであり、竹島の領有権の放棄までは謳っていないが、3年間にわたる日朝外交交渉が、竹島の領有権をめぐる内容であり、後の1837年(天保8年)に、国内に通達された「異国航海之儀は重き御禁制」で竹島を朝鮮に渡した旨の記載があることから、領有権も放棄したと考えるべきであろう。この様にして竹島一件は決着したのである。


渡航禁止の全文

先年松平新太郎因州伯州領知之節相窺之伯州米子之町人村川市兵衛大屋(大谷)甚吉竹嶋江渡海至爾今雖致漁候向後竹島江渡海之儀制禁可申付旨被仰出之候間可被存其趣候  恐々謹言

正月廿八日

                          土屋相模守
                          阿部豊後守
                          大久保加賀守

松平伯耆守殿 右御奉書之趣村川大屋両人江 申聞竹島渡海相止候事


 1693年(元禄6年)4月に安龍福たちを米子に連れ帰った事から始まった竹島一件は、姑息ながらも一応の解決をする事になったが、その際、幕府は松島については何も言及していない。この時、松島はもともと日本から竹島への中継となるただの小島であったため、朝鮮との交渉でも特段の取扱いはしておらず、特に言及する必要もなかったと考えられる。そのため竹島渡航禁止以後、独自の経済的価値がほとんどない松島だけのために渡航する者は幕末までほとんどなくなってしまった。

[編集] 竹島一件」後の竹島

 徳川幕府の外交文書を集めた『通航一覧』に、竹島一件以後の竹島について、享保年間(1716-35)までは、隠岐長門から竹島に渡って大竹を持ち帰っていたのが、その後は朝鮮人が島にいて、船を近づけると鉄砲を打って島に上陸させないと記されている。竹島渡航禁止後も、日本人は無断で竹島に渡っており、またこの頃の朝鮮でも竹島鬱陵島)の空島政策は有名無実になっていたようで、竹島には朝鮮人が住みつき、日本の船を銃で追い払うまでになっていた。

「・・・むかし隠岐の辺より渡て、大竹を切来て諸方へ売、甚だ大にしてよき竹也と云ふ、近来その島へ渡る時は、朝鮮人多く来て、此方の船を見れば鳥銃を打て船を近づけずと云ふ、この島果して日本の属島なれども、遂に朝鮮に取られたり」

現代文(・・・むかし隠岐の辺りより渡って、大竹を切りに来ていろんな所へ売り、非常に大きく良い竹だと言われている。近頃この島へ渡る時は、朝鮮人が多く来て、こちらの船を見れば鳥用の銃を打って来て船が近づけられないらしい。この島は結局、日本の属島であるけれど、ついに朝鮮に取られてしまった。)


 トラブルを憂慮した幕府は「異国航海」の厳禁を改めて通達した。その政策にしたがって奉行所も密航者を処罰していたようで、1723年(享保8年)6月には、大坂町奉行所が、享保7年以前に竹島に渡って密貿易をしたといって、石見国・大森代官所支配地の3名を捕えて処分している。また1836年(天保7年)には石見国・浜田藩会津屋八右衛門の竹島密貿易事件が起き、その裁きの判決文には「松島へ渡航の名目をもって竹島にわたり」と記され処罰されている(竹島事件)。その他松浦静山の『甲子夜話』には、同様の事件が浜田藩だけでなく対馬越後長岡、北国などでも行われていたことが書かれている。

竹島一件後に発行された森幸安の日本分野図にも依然竹島が記載され、1779年に初版が発行され普及していた長久保赤水の『改正日本輿地路程全図』にも全て竹島竹島への中継地点である松島を記載している。なおも竹島との関係が強かったことがうかがえる。

 幕府は1837年2月21日付で、改めて「異国航海之儀は重き御禁制」と全国に通達する。その中で竹島については「元禄之度 朝鮮国之御渡しに相成候以来、航海停止被仰出候場所に有之」と述べている。

[編集] 松島について

 日本から竹島に渡る途上に松島がある。松島が記述された日本の最も古い文献は、1667年(寛文7年)に編纂された出雲藩士斎藤豊仙の『隠州視聴合記』であるが、これによると江戸元禄時代には、日本から竹島の行き帰りに松島をある程度利用していたようである。天候などの条件がよければ松島から竹島が見えることもあって、日本にとっては竹島に渡る為の航海の指標や暴風時などに一時避難ができる重要な島であったことは確かである。幕府の渡航許可の公文書は見つかっていないが、大谷家の記録によると、竹島一件以前に幕府から竹島とは別に松島への渡海免許が出され、同家は松島の開発も行っていたようだ。

竹島と松島を一体の様に扱う文献もあるため「竹島一件」において松島を竹島の属島と見なし、同時に自ら放棄したとする考えが韓国側や日本の一部にあるが、朝鮮との交渉において松島の名は一切出てきておらず、朝鮮側の地図を見ても朝鮮政府は松島を全く認識していない事がわかる。その後の竹島事件の判決文でも「松島へ渡航の名目をもって竹島にわたり」との一節を見ると、竹島への渡航は禁止したが松島への渡航は禁止されていなかった事がわかる。竹島事件以後は、幕府は竹島への中継地である松島への渡航を憂慮していたと考えられるが、幕府が竹島の領有争いにわざわざ松島を含めたとするのはかなり無理があると考えるべきである。


なお、竹島一件の原因となった安龍福は松島を于山島だとし、1696年6月に日本へ渡り竹島(鬱陵島)と松島が朝鮮領であると訴えるが、この時の安龍福の言動は竹島(鬱陵島)をめぐる外交交渉には全く影響を与えていない。幕府が竹島への渡航を禁じる旨が朝鮮に伝わったのは1697年(元禄10年・粛宗23年)正月だが、幕府が渡航を禁じる決定をしたのは1696年1月だからである。このことは、安龍福が日本へ渡った時幕府より異国人の窓口は長崎であると追い返されていることや、朝鮮で日本へ渡ったかどで流罪に処せられていることからも分かる。また朝鮮での尋問で、竹島(鬱陵島)と松島から日本人を追い出したと証言しているが、安龍福自身松島を把握していない。
しかし、安龍福の松島を于山島だとしている発言は、その後松島が于山島であり朝鮮領であるとの認識を朝鮮政府に定着させ、結果的に今日の竹島問題に大きな影響を与えている。

[編集] 参考文献

  • 下條正男『竹島は日韓どちらのものか』
  • 川上健三『竹島の歴史地理学的研究』
  • マンガ嫌韓流のここがデタラメ コモンズ出版  他

[編集] 外部リンク

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