軟膏剤
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軟膏剤(なんこうざい、Ointments)とは、有効成分をワセリンなどの基剤の中に分散させた、皮膚などに塗布してして用いる医薬品の半固形の製剤である。
有効成分と基剤をそのまま混合するか、溶媒に溶かすか加熱融解させて混合して製する。 チューブやプラスチックやガラスの瓶に詰められて流通している。 狭義では、ワセリンなどの油脂性基剤を用いたものを言うが、日本薬局方の規定では乳剤性基剤を用いたクリーム剤も含む。
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[編集] 基剤
皮膚に付着し、有効成分を長く皮膚にとどめる働きをする。 塗りやすく、皮膚に対する刺激性が無く、有効成分の安定性に影響しないものが求められる。 有効成分と基剤との親和性が有効成分の吸収速度に影響する。 大きく疎水性と親水性基剤に分けられる。
[編集] 疎水性基剤(油脂性基剤)
一般に『軟膏』と呼ばれているものに使われる基材である。 水をはじき皮膚の皮膜保護作用も期待できるが、洗い落としにくいという欠点にもなる。 鉱物由来のワセリンやパラフィン、ポリエチレン樹脂を流動パラフィンでゲル化したプラスチベース、生物由来のミツロウなどが用いられる。
[編集] 親水性基剤
- 乳剤性基剤
- 油脂と水を乳化剤で乳化したもので、一般に『クリーム』と呼ばれている。乳化剤としては陰イオン型の石けん類や非イオン型のポリエチレングリコールのエステル類などが用いられる。水中油型(o/w型)と油中水型(w/o型)に別れる。有効成分の溶ける層が外層となった方が放出が早い。o/w型は水分が蒸発するとw/o型に転相する。羊毛から取られるラノリンはコレステロールを含むので乳化剤を加えなくとも水と乳化する。乳剤性基剤は、油脂性基剤に比べると展延性がよく、容易に洗い落とすことができ使い勝手がよいが、粘膜やびらん面などに用いると乳化剤の刺激によりかぶれたりすることがある。
- 水溶性基剤
- ポリエチレングリコール(マクロゴール)類などを基剤としたもの。有効成分との混合が容易で、皮膚からの分泌物をよく吸収するが、皮膚との接触性は劣り、用法が『ガーゼにのばして貼付する』となっているものが多い。
- 懸濁性基剤
[編集] 保存剤
軟膏剤、特に乳剤性軟膏剤は微生物汚染を受けやすいため、パラオキシ安息香酸エステルやデヒドロ酢酸などを防腐剤として加える。 また油性基剤は酸化しやすいので、ジブチルヒドロキシトルエンやトコフェロール、アスコルビン酸などを抗酸化剤として加える。
[編集] 特殊な製剤
[編集] 口腔用軟膏剤
口腔粘膜によく付着し唾液などで流されにくいことが求められる。 疎水性の基剤にセルロース類やパラフィンなどを加えて粘着性を高めてある。
[編集] 眼軟膏剤
鋭敏な眼粘膜に使用するため、無菌であること、粘膜刺激がないこと、目から吸収されないこと、滑りがよいことなどが求められる。 基剤としては、軟稠性の眼科用ワセリンがよく用いられる。 有効成分を固形のまま微粉末にして分散させる場合には流動パラフィン、液状の場合には精製ラノリンが用いられる。
[編集] リニメント剤
泥状の外用剤で、微細に砕いた有効成分をグリセリンなどと共に水に混ぜて製する。 水の量を増やし液状にすると懸濁性ローション剤になる。 使いにくいので現在ではあまり用いられない。 フェノール・亜鉛華リニメント(カチリ)が古くからよく知られている。
[編集] パスタ剤
泥剤とも言われる、軟膏類似の製剤。 軟膏より硬く、皮膚に直接塗布するのではなく、ガーゼなどに塗り広げて貼付して用いる。