軽快車
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軽快車(けいかいしゃ)とは、乗りやすいようにアップハンドルでトップチューブが低く、荷物を積載できるように、かごなどに工夫の凝らされた短距離走行用の自転車のことである。
高いハンドル、低いトップチューブは、スカートをはいていても乗れるように工夫されたものであるが、老若男女を問わず日常の通勤・通学や買い物に広く使われ、日本では最も普及している自転車である。実用車とは異なり、自転車としての頑丈さよりは、取り回しの容易さ、価格の安さなどが普及を促進させている面がある。婦人軽快車を俗にママチャリと言い、広告などではファミリーサイクルとも呼ばれる。
目次 |
[編集] 軽快車の構造
軽快車は以下のパーツ等が付属される。
- 前かご
- 後部キャリア(婦人車)
- 両立スタンド(婦人車)
- アップハンドル(婦人車)
- 泥除け
- ドレスガード(婦人車)
- R型、U型、S型フレーム
- チェーンカバー
前かごは、荷物の積載には特に重要なものであるが、キャリアを自転車後部に付属させ更に多量の荷物を積載できるようにしてある。キャリア自体に後ろかごあるいは後ろ子供乗せを取り付け、より確実な荷物の運搬が可能である。また、荷物を積載する時に自転車本体を安定させるために両立スタンドを標準装備している点は婦人軽快車のひとつの特徴である。
アップハンドルについては走行時に姿勢が起き、積載時に操作をしやすくする特徴を兼ね備えており、一般的に前傾姿勢をとる自転車とはこの点で一線を画していると思われる。泥除けについては、ランドナー、マウンテンバイク、シティサイクルなどにも付属しているが、軽快車の泥除けはほぼ完全に車輪を覆ってしまうことにより、雨中における走行をより快適なものにしている。
![]() ![]() ドレスガードとチェーンカバーの 付属した女性向け自転車 |
ドレスガード(スカート避け)については、軽快車は婦人用を対象にしているケースが多く、スカートのような風によって影響を受けやすい布類を後輪に巻き込まないように工夫がなされている。フレームの形状は、足を上げなくても乗車できるように、トップチューブがかなり下がっている、あるいはU型フレームのようにトップチューブが存在しないタイプのフレームが採用される(スタッガード・パラレルの変形)。チェーンカバーは、チェーンおよびクランクギアに衣類や靴紐などが触れないようにするためにも、軽快車には不可欠のパーツである。チェーンの上部だけを覆うハーフカバーと、チェーン及びギヤ全体を覆うフルカバーがある。
以上が、軽快車に付属している特別なパーツであるが、上記の条件を兼ね備えることが軽快車の正確な定義となる。
なお、育児中の婦人を対象として、子供を乗車させるためのパーツも存在し、店頭で装備してもらうか、予め装備した状態の商品を購入するケースもある。
- 前子供乗せ
- 後ろ子供乗せ
- 風除け
前子供乗せは、比較的体重の軽い子供(年齢にしては2歳まで程度)の子供を乗せることに適している。親の視界に子供が入ることで、安全性が増しているように思わせるが、実際にはむしろ危険度が高い。ハンドリングに影響を与えるために、子供がある程度成長したときは前子供乗せを使用しないほうが無難である。場合によっては、運転者よりも子供のほうに大きな怪我を負わせるケースがある。なお一部のメーカーから、前乗せ時のハンドリングが安定するよう設計された機種が発売されているが(丸石サイクル「ふらっかーず」)、過大な重量を乗せないことは当然守るべきである。
後ろ子供乗せは、比較的体重の重い子供(年齢にして2歳以上6歳未満)を乗せることに適している。前子供乗せを卒業後が得てして、こちらの後ろ子供乗せが使用される。後ろ子供乗せは子供が視界に入らないので心配になるが、この方がハンドリングに影響を与えず運転者の快適な運転には適している。後ろ子供乗せは、構造上後ろかごとしても使用することが可能である。なお、子供乗せを使用する場合には両立スタンドを用いるよう道路交通法で定められている。後で子供乗せを取り付ける場合、自転車販売店はこの点を注意しなければならない。また自分で購入して取り付ける場合も、片スタンドのまま装着すると非常に危険である。
また、車輪の大きさと太さに関しては以下のものが使用されている。
- 20インチ
- 22インチ×1.3/8
- 24インチ×1.3/8
- 26インチ×1.3/8
- 27インチ×1.3/8
もっとも一般的な大きさは24-26インチである。重量は15-20kg程度であるが、軽量なものでは13kg台の軽快車も存在する。
[編集] 軽快車のパーツおよび素材
軽快車は取り回しの軽さ、価格の低下を求められる傾向にあり、以下のような素材が自転車に使用されている。なお、軽快車の部位を以下のように分類する
- 前輪周辺
- フレーム周辺
- 後輪周辺
[編集] 前輪周辺
前輪周辺は以下のパーツに分けられ、素材は次の通りである。
- 前輪
- フォーク → 鉄、アルミニウム
- 前かご → 鉄、ステンレス、プラスチック
- かごステー → 鉄、ステンレス、アルミニウム
- ダイナモランプ → プラスチックなど
- 泥除け → 鉄、ステンレス、プラスチック
強度の点では鉄、ステンレスが採用されるが、軽さを重視する場合はアルミニウムがよく用いられる。素材の順番は使用頻度であるが、価格、強度、軽さのいずれが求められるかによってそれぞれパーツを使い分けている。なお、鉄を使用する場合は、サテンめっきを行うか、塗装を行って錆びを防いでいる。ダイナモランプはタイヤで直接ダイナモを回転させるタイプと、ハブの回転エネルギーを発電に使用しているタイプがあり、後者のほうが高価であるが効率が良く、騒音も低いので人気が高い。 後者を利用する軽快車は、暗くなると自動で点灯するオートライト採用車である。
[編集] フレーム周辺
フレーム周辺は以下のパーツに分けられ、素材は以下の通りである。
- ハンドル → 鉄、ステンレス、アルミニウム
- ブレーキレバー → アルミニウム、鉄、プラスチック
- 前ブレーキ → アルミニウム、鉄
- グリップ → ゴム、プラスチック
- ステム → アルミニウム、ステンレス、鉄
- ヘッドパーツ → 鉄
- フレーム → 鉄、アルミニウム
- ヘッドチューブ → フレームと同じ
- トップチューブ → フレームと同じ
- ボトムチューブ → フレームと同じ
- シートチューブ → フレームと同じ
- シートステー → フレームと同じ
- チェーンステー → フレームと同じ
- ボトムブラケットシェル → フレームと同じ
- ボトムブラケット → 鉄
- クランク → 鉄、アルミニウム
- クランクギア → 鉄
- ペダル → プラスチック(ねじ部分は鉄)
- チェーン → 鉄
- サドル → スポンジなど
- サドル固定金具 → 鉄
前輪周辺と同様、期待される能力に応じて素材は使い分けられる。アルミニウムのフレームについては軽くて取り回しが楽であるが、廉価なものは走りが重くなっているので購入時には注意が必要である。前ブレーキは多くがリムの回転をゴムの挟み込みによって停止させるタイプであるが、リムの素材やブレーキのゆがみなどが原因で音鳴りする。鉄は塗装あるいはサテンめっきであるが、ハンドルについてはステンレスが増えてきている。
フレームの塗装色は、かつて比較的地味な色が多かったが、近年では原色に近い色が数多く存在し、バリエーションは各メーカー内でも多様である。
[編集] 後輪・ホイール周辺
後輪周辺は以下のパーツに分けられ、素材は以下の通りである。
- 後輪
- スポーク → 鉄、ステンレス
- ニップル → 真鍮、鉄
- リム → アルミニウム、鉄、ステンレス
- タイヤ → ゴム
- 英式バルブチューブ → ブチルゴム
- ハブ → 鉄
- フリーギア → 鉄
- ブレーキ → 鉄、ステンレスなど
- 泥除け → 鉄、ステンレス、アルミニウム、プラスチック
- キャリア → 鉄、ステンレス
- スタンド → 鉄、ステンレス、アルミニウム
後輪は、多くのパーツの組み合わせが存在する、比較的複雑なパーツであり、他の自転車と同様価格も前輪に比べて高い。ブレーキについては、前ブレーキとは異なり数多くの種類が存在し、価格や性能に応じて使用されるブレーキは決定される。ブレーキの種類については以下に述べる。リムは鉄→ステンレスと進歩してきたが、軽量を狙ってアルミ製を使うことが増えた。しかしステンレスよりは劣化が早いのも事実である。キャリアやスタンドは剛性が求められるために、アルミ製はあまり存在しない。また、内装変速機が採用されているものもあり、3段変速のものが多い。
[編集] 後ブレーキの種類
後ブレーキは大まかに以下の種類に分けられる。
バンドブレーキは最も価格が安く、革や樹脂等を練り固めたライニングが貼り付けられたバンドを用いて、ハブ同軸の金属ドラムを締め付けて停止する方式である。構造も単純なために廉価な軽快車と寸法上の理由のため子供車に採用されている。しかしながら、ある程度使用すると磨耗しブレーキ鳴きが起きるので、一定の期間ごとに交換が必要である。
サーボブレーキは、方式はバンドブレーキと同じだがブレーキの調整は更に容易である。バンドブレーキに比べて音鳴りはしにくい。ダイネックスブレーキはブリヂストンの開発したブレーキであり、ブレーキの調整はやや困難だが、堅牢さに優れる。
ローラーブレーキはシマノの開発したブレーキで、音鳴りしないことが特徴的なブレーキである。構造も複雑で価格も比較的高いが、現在は多くの軽快車に採用されている。一定の期間ごとに指定のグリースを注入してメンテナンスを行う。
[編集] 軽快車による旅行
自転車にて旅行を行う場合は、ランドナー、クロスバイク、マウンテンバイクなど、前後の変速機が付属しておりかつ車体重量も軽いものが使用されることが多い。しかしながら、上記の自転車は価格も10万円以上するものが一般的で、さらに乗車にはある程度の経験と慣れを必要とする。そのため軽快車で長期の自転車旅行に行くケースも多々見られる。
軽快車が長期自転車旅行に有利な点については、以下が上げられる。
- 荷物の積載性
- アップハンドル
- タイヤおよびチューブ
- 修理の容易さ
- パーツの手に入りやすさ
積載性は軽快車の作成された目的のひとつであり、得意分野である。またアップハンドルにより背を屈める必要がなく自然な姿勢がとれるのだが、百km以上の走行では腰に負担がかかり体を痛めることがある。軽快車に使用されているタイヤはロードレーサーのものよりも頑丈で、マウンテンバイク用のブロックタイヤほど抵抗もなく、日本の舗装された道路を走行するのであれば比較的適していると言える(事実、ランドナーやクロスバイクのタイヤは軽快車のものに近い)。
また日本には軽快車の修理の技術を有する技術者が多い。各都市の自転車店では軽快車の修理・調整を主体にしている所が少なくない。マウンテンバイク、ロードレーサーとは変速機やタイヤなどに仕組みの違いがあり、知識の無いものが扱うと症状がひどくなるか、あるいは別の部分に影響が出てくることが多い反面、軽快車のパーツは一般的に汎用性に富み、他のメーカーのパーツでも容易に応用できるので、地方でもホームセンターやスーパーなどではパーツを取り扱っていることも多く、故障が理由で自転車旅行が中止になる心配は少ない。
一方で軽快車が長期自転車旅行に適していない点は以下の通りである。
- 坂道に弱い
- 車体重量が重い
- 変速機が存在しない(あるいは少ない)
- 輪行袋に入れにくい(あるいは入れられない―分解搬送を前提にしていない為)
軽快車は、原則的に近所への買い物などを目的に設計されているので、急坂の登板には適しているとは言えない。日本の国土は都市部を外れると多くが山岳であるために、軽快車での走行はこの点で苦しい。また車体重量が重いことも坂道と関連するが、平均重量が18kgと重いのも長距離の走行には厳しい。
変速機は存在しないか、あるいは内装3段変速である場合が多く、この点も長距離の走行および坂道に向いていない。軽快車は始動時の安定性を重視しているのでギアも軽く、トップスピードではギアが足についてこない。また、分解搬送できるように設計されていないため、自転車の電車や飛行機内への持込を可能にする輪行袋にいれることが難しい。すなわち行程中に(船舶以外の)公共交通機関の利用を含めるのは無理がある。かご、両立スタンドなどマウンテンバイクなどには付属されていないパーツが標準装備されているのも重量面では不利で、事前に旅行中必要が少ないパーツを取り外したり、より軽量・簡便なものと交換しておく事も一考の余地がある。
[編集] 今後の進化と世界への浸透
今後は各パーツの性能のアップや低価格化が進行すると言われているが、基本的には現在の形状で当分落ち着くと思われる。子供乗せと前かごを合体させたタイプの軽快車も開発されている。また、前かごを安定させるためにヘッドパーツに工夫が凝らされている例もある。
世界全体では日本式軽快車はほぼ無名の存在であり、ほぼ日本でのみ通用している自転車である。しかしながら近距離での実用性は優れており、主要生産地が中国あるいは台湾であることから、生産地の特性を生かし今後アジアに浸透していくことも考えられる。
日本の中古軽快車が北朝鮮に多量に輸出されており、そこから中国奥地やアフリカに輸出されているほか、国内の放置自転車を再整備し発展途上国に寄贈する事業でも、主体を占めているのは軽快車である。
[編集] 競技
- 毎年8月、北海道十勝スピードウェイでは、ママチャリ耐久12時間レースが行われている。