野生動物
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野生動物(やせいどうぶつ)とは、原野など人の手の入らない領域に生息している・人間に養われていない・人間社会の存在に依存していない動物全般を指す。
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[編集] 概要
これに類する動物は、人間の世話になっていない動物とされるが、その一方で近代以降に於いて人間が積極的に自然保護の活動を行っている点で、やや曖昧な概念を含む傾向も見られる。これらは動物の種としては動物園等で飼育されている動物と、遺伝子等の上でも違いは無いが、その生活を持って区分される。
もっとも顕著な例としては、犬やイエネコ(猫)が挙げられる。犬やイエネコは人間に飼育されている物はペット、特定の誰かに飼育されていないが人間の社会に依存して生活していれば野良犬や野良猫、原野で狩りをして自分で食糧を得て人間に頼らない生活を送るものを野犬や野猫と呼ぶ。ただし元来はそれら動物の生息域ではなかった地域に人為的に放たれて生活している場合は、野生動物の範疇に含まないで、帰化動物(外来種)と呼ばれる。
[編集] 野生と人間
一般的には、人間の社会と対比させる意味で、人間社会に関係せず存在する動物を野生動物と呼ぶ。これらでは、前出の自然保護といった活動などにも絡んで些か微妙な部分が無い訳ではないが、人間が手をつける以前からそこに生息し、自然の環境で生活・繁殖(繁栄)してきた動物は、野生動物と称される。
人であっても、人間の社会から隔絶されて自然環境の中で文化とは無縁の生活をおくっている場合には野人(野生の人間)と呼ぶ事ができる。ただしヒトという動物が社会的動物であり、家族などのような極小の社会に帰属している場合には、あまり野人だなどと呼称する事はない。
他方では同様に独自社会(群れ)を形成する動物も存在するが、こちらはそれが本能に沿っている限りに於いて野生動物と呼ばれる。
人にあってもごく稀に、個人のレベルで人間の社会から断絶し、人間としてのアイデンティティを持たず、野生動物に育てられたり、または独力で生存していた場合に、厳密な意味での野生の人間と呼ぶ事ができる。しかしそれらは非常に稀なケースであり、後年の調査で疑問視された事例すら存在する。
一般に野生児と呼ばれる存在(人)が居るが、それらの多くは単に、野生動物的な精力的な存在だということに過ぎない。人間が本来持ち得なかった野生という魅力を持っている場合の褒め言葉である場合と、野蛮であるという侮蔑の言葉に過ぎない場合とがある。
[編集] 野生と人間社会との対比
感覚・運動能力・生命力の面で、人間は野生動物よりも劣った存在であるとされる。これは人間が脆弱な肉体を持つことに起因する。このため個体という単位で自然環境に放り出された人間は容易く死亡する。にも関わらず人間(ヒト)は、微生物や昆虫といった極めて短いサイクルで生活する生物を除けば、地球上(陸上)でもっとも繁殖に成功した種族といえる。
これは偏に人間が持つ知恵や文明に負う所が大きく、人間は人間社会に依存して生活している。特に自然環境の厳しい地域では、一部の民族的例外を除けば、人間は僅かに文明から離れただけでも死の危険を迎えるほどである。このため古い人間社会では、知恵や文明に依らずとも厳しい環境下で生存する動物に対して畏敬の念すら抱き、トーテミズムなどの宗教の原型ともなっている。
これら野生動物の環境耐性の高さは、単に適応の結果に過ぎない訳でもあるが、その一方で脆弱な肉体しかない人間は、野生の肉食動物にとっては「愚鈍で弱く、集団ではやや危険度も高いながら、個体としては捕らえて食べ易い動物」に過ぎない。人間はこれらの脅威となる野生動物を殊更危険視して、これを撃退するための知恵を発達させてきた。その原点には火を道具として使う事が挙げられる。
人間は文明という力を持っているが、それ無しには生存すらおぼつかない。他方で野生動物は文明を必要とせず生存する事ができる。この辺りが野生とそれ以外を区分する境界といえよう。
[編集] 備考
かつて奴隷制度があった時代には、未開民族を指して野生動物だと見なしていた。この時代には、現代では人種差別・民族差別思想として忌避される所であるが、相手の人種や民族の持っていた文化を否定ないし破壊した上で、それらを隷属させる行為が横行していた。
差別を被った彼らにしてみれば、社会がそれ以上の発展を必要とせず、周囲の環境によく順応して生活していたに過ぎず、また文明が破壊された事に関しても、そのような破壊行為に対抗する手段を発達させる必要が無かった(平和的であった)と言うことも出来る。そのような平和的人種・民族が蹂躙され、搾取されるに任された事は、後の歴史にとっても大きな悲劇といえよう。→人種差別の項を参照されたし
[編集] 関連項目
- 家畜 - ペット - コンパニオンアニマル
- 野生