食人族
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『食人族』 (CANNIBAL HOLCAUST) は、イタリアの映画監督、ルッジェロ・デオダートによるホラー映画である。日本では1983年1月に公開され、そのインパクトの強いCMの影響もあり、大ヒットを記録。この種の作品としては良質な作品であり、カニバリズムを題材とした映画の金字塔ともいえる作品となっている。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
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[編集] 解説
本作は「E.T.」が大ヒットしていた1983年1月に日本で公開されたが、正月映画第二弾として公開されたにもかかわらず、「あなた、食べる? 食べられる?」という不気味なナレーションと共に、ショッキングな映像を小出しにして「TVではこれ以上お見せできません」と銘打ったインパクトのあるTV CM、その内容からドキュメンタリー映画のように見せかけた宣伝方法などで注目を浴び、10億円近い配給収入を上げる(この年の洋画配給収入ベスト10にランクインする数字である)大ヒットを記録した。
いまだに映画の内容を事実だと信じている人もいるが、れっきとしたフィクションであり、作中で「食べられた」4人は、その後も別の作品に出演している。
[編集] ストーリー
アマゾン上流のグリーン・インフェルノと呼ばれる密林地帯に、フェイ、アラン、ジャック、マークの4人の探検隊が消息を絶った。捜査に向かったニューヨーク大学のモンロー教授は、原住民の襲撃や残虐な儀式などを目の当たりにしながら、ヤマモモ族に接触。4人の白骨死体の周囲に遺されたフィルムを入手する。
そのフィルムには、ドキュメンタリー制作の為に密林に入った4人の行動が克明に記録されていた。彼らはカメラの前でセックスするなどの異常性を垣間見せながら、原住民をレイプし、部族間の抗争を演出するために、原住民の女子供を放火した家に閉じ込めて焼き殺すなど、さまざまな蛮行を繰り返し、ついにヤマモモ族を怒らせたのだ。フィルムには密林から次々と襲来した原住民によって、4人が狩り出され、犯され、殺害される様が最後まで撮影されていた。試写の後、フィルムは焼却されることになった。
モンロー教授は呟いた。「文明人と食人族、野蛮なのはどっちなんだ」。
[編集] スタッフ
- 監督:ルッジェロ・デオダート
- 製作:ジョヴァンニ・マッシーニ
- 脚本:ジャンフランコ・クレリチ
- 音楽:リズ・オルトラーニ
[編集] キャスト
- モンロー教授:ロバート・カーマン
- フェイ:フランチェスカ・チアルディ
- アラン:ガブリエル・ヨーク
- ジャック:ペリー・ピルカネン
- マーク:ルカ・バルバレスキー
[編集] こぼれ話
- 本作は、焼却を命じられたフィルムが流出されたという設定で、ドキュメンタリー映画調に構成されたフィクションである(その割にセルフ撮影しているはずの4人が全滅するまできちんとカメラに収まっているなど矛盾がある)。しかし、配給側は意図的にドキュメンタリー映画のように宣伝したため、実際に起こった事件だと誤解する観客が続出した。
- 「ドキュメンタリーに見せかけたフィクション」という宣伝方法は、十数年の時を経て『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』で再び花開く。
- 本作の「野蛮を撮影する文明人こそ野蛮」というモチーフは、ドキュメンタリーを装ってさまざまなヤラセを行ってきた、グァルティエロ・ヤコペッティの『世界残酷物語』などに代表されるモンド映画に対するセルフパロディともいえる。それを意識してか音楽に関しても、『世界残酷物語』の「モア」など、モンド映画に分不相応なほど美しい名曲の数々を提供してきたリズ・オルトラーニを起用しており、映画内容とは程遠い美しいテーマ曲が流れている。
- 「TVではこれ以上お見せできません」という惹句はその後のホラー映画のTV CMの定番となり、本作に便乗して公開された『食人大統領アミン』でも使用されている。
- デオダート監督は以前にも『カニバル』という、これまた食人族映画の佳作を撮っているが、それが公開されたときも、配給会社は「カメラマンが喰われた」「監督は精神病院に入院している期間のほうが長い」云々と宣伝していた。
- 生きた亀を解体するシーンが批判されているが、デオダートは「現地ではみんな食糧にしているし、撮影後はきちんと食べた」とどこ吹く風である。
- ポスターのイメージとなった串刺し女性は、映画のスタッフである。彼女は杭の先端を口にくわえ、地面に突き刺したサドル付きの杭の上に腰掛けて、撮影に臨んだという。