魔界都市ブルース
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『魔界都市ブルース』(まかいとしぶるーす)は、菊地秀行の小説(祥伝社刊)。マン・サーチャー・シリーズとも。短編と長編が出版されており、短編はタイトルの初めに魔界都市ブルースと付く。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
目次 |
[編集] 概要
魔界都市<新宿>を舞台に、美貌の人捜し屋、秋せつらが活躍する物語。
[編集] 設定
以下では作品独自の設定を解説する。
- 魔震(デビル・クェイク)
- 199X年、東京都新宿区を襲った直下型地震。新宿区だけを壊滅させ、区の境界に深い亀裂を作る。
- 魔界都市<新宿>
- 魔震によって壊滅した東京都新宿区が、その後復興した後の呼び名。数々の怪奇現象と魔術、最新の科学技術が混在する。深い亀裂によって他の地域とは隔離されており、ゲートと呼ばれる橋が往来の手段となる。外部から訪れる観光客は、帰りのゲートで禁制品(武器や薬品、呪いの品など)を持ち出していないか厳重にチェックされ、発見されると直ちに没収される。
[編集] 人物
- 秋せつら
- 絶世の美貌を持つ青年。晴れだろうが雨だろうが雪だろうがいつも黒いコートを着ている(ただし初期作品は例外)。西新宿でせんべい屋を経営する傍ら、副業に人捜し屋を営んでおり、せんべいの評価は人によってさまざま(メフィストいわく「近頃焼きが甘くなっている」)だが、「美青年店主」を売りにしている事もあり、年商は約3,000万円。人捜しの腕前に関しては新宿一と誰もが認める。ただし本人は(少なくとも「僕」の方は)せんべい屋の経営に専念して人捜しを廃業したいと思う事もあるらしい。
- 武器は細さ1,000分の1ミクロン(ある強敵への対策で更に細く削った事もある)のチタン合金製の糸で、通称は「妖糸」。妖糸は人や物をやすやすと切断し、拘束し、(単に動作だけでなく身体機能をも)操る事が可能で、周囲の状況を感知するなど、その使用法は多岐に渡る。絶大な戦闘力を有し、メフィストと並んで「新宿で最も敵に回してはいけない人物」として知られる。
- 穏和、冷酷の二つの人格を持ち、それぞれ一人称は「僕」と「私」。「僕」はぼんやりとした印象の掴み所のない性格であるが、冗談を言う茶目っ気も併せ持つ。口癖は「はぁ」。一方、「私」は非道な敵を前に現れる事が多く、その戦闘力は「僕」をも上回る。また、その圧倒的な戦闘力ゆえ、純粋に強大な敵(「僕」では撃破が難しい相手)を前に現れる例もある。基本的に外道相手には極限の苦痛を与えた上で惨殺する(「僕」ならば見逃したであろう相手でも)が、罪無き者への慈悲は全く失っておらず、無言の気遣いなどを見せるシーンはむしろ「僕」より多い。
- メフィストとの関係は微妙なものであり、時には(直接ではないが)敵対する事もある。また、彼の「趣味」には辟易している様子。「私」によれば「私を気に入っているところ」が気に入らない、との事。
- 彼の出生と一族の秘密の一端は「魔王伝」で明かされている。
- メフィスト
- 通称「魔界医師」。こちらもまた絶世の美貌の持ち主である。『魔界都市<新宿>』『魔宮バビロン』に登場する時とは違い、常に白いケープを着用。死者をも蘇らせると“言われる”高度な医療技術の持ち主(実際は「黄泉返しの術」を習得していない為、死者の蘇生は不可能であり、本人もそれは認めている。「魔王伝」では死体をつなぎ合わせて人造人間を製作しているが、これは全く別の事であるらしい)。医学だけでなく自然科学、歴史、宗教、魔術や呪術など、あらゆる知識に精通しており、戦闘力では新宿最強のうちの一人。せつらから修得した妖糸の技を使うこともある。数え切れないほどの“奇跡”を起こしてきた実績の為、新宿における最大のVIPであり、彼の命を狙う事や、彼の医療行為を妨害する事、彼の患者に害を為す事は新宿最大のタブーとされる。
- 男色家。せつらに懸想しており(ただしそれは「私」の人格に対してであり、「魔王伝」などで「僕」には興味がないと言い切っている)、しばしば彼に迫るシーンがあるが、いつも袖にされている。また、作品によってはせつら以外の男性にもアプローチを掛ける事もある。一方で女性嫌いを標榜しており、「神の最大の失敗は女を作った事」「女がいるせいで人間は神の座に王手を掛けられない」とまで言い切っている。しかし過去には吸血鬼の女性を愛した経験もあり、病院には看護婦(女性の看護師)も多数いるので、せつらなどには時折その本心を(若干冗談めいた調子で)疑われている。
- メフィストが主役の「魔界医師シリーズ」が、角川書店、講談社、祥伝社などから出版されている。
- 外谷良子
- 情報屋。<新宿>一のネットワークを持ち、知らないことはないと言われる。かなりのデブで、せつらの隠れ家のトイレ(ごく普通のサイズ)に詰まって出られなくなった程である。かつての作者の担当編集者がモデル。
- ガレーン・ヌーレンブルグ
- 高田馬場の魔法街に住むチェコ随一の魔法使い。主要キャラクタとして度々登場するが、長編「夜叉姫伝」でせつらを庇って殺害される。
- トンブ・ヌーレンブルグ
- 姉であるガレーンを頼って新宿へと訪れる魔法使い。自称「チェコ随二の魔法使い」。
- 金に意地汚いが、根本では姉よりも人間らしい。外谷に匹敵するデブ。
- 人形娘
- ガレーン・ヌーレンブルグが作り上げたオートマトン(自動人形)。製作者に似てやや潔癖のきらいがある。主人であるガレーンが斃れた後は、トンブを補佐する。せつらを慕っている。
- 大烏
- ガレーン・ヌーレンブルグによって作り上げられたエーテル体の烏。人語を解し、常に人形娘と行動を共にする。
- 屍刑四郎
- 凍らせ屋(スパイン・チラー)の異名を持つ新宿署の刑事。ドレッドヘア、刀の鍔の眼帯、花柄のコートという風体をしている。スターム・ルガー製スーパーレッドホークを二周り巨大化させた様な拳銃「ドラム」と古武術「ジルガ」を操る。犯罪者に対しては微塵も容赦せず、自分の仕事を「逮捕」ではなく「退治」と言い切っており、新宿中の犯罪者から恐れられている。新宿において、せつらとメフィストに次ぐ実力の持ち主。
- 人形娘に対しては優しくなるらしい。彼が主役の「凍らせ屋」シリーズがある。
- 夜香
- 新宿の吸血鬼街を束ねる若き首領。背中に蝙蝠の翼を持ち、空を飛ぶ事ができる。「夜叉姫伝」において長老が斃れた後、吸血鬼街の首領となる。
- 「凍らせ屋」シリーズでは屍とペアを組むことが多い。新宿署の所長曰く、「新宿で二番目の最凶コンビ」。
- 梶原区長
- 魔界都市「新宿」の区長。普段はデリヘルで女の子にでれでれしていたりする、いわゆる「おやじ」だが、新宿の危機となると一転強かな「区長」になる。
- 新宿を維持する執念には強いものがあり、裏で汚い取引をする汚れ役も厭わない。
[編集] シリーズ
以下にシリーズを列記する。括弧内は発行年月。
短編
- 魔界都市ブルース 妖花の章(1986年4月)
- 魔界都市ブルース 哀歌の章(1989年1月)
- 魔界都市ブルース 陰花の章(1992年7月)
- 魔界都市ブルース 蛍火の章(1993年3月)
- 魔界都市ブルース 幽姫の章(1996年7月)
- 魔界都市ブルース 童夢の章(1998年11月)
- 魔界都市ブルース 妖月の章(1999年7月)
- 魔界都市ブルース 孤影の章(2001年9月)
- 魔界都市ブルース 愁鬼の章(2004年5月)
- 魔界都市ブルース 幻舞の章(2007年2月)
長編
- 魔王伝
- 双貌鬼(1988年1月)
- 夜叉姫伝
- 鬼去来
- 死人機士団
- 緋の天使(1995年11月)
- ブルー・マスク
- <魔震>戦線
- シャドー“X”(1999年1月)
- 魔剣街(2000年2月)
- 紅秘宝団
- 魔人同盟 青春鬼
- 闇の恋歌(2003年12月)
[編集] 影響を与えた作品など
秋せつらの妖糸は山田風太郎の小説に登場する技をパワーアップさせたものだが、本作以後各種漫画やライトノベルなどで、この作品の影響を受けたとおぼしい鋼糸つかいなどが登場した。
- 機動新世紀ガンダムXでは、二重人格で機体の武器がワイヤーカッターというキャラクターが登場。
- ブギーポップシリーズでは、ブギーポップは二重人格的存在で黒尽くめ、おまけに武器がワイヤー。
- ラグナロク(小説)では1巻に鋼糸つかいが登場。
- BASTARD!! -暗黒の破壊神-の魔戦将軍の1人、マカパイン。切断するだけでなく傀儡として操作する技も使う。
- ザ・サードでは、常に黒尽くめの異性嫌いの美形キャラが登場する(せつら+メフィスト)。著者の星野亮は菊地秀行のファンを公言しており、『月刊ドラゴンマガジン』のインタビューで影響を受けた作品に『魔界都市ブルース』を挙げている。ただし、このキャラの性別はせつらやメフィストと違って女性。
- スレイヤーズ!あとがきの名物キャラ「L様」は、原型となった未発表の作品では「某魔界医師みたいに」人間のふりをして作中に登場していた、という。
ブラックエンジェルズにも鋼糸を武器とする殺し屋が登場し、後に主人公も同じ技を使用する(ただし発表時期はこちらの方が先)。主人公が温和な好青年と冷酷非情な殺人者の二つの顔を持つ、地震で壊滅した東京でヤクザや怪しげな力を持つ殺し屋が暗躍する、など類似している点もある。なお、こちらの元ネタは必殺仕事人である。