F/A-18 (戦闘攻撃機)
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F/A-18 ホーネット
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空母ハリー・S・トルーマン上のF/A-18
F/A-18 は、アメリカ海軍などが運用する戦闘攻撃機。スズメバチを意味するホーネット (Hornet) の愛称で呼ばれる。初飛行は1978年。
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[編集] 開発の経緯
[編集] 開発前史
F/A-18の開発はそもそもノースロップ社が社内開発していたP-530コブラにまで遡ることができる。米空軍のLWF(Light Weight Fighter)計画にあたってこのP-530を参考に後述のYF-17が開発され、更にF/A-18へとつながっていった。このP-530はノースロップ社内のF-5発展型の研究で生み出されたものであり、F-5も社内プロジェクトのN-156計画から派生した航空機である。
[編集] 特徴
本機を特徴づけるのは、直線翼に近い後退角の小さな主翼と、大きなストレーキの組み合わせである。これらはF-5の経験から踏襲されたものであり、中低速域で抜群の機動性を誇る(P-530コブラの名称も、このストレーキをコブラの左右に広がった首の部分に見立てたものである)。エアインテークは固定式のシンプルなもので、超音速領域での効率はあまり良く無く、最高速度はマッハ1級に留まる。マッハ2以上の最高速度は実用上の必要性は無いという事で切り捨てた設計である。主翼と水平尾翼の間に垂直尾翼を配置したのも外見上の特徴であるが、これはエリアルールの適用を考えた設計である。
[編集] F-16とのコンペティション
アメリカ空軍の新型戦闘機開発にあたり、ゼネラルダイナミクスのYF-16とノースロップのYF-17によって競争試作が行われた。空軍はYF-16を採用し、これがF-16となる。その後海軍は競争に敗れたYF-17を採用し、これがF/A-18となった。
当初海軍より先に空軍がF-15と同系のエンジンを装備したF-16の採用を決めたが、F-16はエンジンが単発で小型であった。対して海軍は、海上でのエンジン異常が致命的であることから伝統的に多発機を好む傾向があり、双発で、かつ電子機器等を積む余裕のある大型の機体という理由でYF-17を採用した。
[編集] 開発メーカーの変更・大型化
当初、YF-17はノースロップ社が開発したが、海軍はノースロップが艦上機の開発をしたことが無いとの理由でノースロップを主契約者として認めず、マグダネルダグラス社を主契約社とした。なお、マグダネルダグラスは後年ボーイング社に吸収合併されたため、2006年現在ではF/A-18はボーイングのブランドとなっている。 艦上機のみマグダネルダグラスとする契約であったにもかかわらずマグダネルダグラスが、地上機として海外セールスを行なったため裁判沙汰となった。F-18Lの項参照。
YF-17は陸上機であったために、艦載機への変更および戦闘能力の強化をするにあたって、機体には大幅な変更が加えられた。着艦フックの装備、主脚や胴体構造の強化、ストレーキの大型化を含む翼面積の20%増大、エンジンの換装・強化、APG-65FCSの装備などである。
試作機は1978年11月18日に初飛行を行った。ただし、試作機はA-7Eよりも爆弾搭載量が少ないということもあり、直ちに改良が行われた。
[編集] 名称の変更
当初F/A-18は、F-4を更新しF-14を補佐する対空戦闘用のF-18と、A-7を更新する対地攻撃用のA-18という、2つの名称になる予定だった。しかしその後統合されF/A-18という特殊な名前となった。
本機の識別名のように、複数の使用名称がついている航空機は極めて珍しい。2006年現在の現役機では、本機とスウェーデン製のJAS39のみである(かつてはF-22もF/A-22と名称変更された時期があった)。
[編集] タイプ
[編集] F/A-18A/B
1979年より生産されたタイプで、F-4の更新用として、海軍より先に1980年から海兵隊への部隊配備が開始された。これは海兵隊も当初はF-4をF-14へ更新する予定であったが、F-14の価格が高騰した事により導入を断念、代わりにF/A-18を優先的に受け取るという政治的な取り決めが有ったためである。B型が複座型であり、当初はTF-18の名称であった。
[編集] F/A-18C/D
1986年度会計で導入された機体から単座型はAからC、複座型はBからDへとアップグレードされた、当初生産されたC/Dと在来型の相違点はコクピット後方の電子戦システムアンテナだけであったが、ビューローナンバー161353以降の機体からストレーキ上部へLEXフェンスの追加(この改修はそれ以前の機体に対しても行われている。)、ビューローナンバー163985からC[N]/D[N]と呼ばれる夜間攻撃能力の強化型へ、ビューローナンバー164693の機体から新型の射出座席に変更された。ブロック36以降のD型には、ATARS(新型戦術機上偵察システム)が使用可能な機体が存在する。
[編集] F/A-18E/F
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F/A-18は退役するA-6の更新用としては航続距離が短く、兵器搭載能力も不足していたため、改良型であるF/A-18E/Fが開発された(E型は単座型、F型は複座型)。
F/A-18E/FはF/A-18C/Dを改良・大型化したものであるが、多岐に渡る改修の結果、C/D型とE/F型の共通部品は僅か1割程度となっており、実際には別物と言っても過言ではない程の再設計がなされている。
また、愛称はホーネットからスーパーホーネット(Super Hornet)に変更された。非公式な愛称としてはライノ(Rhino)等が存在している。なお、E/F型をスーパーホーネットと呼ぶのに対して、在来型を非公式に「レガシーホーネット」と呼ぶ事もある。
以下にF/A-18C/Dからの主な改修点を挙げる。
- 機体の大型化
- 胴体が86cm延長されており、レドームも大型化している。胴体だけでは無く主翼・尾翼・ストレーキ等といった翼の面積拡大もされている。また翼面積だけでなく、操舵翼の面積も大きく拡大している。これらの改修によりアビオニクス改修用の余剰スペースの増加、機内の燃料容量の増加(C型の6061Lに対しE型は8063L)による航続距離の延長、運動性の向上等がなされている。一方、機体の大型化による空気抵抗増加、下記のインテイクの変更等の影響により、速度性能は在来型と比べ低下しているとも言われる。また、機体が大型化した一方で機体の総部品数は減少している。
- インテイクの二次元型への変更
- これはステルス性を考慮したためである。F-14やF-15の二次元型インテイクのような断面積可変式ではなく固定式になっており、在来型同様、E/F型も超音速性能を重視していない設計である点には変わりが無い。
- エンジンの換装
- F404から、F404の発展型であるF414-GE-400へ換装されている。推力の向上・エンジンをデジタル式制御している点が特徴。なお騒音はただでさえ大きいとされている従来品よりさら大きくなり、裁判沙汰にまで発展した。
- アビオニクスの改修
- レーダーがAN/APG-65からAN/APG-73へと改修されている。サイズや重量を殆ど増加させる事なしに性能が向上している。また、アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーであるAN/APG-79も搭載可能。その他、主な改修点として携行可能な兵装の種類が増えている点も挙げられる。
A-6の退役後、空母航空団のストライクパッケージの要と言えたF-14が老朽化により、元々高価な維持コストがさらに高騰した為、当初2010年としていた引退時期が、2006年の第一四半期に前倒しされた。このためF-14を装備していた飛行隊を中心に更新が進められている。
今後、F-14・EA-6B電子戦機・S-3Bバイキング対潜哨戒機の退役に伴い、近い将来にはF/A-18E/F、EA-18GとF-35Cで空母の甲板上はほとんど埋め尽くされると言われる。
老朽化の進んでいるF-14の後継機として作られたが、F-14よりも騒音が大きいため一部の(地上の)基地ではF/A-18E/F型の配備が最近になって完了した。
なお、2005年8月に日本の航空自衛隊のF-4EJ改の更新機種候補(F-X)の一つとして導入が検討されていると報道された。
[編集] EA-18G
現在(2007年3月時点)、電子戦機として運用されているEA-6Bの後継機として開発中の機体。電子戦機として運用する為、ベース機には複座機であるF/A-18Fが選定された。2006年にグラウラー(Growler)という愛称が正式なものとして決定されている(元々は非公式な愛称だった)。この愛称は、前任の電子戦機であるEA-6Bの愛称となっている、プラウラー(Prowler)の頭文字PをEA-18GのGに変えたもの。
[編集] F-18L
F/A-18が海軍機として製作され、マグダネルダグラスが主契約者であったのに対し、ノースロップが主契約者となり輸出用として開発された機体である。海軍仕様として搭載されていた降着装置や主翼折りたたみ装置の撤去、翼下パイロンの増設や簡略化された電子機器を搭載など。YF-17とF/A-18を足して2で割ったような機体である。カタログデータ的には、母体となったF/A-18はもちろんF-16もしのぐ機体であるが、モックアップのみであったため受注が無く、試作機すら製作されずに終わる。モックアップにはF/A-18Lと書かれていた。
なお、「マグダネルダグラスが、F/A-18を海外セールスに出したのは契約違反である」として訴訟を起こし、結論まで6年かかったほか、その訴訟費用を要求予算の中に含むという行為を両社がおこなっている。この訴訟中も、F/A-18の製作に支障はなかったという。
[編集] 実戦経験
F/A-18は、これまでに多くの戦争や紛争などでの実戦経験があるが、中でも有名なのは、湾岸戦争の際での実戦経験である。
湾岸戦争では、アメリカ海軍やアメリカ海兵隊のF/A-18A、F/A-18C、F/A-18Dが活躍した。主に、目標地点へのミサイルでの攻撃が任務であった。目標地点への攻撃は、前方監視赤外線システムとレーザー照準装置などによって目標地点を正確に探知し、電子工学誘導(テレビ誘導)兵器によっておこなわれた。
このように、アメリカ海軍やアメリカ海兵隊のF/A-18は、艦上などから出発したものの、その大半が陸上での任務であった。
また、F/A-18は、湾岸戦争の際には連合軍によっても使用された。
[編集] スペック

- 乗員
- A/C/E:1名
- B/D/F:2名
- 全長
- A-D:17.07 m
- E/F:18.38 m
- 全幅
- A-D:11.43 m
- E/F:13.62 m
- 全高
- A-D:4.66 m
- E/F:4.88 m
- 翼面積: 46.45m2(E/F)
- 空虚重量
- A/B:12,973 kg
- C/D:10,810 kg
- E/F:14,007 kg
- 最大離陸重量
- A/B:21,888 kg
- C/D:23,542 kg
- E/F:29,938 kg
- エンジン
- A/B:GE製 F404-GE-400 ×2
- C/D:GE製 F404-GE-402 × 2
- E/F:GE製 F414-GE-400 × 2
- 推力
- A/B:7,258 kgf × 2
- C/D:8,145 kgf × 2
- E/F:9,979 kgf × 2
- 最大速度
- A/B:M 1.7+
- C-F:M 1.8
- 航続距離:
- 実用上昇限度:
- 固定武装: M61 20mmバルカン砲 ×1
[編集] システム
電子化が進んでおり、操縦時間よりコンピューターの操作時間の方が長いと言われる。離陸時は、コンピューターが自動制御するため、操縦桿から完全に手を離し支柱に捕まって離陸する。同じく空母への着艦も自動で行う事が可能(ただし風の強さによる)であり、これらの自動化は安全性の向上に大きく寄与している。また、JHMCSにも対応しており、このシステムを導入する事によりレーダーシステムと連動しているヘルメット(価格は約10万ドル)による自動でのロックオンが行えるようになる。
[編集] 運用者
[編集] F/A-18が登場する作品
- 詳細はF/A-18に関連する作品の一覧を参照