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MiG-23MLD (航空機)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

MiG-23MLD(ミグ23MLD;ロシア語:МиГ-23МЛДミーグ・ドヴァーッツァチ・トリー・エムエルデー、またはミーグ・ドヴァーッツァットリー・エメルデー mig dvadtsat' tri emelde)は、ソ連ミグ設計局MiG-23戦闘機シリーズの完成型として開発された多目的戦闘機1980年代半ば以降、ソ連の空軍及び防空軍の主力戦闘機として使用された。北大西洋条約機構(NATO)では、識別のためにMiG-23MLDのソ連国内向けの機体に対し「フロッガーK」(Flogger K)のNATOコードネームを付与した。輸出向けの機体は、多機種と混同されて「フロッガーG」(FLogger G)とされていた。

MiG-23MLD(輸出型)
MiG-23MLD(輸出型)

目次

[編集] 概要

[編集] 背景

従来のMiG-23は、24度から26度の迎え角で飛行することができた。これは第2世代、第3世代の戦闘機に対する無条件の優越性を保障するものであった。しかしながら、この優越性も第4世代の戦闘機の登場により失われることとなった。即ち、アメリカ合衆国F-16では飛行可能な迎え角は26°から28°であったし、F-15Cに到ってはそれは30度に達していたのである。一方、ソ連でも当時TsAGIや設計局により30度以上の迎え角で飛行が可能な高機動の新型戦闘機MiG-29Su-27が開発されていた。これらの機体に用いられた技術によって、MiG-23の近代化が可能となったのであった。

[編集] 開発

MiG-23の近代化改修に際しては、根本的な構造の見直しは不適当とされ、すでに存在していたところの機体構造を最大限生かし変更点を最小とすることが条件として提示された。機体構成の新たな空気力学の研究により前縁フラップの大きさが変更され、また垂直尾翼の張り出しが小型化された。結局、選択されたのは最もオーソドックスな機体構成とあまり本質的ではない機動力の向上であった。主翼では、付け根前端に牙上の切り欠きが設けられたが、これは渦流を発生させることにより大迎え角での安定した飛行を齎すものであった。また、主翼展張時すなわち900 km/hまでの飛行時においては、速度と迎え角とによって前縁フラップが自動で行う「平易化の機械化」と呼ばれる改良が行われた。設計者たちは、この新しいMiG-23においてF-16と比較される大迎え角における高い安定性と操縦性を達成したのであった。

この機体におけるもうひとつの重要な変更点は、それまで45度であった戦闘時の主翼後退角を33度に減少させたことであった。また、この改良型ではSOS-3-4と呼ばれる警報システムを搭載した。これは、機体が極度に危険な迎え角に入った場合、操縦士に操縦桿の振動を以って危険域への接近を知らせるものであった。操縦士たちによれば、この装置によって危険な迎え角での飛行は大幅に容易になったと言われている。

このようにして、MiG-23MLDまたは23-18と呼ばれる最後の、そして最も近代的な「23番目」(MiG-23のこと)が姿を現した。MiG-23MLDは1984年から生産が始められた。なお、D(Д)は形動詞「仕上げられたところの」という意味の「доработанный」の頭文字で、MiG-23MLDは形容詞の後置修飾で「改良され軽量化されて仕上げられたところのMiG-23」を意味している。

[編集] 発展

1982年、MiG-23MLD/23-18に基づいた23-19と呼ばれる試作機が製作された。これは、ビェリョーザ(ベリョーザ;Береза)と呼ばれるより効果的な照射式警告観測装置と、クリストロン(Клистрон)と呼ばれる電波システムによる近代的な近接航法装置を搭載していた。その派生型はMiG-23MLDG(МиГ-23МЛДГ)または23-35と呼ばれる機体で、吊り下げ式のコンテナーにガルヂェーニヤ(ガルデーニヤ;Гардения)と呼ばれるアクティヴ妨害装置を搭載した。これは、初めはソ連空軍に配備されていたMiG-23MLの代替として、のちには輸出向けの量産機として提案された。

1984年にはさらにふたつのMiG-23MLD改良型が提示され、ソ連国内向けのものはMiG-23MLG(МиГ-23МЛГ)または23-37、輸出向けのものはMiG-23MLS(МиГ-23МЛС)または23-47と呼ばれた。これらはガルヂェーニヤに加え、従来のパッシヴ妨害装置VP-50-60(ВП-50-60)を廃しかわって照射式警告観測装置を搭載していた。また、MiG-23MLDG(МиГ-23МЛДГ)または23-57と呼ばれる機体も、こうした1980年代におけるMiG-23の改良型の内のひとつであった。しかしながら、これらはすべて第4世代機の台頭により量産はされなかった。

実際に施工された改良のうち、既存のMiG-23MLDへの新型ミサイルR-27およびR-73の搭載能力の付与は、MiG-23MLDの攻撃力を高めるのに大きな貢献をした。この改修はひとつ前の派生型であるMiG-23MLAにも施されたが、特にR-73については、これを搭載すればすべての東側航空機が西側の主力戦闘機F-16を撃墜可能になるといわれており、ソ連では戦闘機のみならずSu-17M4Su-25のような攻撃機にまでその運用能力を付加していた。これらの機体が果たしてどれほどの戦闘能力を増したことになったのかは疑問であるが、MiG-23に関しては、これら高性能の新型ミサイルを運用するようになったことでようやく名実ともにF-15・F-16に対抗できる戦闘機となったといえる。無論、世代の開きは致命的で、正面から格闘戦になればいくら改良されたとはいえMiG-23MLDに分の悪いことは明らかであったが、新型ミサイルの搭載により戦術ひとつで互角以上の戦闘を行うことが可能となった。

[編集] 投入

MiG-23MLDは、従来のMiG-23MLやMiG-23Pにかわりソ連空軍ソ連防空軍で運用された。主要任務は防空・護衛任務と対地攻撃任務であった。

1984年、14機のMiG-23MLDから成る飛行大隊Tu-16爆撃機Tu-95爆撃機の海上護衛のため、ヴェトナムのカムパン(Kam Pan)基地に置かれた。また、モスクワ近郊ではMiG-23が偵察気球を撃ち落していた。搭載兵器リストに載せられているUPK-23-250(УПК-23-250)機関砲コンテナーは、対気球用兵器であった。また、トゥノシュナ(Туношна)に基地を置くある部隊は未確認飛行物体を迎撃していた。

MiG-23MLDが最も注目を集めたのはソ連のアフガニスタン侵攻への参加であった。MiG-23MLDの飛行連隊は当初はカーブル防衛に就き、その後1986年から1987年にかけてはバグラムの防衛を担った。MiG-23MLD連隊は主に地上目標への攻撃に投入され、攻撃に成功した機体は機首に小さな白い星が描かれていた。しかしながら空中戦での戦果も知られており、1機のMiG-23MLDがR-60M(Р-60М)空対空ミサイルによりパキスタン空軍のF-16A 1機を撃墜した。なお、このときパキスタンのF-16Aは2機のアフガニスタン駐留のMiG-23を撃墜している(ロシア側の複数資料に基づく)。このときのMiG-23はパキスタン領空への越境状態にあり、そのため交戦をためらって先手を打たれてしまったとも言われる。

ソ連崩壊後は、ソ連での運用機体は独立した各国で継続使用された。確認されているものとしては、ロシアウクライナベラルーシカザフスタンの各空軍組織で運用されていた。だが、これらの国の機体のほとんどは世紀の境目を前後して退役し、解体または保管状態にある。ロシアでは、リペツクなどの飛行場で一部の機体が試験用や開発用に運用されている。ウクライナでは、オデッサリヴィウなどの飛行場に多数のMiG-23MLDが駐機されているのが確認されている。ベラルーシとカザフスタンの機体の状況は、明らかではない。なお、ロシアの運用機のうち5機は、ブルガリアMiG-25RBとの交換で同国へ譲渡されている。これらの機体も、すでに退役済みである。

[編集] 輸出

MiG-23MLDは、ごく一部の国へ少数が輸出された。これらの機体の名称はMiG-23MLDであったが実際にはそのダウングレード型であり、外見上の特徴も異なることから一般に「輸出型のMiG-23MLD」などと俗称されている。冷戦時代には、西側ではこれらの機体はMiG-23MLAとあわせてすべてMiG-23MLと誤認されており、MiG-23MLDはソ連国内のみでの運用と考えられていた。

輸出された機体の現況は不明であるものが多く、イラク戦争後は多数のイラク空軍のMiG-23が破棄されているのが確認されているが、その中にMiG-23MLDも含まれている。イスラエルに捕獲されたシリア空軍のMiG-23MLDは同国によって厳しく試験されたが、現在はイスラエルの航空博物館に他の機体とともに野外展示されている。なお、試験時は当然ながらこの機体はMiG-23MLであると思われていた。チェコスロヴァキアの機体はチェコに受け継がれ、運用されたが現在は退役している。東ドイツの機体は統一ドイツに受け継がれたが、すぐに全機が退役した。ブルガリアで多数運用されていたMiG-23MLDは他のMiG-23MLAとともに2002年に退役したが、一部はコートジヴォワールへ輸出され、現在も同国で運用されているものと考えられる。

これ以外のことは、輸出国を含め一般に明らかにはされていない。

[編集] 評価

MiG-23MLDは、MiG-23シリーズの完成型でありながらあまり目立ったところのない狭間の戦闘機と看做されている。というのは、MiG-23MLDが開発された時期の他国の戦闘機と比べると明らかに基本設計が古く、機体は実際従来のMiG-23MLの焼き増しであったからである。アメリカではF-4のようなMiG-23初期型世代の戦闘機は早々に第2線級となっていたが、1980年代中頃にはソ連ではこのMiG-23MLD以上の性能をもった機体は完成していなかった。そのため、ソ連軍はこの改修に改修を重ねた「老兵」で戦闘に臨まざるを得なかったのである。結果、MiG-23MLDは仮想敵機とされたアメリカ戦闘機より半世代も前の機体でありながら、必死の改良努力によりそれらに負けない高い能力を秘めた戦闘機となっていたと評価できる。MiG-23MLDは登場後10年程度で全機が退役してしまったが、それはこの機体の能力不足のためというよりは冷戦後の軍縮と運用国の国内経済事情によるものであった。一部はもとの運用国から海外へ転売され、第2、第3のキャリアに就いている。

[編集] スペック

  • 初飛行:1984年
  • 翼幅:13.97 ~ 7.78 m (最大展張時 ~ 最大後退時)
  • 全長:16.70 m
  • 全高:5.00 m
  • 翼面積:37.27 ~ 34.16 ㎡
  • 空虚重量:10230 kg
  • 通常離陸重量:14770 kg
  • 最大離陸重量:20100 kg
  • 機内燃料搭載量:3700 kg
  • 発動機:R-35-300(Р-35-300)ターボジェットエンジン ×1
  • 出力(アフターバーナー使用時):13000 kg
  • 出力(アフターバーナー未使用時):8550 kg
  • 最高速度:2500 km/h
  • 最高速度(地表高度):1400 km/h
  • 巡航速度:990 km
  • 実用航続距離:2360 km
  • 戦闘行動半径:1450 km
  • 最大上昇力:12900 m/min
  • 実用飛行上限高度:18600 m
  • 最大G:8.5
  • 乗員:1 名
  • 固定武装:23 mm連装機関砲GSh-23L(ГШ-23Л) ×1(弾数200発)
  • その他の武装:2000 kgまでの兵器搭載量(最大4500 kgを5箇所のハードポイントに搭載)

[編集] 運用国

[編集] ソ連国内向けMiG-23MLDの運用国

ウクライナ空軍で運用されたMiG-23MLD(ソ連国内向け型)
ウクライナ空軍で運用されたMiG-23MLD(ソ連国内向け型)

[編集] 輸出型MiG-23MLDの運用国

[編集] 外見上の識別

MiG-23MLD(ソ連国内向け型)
MiG-23MLD(ソ連国内向け型)
MiG-23MLD(輸出型) イスラエルの国籍マークをつけているのはイスラエルが捕獲したシリア空軍機であるため(垂直尾翼にシリアの国籍マークが残っている)
MiG-23MLD(輸出型) イスラエルの国籍マークをつけているのはイスラエルが捕獲したシリア空軍機であるため(垂直尾翼にシリアの国籍マークが残っている)

従来、西側では主翼付け根に切り欠きがあるものがMiG-23MLD、ないものがMiG-23MLであるとされてきた。しかしながら、実際は切り欠きがあるのはMiG-23MLDのソ連国内向けの機体のみであり、従来MiG-23MLとされてきた機体にはMiG-23ML、MiG-23MLA、そしてMiG-23MLDの輸出型が含まれていたことが冷戦終結後、ヨーロッパでは知られてきた。MiG-23MLDのソ連国内型は主翼付け根に切り欠きがあるため、その部分さえ見えれば識別は容易であるが、他の3つの機体及びソ連防空軍向けのMiG-23Pは細かいアンテナ類やパネルの違い、垂直尾翼の可動部形状の違い等から複合的に識別するより他なく、写真などでは間違う可能性が非常に高い。そのせいもあり、未だに切り欠きの有無によるMiG-23MLDとMiG-23ML、及び防空軍のMiG-23Pという区別しかされていない記述も多い。また、実際上写真等による外見上の識別には限界があり、間違った情報を含む場合も考えられる。

[編集] 関連項目

ソ連の戦闘機

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