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Palm Top PC 110 - Wikipedia

Palm Top PC 110

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

Palm Top PC 110(ぱーむ とっぷ ぴーしー -)は、1995年9月に日本IBMから発売された超小型パーソナル・コンピュータ。CMキャラクターとしてウルトラマンが起用されたことから「ウルトラマンPC」の愛称で親しまれた。

目次

[編集] 特徴

  • 本機は、日本IBMの野洲研究所で開発されたもので、小さいながらも完全なPC/AT互換機である。ジュラルミン製のボディは、A6ファイルサイズで、バッテリー込みの重量はわずか630gと、VGA 表示可能なカラー液晶を搭載したPCとしては、当時世界最小・最軽量であった。いずれも当時の標準的なサブノートのほぼ半分、一般的なノートパソコンの四分の一である。このサイズは、背広の胸ポケットに入る大きさとして決まったとのことである。


  • 本体にHDDを持たず、システムは内蔵フラッシュメモリ等から起動する仕様であった。また、本機そのものが電話として使用できる通信機能(ただし、ワイヤレスではなく、電話ケーブルの接続が必要。)を備えていた。
  • ソニーが1990年頃に発売していたPalmTopとはまったく関係はない。

[編集] 構成

この機械は内容的には完全にPC/AT互換機であるが、構成はかなり特殊で、その他のノートパソコンとは大きく異なっている。

CPUはSLエンハンスドi486SX-33MHZ、メインメモリは4Mバイトないし8Mバイト(モデルによって異なる)。ディスプレイは4.7インチDSTNカラー液晶。画面はVGA(640x480ドット、256色、ただし外部ディスプレイでは800x600、16色まで表示可能)。この辺りまではまあ普通、というより当時の標準以下である。本体はジュラルミン製で、これは小さいだけに強度を求めての措置。

面白いのはこの辺りからで、まずハードディスクドライブが内蔵されていない。PCカードタイプのハードディスクが付属するモデルはあったが、本体にはない。代わりに4Mバイトのフラッシュメモリーが内蔵され、これに最低限のソフトが入っている。当然のごとくユーザーによる書き換えが可能だった。

入力装置としてはキーボードがほぼ標準の配列であったが、小さいために構造に工夫が加えられていた。各キーの表面に段差がつけられ、中央部が盛り上がっていて、複数のキーを押すことが少ないようになっていた。また、円筒形のボタンで操作するポインティングヘッドがキーボードの左上に装備され、タッチボタンはその斜め上下に配置していた。面白いのは同じボタンが右側にも上下逆配列てあったことで、これは両手で左右を持って操作する事を配慮してのものである。ポインティングヘッドが赤、左ボタンが青、右ボタンが緑で、本体が黒い中でよく目だった。(ファミコンのコントローラを参考にしたとの事。) また、キーボードの上中央にはタッチパッドが装備されていたが、これは付属のPIMソフトであるPersonaware専用で、たとえばWindowsでの使用はできなかった。

また、外づけキーボード/マウスのコネクターは専用のものを背面に備え、WingJack式の電話との接続、電話用ヘッドセットと赤外線通信ポートが同様に背面に並んでいる。WingJackというのは、蓋を開けると斜めからモジュラージャックが挿入できるようになっており、非常に小さく格納できる。この機のために開発されたものとのこと。オーディオ用ヘッドセットのジャックが正面側にあり、その横に小さな液晶画面があって、これには電池の充電状態が表示された。正面左右には円形の盛り上がった部分があって、これは付属の後述する電話の送受信部である。

左側にはPCMCIAカードの挿入口がある。TypeIIx2またはTypeIIIx1で、これは標準的なものである。右側にはスマート・ピコ・フラッシュカードの挿入口がある。これは、その後コンパクトフラッシュと呼ばれるようになり、デジタルカメラなどによく使われるようになったが、これが最初の登場で、当時はほとんどこの機に専用の状態であった。同じく右側には電池ボックスがあり、その蓋にはスピーカが着いている。電池は松下電器のビデオカメラ用のリチウム電池が使えた。

[編集] 付属機器

本体には上記のようなものが着いているが、一般的なフロッピードライブやプリンタポートなどは付属していない。これらを使うには専用のポートリプリケーターが必要だった。これは本体よりほんの少し輪郭が大きい長方形で、本体下面の拡張コネクタを介して接続する。ポートリプリケーターの背面にはプリンタ・外部ディスプレイ・RS-232Cのポート、左側には外部キーボードとマウスのコネクタがあった。右側には外付けフロッピードライブの接続口があった。 (外付けフロッピードライブは、ThinkPad 5xx シリーズの物が利用出来た。)

商品としては3通りあり、2431-YD0は本体のみでメインメモリが4MB、YD1は同じく本体のみでメモリが8MB、YDWはYD1にポートリプリケータ・フロッピーディスクドライブとWindows3.1がインストールされたPCカード型ハードディスクが付いていた。

メモリは増設が可能で、サードパーティからは16MBのものまでが出たが、増設するには裏蓋を外さなくてはならないというやっかいなものだった。

他に、付属機器とは言えないかもしれないが、デジタルカメラが発売された。キヤノンのデジタルカメラカードCE300で、PCMCIA TypeIIのカードの外側に、スイバル式のレンズ部分が突き出るもので、カメラの方にはファインダーも液晶画面もなく、110の液晶に画像が出るようになっていた。画素子数は27万画素。マクロ撮影も可能だった。

[編集] 付属ソフトウェア及び機能

本体の内蔵メモリにはPC DOS J7.0/Vの最低限の部分(全体はフロッピーディスクで付属)とPersonawareというソフトが入っており、ハードディスクカードを挿入するなどしていなければ起動後すぐにこれが立ち上がるようになっていた。これは簡単なPIMとメニューの役割を果たし、日程表やメモ、簡単なメモ的なデータベース、住所録、電子メールやファックス機能、あるいは他のアプリケーションを登録して起動する機能などがあった。ファックスは110に内蔵のFaxモデムを使うもので、専用のエディターで作った文書を送るようになっていた。

また、この機のためのソフトであるだけに、この機の特殊機能にからんだ操作ができた。たとえばこの機は電話機として使うことができた。背面のWingJackにモジュラージャックをつなぎ、110を起動してPersonawareの電話を選択、画面上の数字ボタンを押すか、住所録から選べば、電話がかけられるし、向こうからの電話を受けることもできる。話をするためには本機の背面側を持ち、前面の両端にあるスピーカ(左側)とマイク(右側)を耳と口に当てることになる。ちなみに電話をかけ始めれば電源を落としていいし、受信は電源なしでよかった。なお、マイクが電話のフックの役目をしていて、左右にスライドさせることで受けたり切ったりする。これだけなら単なる電話であるが、それ以外に、ポケベルにメッセージを送る機能や、留守番電話の機能も付いていた。

手書きメモ機能も付いていた。これはキーボードの上側に付いているメモパッドにペンなどで線を引いたものが記録できるもので、250x130の白黒のビットマップファイルとして保存できた。なお、メモパッドの表面に傷が付かないように透明フィルムが乗せられるようになっていて、商品にはこの交換用フィルムが10枚付属していた。

なお、YDWにはPC DOSとWindows3.1が普通にインストールされていた。追加ソフトとしてfaxと赤外線通信のソフトもインストールされていた。


起動は内蔵メモリからか、ハードディスクカードから行うが、設定を変えればピコフラッシュメモリーからも可能であった。

また、しばらく後になるが、日本IBMからPC DOS上で作動するインターネットブラウザであるWebboyが発売された。これもほぼ110での使用が想定されたものと考えられている。ちなみに、インターネットに使うには内蔵モデムは非力で、外付けや特にPCカード型のモデムを利用する人が多かったようだ。

[編集] 歴史的な流れ

この機種は、日本IBMのノートパソコンのシリーズ名であるThinkPadの名をもらわなかった。恐らく上記のようなさまざまな特殊な部分をもち、そのままでは他の機のような使い方がしにくかったためであろう。しかし、110という番号は、明らかにThinkPad 220を意識したものである。

ThinkPad 220は、元来は、常に持ち歩いてどこでも使えるパソコンを、という目的で、日本IBMの内部の濃い層が企画したもので、当初はより小さなものを考えていたが、商品化にあたって、より一般的に受け入れられるようにあの大きさになった、という経緯があった。この機種は、販売数は必ずしも素晴らしいものではなかったが、サブノートというジャンルを開拓し、以後各社から同程度の大きさの機種が販売されるようになった。しかし、それらは日本IBMの後継機種を含めて、「220より少し大きいが高機能」のものであった。それが一般的な要求であった。しかし、当初220を企画したような層も存在し、それらはいわゆるマニア的な部分であるが、それだけに声は大きかった部分もある。彼らから見れば、220でもまだ大きいので、より小さいものでなければ気軽に持ち歩けない。220の前に試作された機体はモノリスと呼ばれ、パソコンのショー等で展示されていたから、モノリスを出せ、あるいは勝手に名前を付けてThinkpad 110を出せ、というキャンペーンがパソコン通信の世界で行われたこともあるようである。そのような層は当時パソコンでのそれをあきらめてヒューレットパッカード社のHP100LX(後に200LX)に向かい、ユーザーの手で日本語化が行われるほどの盛況を呈していた。

PC110は、これらの声に答えたものであった。あちこちの凝りに凝った作りも、マニアの声に答えるというより、自分たちのやりたいことをできるだけ詰め込んだと言うふうに見える。試作機モノリスへの思いも込めて、PC110 の基板上には、"MONOLITH 1992" と刻印されているのも、それを示したものと言えよう。電話機能も、必ずしも実用的なものではない(多分使わなかった人が大部分だと思われる)が、できるだけいろいろな機能をいれたい、あるいは可能性を世に問いたいという思いのためであろう。企画段階ではさらに多くのものがあり、あきらめたものも多い。例えばストラップを付けてぶら下げるようにする、という案は、強度の問題から見送られたが、実は本体にはネジ穴が刻まれているので、ユーザーがそれに合うネジを付けることができた。もちろん説明書等には解説されていない。それらは後にユーザーの間での情報交換の中で広まったものである。

ちなみに、コンピュータにインターネット、電話、カメラを合わせる発想はその後の携帯電話の進歩を先取りしたものとも取れる。

[編集] ユーザーの活動

という訳で、110の発売は一定層には大いに待ち望まれたものであった。反響は大きく、パソコン雑誌の多くが特集を組んだほどである。使い方やさまざまな実験例がユーザー間でやり取りされた。ちょうどその直後にWindows95が発売され、インターネットが爆発的に普及を始めた時であり、ウェブ上でもさまざまな情報発信が行われた。

ちなみにそのWindows95も当然ながら110にインストールすることが試みられた。ハードディスクカードのモデルでは可能で、結構よく動いたが、さすがにその上で大きなアプリケーションを動かすのは難しかったようだ。OS/2 Warpをインストールした話もあったが、これは動いているのがやっと確認できるレベルだった由。Linuxのインストールについて解説したウェブサイトもいくつもあった。BTRONのその当時の版であった1B/3もインストール可能で、それを薦める本も出た。

この110がらみで出た本は多い。以下のようなものが確認されている。

  1. IBM Palm Top PC110 活用ハンドブック:武井一巳(メディア・テック)
  2. Palm Top PC110 スーパーブック:石井英男外(ソフトバンク)
  3. IBM Palm Top PC110 徹底活用ブック:ビットマップファミリー・シンジケート(インタープログ)
  4. Palm Top PC110 電脳生活マニュアル:土井武志(祥泳社)
  5. Palm Top PC110 FUN BOOK:ウルトラマンPC研究会(アスキー)

いずれも製品の説明と解説から使い方や使用例の紹介などであるが、特徴的なのがその多くでこの110が出るまでの歴史経過にかなりの項を割いていることである。本稿はそれらを参考にしている。また、機体の分解にまで話が進んでしまうのもいくつかあった。これは、メモリの増設のためには底面を外さなければならないという事情もあるが、この小さい機体にどのようにしてさまざまな部品を収めるかに如何に工夫されているかについいて雑誌等が何度も取り上げたためもあるだろう。また、後述のように時に分解して手をいれなければならないことがあったのも事実である。特に徹底活用ブックは解体の過程を写真入りで説明し、CD ROMに動画まで付けるサービスぶりだった。ちなみにこの本では単なる製品の増設メモリの取り付け方だけでなく、勝手に別のメモリをもってきてつなぐ方法やクロックアップまで解説されていた。

なお、改造というのかどうかは微妙であるが、色違いの上蓋と底蓋を販売したサードパーティーがある。金、グレー、青、紫、赤、緑の5色で、これを取り替えるとむちゃくちゃ派手なPCになる。

[編集] 弱点

110はこれらのマニア層には実に魅力ある機種だったが、いくつかの弱点があった。一つは、本体の拡張性に乏しいことである。新設のコンパクトフラッシュは、当時はメモリーにしか使えず、それも最大は15MBで、現在よりはるかに高価だった。PCカードスロットは2基あったから、これが主力になるのだが、ハードディスクカードを装着するとそれだけで2基ともふさがれてしまう。PCカードはWindows95になって格段に使いやすくなっていたから、ハードディスクと併用したいユーザが多かったので、この点は問題だった。ただし、後年に出てきたマイクロドライブのためにこの点は回避されるようになった。

それ以上の問題は意外に壊れやすかった点である。基本的に本体そのものは丈夫なのだが、最大の弱点は蓋を支える部分が弱いことで、落とした衝撃などで歪んでしまい、ぐらつきが生じることがよくあった。しかも、そのままだと次第に歪んで、それだけでなくその部分の配線が切れるなどの障害に至ることがあった。そのため、この部分の覆いを外して歪みを戻す必要があった。また、細部のネジが緩むことから不調を来すことが時にあった。このため、完全に作動する機体は次第に減少し、現存するものは、マニアが大事に保管しているものと思われる。また現在では、かなりのプレミアが付いており、取引価格が1万円以上することもある。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

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