こけし
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こけし(小芥子)とは、東北の温泉地で江戸末期(文化文政)ころから湯治客に土産物として売られはじめた轆轤(ろくろ)引きの木製の人形玩具で、一般的には球形の頭部と円柱の胴だけのシンプルな形態をしている。本来の玩具としてのこけしはキューピーなどの新興玩具に押されて大正期には衰退し、転業休業する工人も増えたが、一方で大正のころから趣味人が好んでこけしを蒐集するようになり、子供の玩具から大人の翫賞物として作り続けられた。東京、名古屋、大阪にこけしを集める蒐集家の集まりが出来て、一時休業した工人にも再開を促し、かなりの作者の作品が幸いにも今日まで残ることとなった。
大きく分けて伝統的な形式に則った「伝統こけし」と個性が豊かな「新型こけし」に分かれる。「新型こけし」には近代的インテリアにあった工芸的な「創作こけし」と、戦後東北に限らず全国観光地で土産品として爆発的に売られた観光土産品の「こけし人形」がある。
「伝統こけし」は、産地ごとに形式が異なり、その形式と伝承経緯により約10種類の系統に分類される。
こけしの名称は、各地によってすこしづつ異なっており、木で作った人形からきた木偶(でく)系(きでこ、でころこ、でくのぼう)、這い這い人形からきた這子(ほうこ)系(きぼこ、こげほうこ)、芥子人形からきた芥子(けし)系(こげす、けしにんぎょう)などがあった。
「こけし」という表記も、戦前には多くの当て字による漢字表記(木牌子・木形子・木芥子・木削子など)があったが、昭和14年8月に鳴子温泉で開催された全国こけし大会で、仮名書きの「こけし」に統一すべきと決議した経緯があり、現在ではもっぱら「こけし」という用語がもちいられる。
毎年5月3日~5日まで、宮城県白石市において「全日本こけしコンクール」が開催される。最も優れた作品には、最高賞として内閣総理大臣賞が授与される。 また鳴子では9月の第1土曜日曜に「全国こけし祭り」が開かれ、コンクールや工人の製作実演が行なわれる。
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[編集] 歴史
こけしが生まれるには次の三つの条件が必要だったと言われてる。①木地師が山から降りて温泉地に定住し、湯治客の需要に直接触れるようになる。②赤物が伝えられる。③湯治習俗が一般農民に一種の再生儀礼として定着する。
赤物というのは赤い染料を使った玩具や土産物のこと、赤は疱瘡(天然痘)から守るといってこの赤物を喜んで買い求め、子供のもてあそび物にした。赤物玩具を作る人のことも、赤物玩具を背負って行商に売り歩く人のことも赤物師と呼んでいた。赤物のもっとも盛んな産地は小田原や箱根だった。その手法が江戸末期、文化文政から天保の頃に東北に伝わった。東北の農民達がさかんに伊勢詣りや金比羅詣りに行って、その途上、小田原、箱根の木地玩具(赤物)を見るようになったのがその契機といわれる。湯治の農民達も土産物としてこの赤物の木地玩具を望むようになった。いままでお椀やお盆のように白木のまま出していた木地師が、色を付けた製品を出すようになるのは大きな変革であり、それは山の木地師が山から降りて湯治場に定着し、湯治客と直接接するようになって初めて起こったと考えられる。
当時の農民にとって、温泉で湯治を行なうということは、厳しい農作業の疲れを癒すとともに、豊かな農作物を生み出す力を再生するという一種の再生儀礼でもあった。山の温泉は、大地の子宮でもあって、湯につかって出てくることは、疲れた身体がいったん死んで、新しい力とともに生まれ変わることでもあった。赤物のこけしは、こうして得た五穀豊穣の新しい力の象徴でもあり、それを自分たちの村へ運ぶ象徴的な形象だったと言われている。
こういう三つの条件が江戸末期という時点で東北地方に揃ったという事が、東北地方でのみこけしが生まれた理由と考えられている。
「こけし」の起源を「子消し」とする俗説があり、水子供養と付会するものもあるが、上記の歴史を考えれば正しいものとはいえない。
[編集] 系統
伝統こけしは産地によって特徴に違いがあり、主な物は下記の各系統に系統に分類することが出来る。
- 頭部には蛇の目の輪を描き、前髪と、鬘の間にカセと呼ぶ赤い模様がある。胴の模様は線の組み合わせが主体。
- 弥治郎系(白石市弥治郎・宮城)
- 頭頂にベレー帽のような多色の輪を描き、胴は太いロクロ線と簡単な襟や袖の手書き模様を描く。
- 遠刈田系(遠刈田温泉・宮城)
- 鳴子系(鳴子温泉・宮城)
- 頭頂に輪形の赤い飾りを描き、胴は上下のロクロ線の間に菊模様が描かれる。
- 蔵王高湯系(蔵王温泉・山形)
- 肘折系(肘折温泉・山形)
- 頭部は赤い放射線か黒頭で、胴模様は菊、石竹などが多い。
- 木地山系(木地山・秋田)
- 頭部には大きい前髪と鬘に、赤い放射線状の飾りを描く。胴は前垂れ模様が有名だが、菊のみを書いた古い様式もある。
- 簡単な描彩に、頭がぐらぐら動くのが特徴。
- 単純なロクロ模様、帯、草花の他、ネブタ模様などを胴に描く。
これらの系統に含まれない伝統こけしも存在する。
[編集] 鑑賞方法
こけしの鑑賞方法に絶対的な規則は無い。もちろん作り手(工人)の技量の問題はあるが、自分自身の感性で直感的に良し悪しを感じ取って良い。従って他人が勧める物でも、表彰などで高く評価されていようとも、自分が気に入らなければ問題外である。こけしを通じて工人の感性と直接的に向き合い、形態が美しいか表情は魅力的か、心に訴えるものがあるか、判断すれば良い。
伝統こけしに関しては、その成り立ちの背景にある東北各地の文化や、時代ごとの変化、各工人の育ちや作品に影響を受けた過程、作品ごとの個性を楽しむことが出来る。東北という地域を理解する上で大変役に立つであろう。
[編集] 保存方法
木の工芸品であるので、湿気乾燥の影響が少なく、また直射日光を避けることが望ましい。こけしに触るときは、手が汚れていたり汗ばんでいてはいけない。購入時に選ぶため触れる事があれば、手をハンカチ等で拭ってから触れるのがマナーである。通常のこけしは蝋で仕上げして有るものだが、それでも出来る限り色落ちを避けるために必要な事である。直射日光は色彩と木の劣化を進めるので、避けなければならない。湿度が高低すると、こけしが割れてしまったり、カビが生える原因となる。