つくば写真美術館'85
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つくば写真美術館'85(つくばしゃしんびじゅつかん・はちじゅうご、Tsukuba Museum of Photography 1985)とは、ツァイト・フォト・サロンが1985年につくば万博にちなんで、筑波にて期間限定で開設した写真の美術館。
この美術館では、朝日新聞社、宮城県美術館の協力を得て、「パリ・ニューヨーク・東京」という写真展が開催された(3月9日から9月16日。なお、その後、11月9日から12月22日まで、宮城県美術館へと巡回した)。
この展覧会は、ツアイト・フォトの石原悦郎氏を中心にカタログにおける執筆者でもある以下の6名により企画されたもので、フランス・アメリカ・日本の代表的な写真家170名の400点あまりの写真作品を一挙に展示するという、ほぼ20年が経過した現在で考えても驚異的な内容である。
その展覧会カタログは300ページにも及び、執筆者は、伊藤俊治、横江文憲、平木収、金子隆一、飯沢耕太郎、谷口雅の各氏である。歴史的に評価が固まっている写真家だけではなく、日本の現代作家26名を取り上げている点にも、特徴がある。
しかし、当時の日本における写真に対する関心そのものが高まっていなかったこと(というか、当時の日本の一般レベルの関心に比べて、企画が量的にも質的にもレベルが高すぎたこと)、万博会場からやや離れていたり宣伝不足のため、十分な関心を集められなかったこと、万博との関連性について説得力のある説明がなされていなかったこと、などの理由で興行的には失敗したという。例えば、その展覧会カタログはそのすぐれた内容にもかかわらず、大量にツアイト・フォトの手元に売れ残り、保管コスト削減のために裁断処分を余儀なくされたともいう。
このような興行的な失敗にもかかわらず、その後、川崎市市民ミュージアム(1988年開館)、横浜美術館(1989年開館)、東京都写真美術館(1990年に1次開館)など、写真の収集展示を積極的に行う美術館があいついで開館し、また、その中で上記展覧会カタログの執筆者各氏が活躍しているということを考えると、写真および写真展の隆盛のさきがけとなったという点において、この美術館(およびその企画)を一つの画期として高く評価することができる。