エンジンブレーキ
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エンジンブレーキは、加速時とは逆に、車輪でエンジンを回し、エンジンの回転抵抗を利用して減速する手段のこと。機関ブレーキとも呼ばれる。一般のブレーキとは異なり「エンジンブレーキ」という装置がついているわけではなく、またブレーキペダルのようなものもない(後述のディーゼルエンジンにおける「排気ブレーキ」を除く)。
エンジンは、スロットル(アクセル)を閉じているときには、低い回転数で安定して回転するように調整されている(アイドリング)。車輪から伝わってくる力による回転数がアイドリング回転数を上回った場合、その差が抵抗となり、ブレーキとして働く。これがエンジンブレーキである。原理上、変速機(トランスミッション)のギア位置が低速ギアにセットされているほど、強く作用する。抵抗をもたらすのは、大半がエンジンの吸排気抵抗であり、摩擦抵抗が占める割合はごくわずかである。
一般的にスロットルによる出力調整を行わないディーゼルエンジン車はエンジンブレーキがガソリンエンジン車と比較して効きにくいとされおり、ディーゼルエンジン車の中でも大型のトラック、トラクター等では特にエンジンブレーキは効きにくいとされている。これは車重に比してエンジンの排気量が小さいことが主な原因とされる。高出力ディーゼルエンジンでは過給が一般的であり、自然吸気のエンジンに比べて車重に比するエンジンの排気量が特に小さくエンジンの抵抗も小さい。そのために補助ブレーキとして排気ブレーキ、リターダが用いられている。リターダには流体抵抗を用いたもの、渦電流式を用いたもの等がある。リターダはフットブレーキの使用頻度を低減させ、ブレーキの寿命を延ばしランニングコストの低減にも効果がある。
エンジンブレーキは、長い下り坂などで多用される。長い下り坂でフットブレーキを使って速度を調整すると、摩擦熱によりフェード現象やヴェイパーロック現象が発生して、ブレーキが利かなくなるために危険な状況に陥る。下り坂では勾配に応じ、ギア位置を低速ギアにセット(シフトダウン)して強いエンジンブレーキを使うことで、フットブレーキの使用を最小限に抑えてフェードやヴェイパーロック現象の発生を回避することができる。
自動車のほかに、現在は鉄道車両(気動車、ディーゼル機関車)でも装備している。間接制御が前提の日本の気動車・機関車の場合、自動車とは異なり、燃料噴射量を制御するマスコンハンドルをOFFにした後、ブレーキレバーを常用減速域に進めると、変速機がつながってエンジンブレーキがかかるようになる。なお、、電気式の場合は発電ブレーキを用い、エンジンを制動力には使わないのが通常である。