オリバー君
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オリバー君(オリバーくん)は、1976年に「チンパンジーと人間の中間にあたる未知の生物」「ヒューマンジー」という触れ込みで来日し、話題となったチンパンジーである。
オリバーは1960年にアフリカのコンゴ湾上流で捕獲され、アメリカでサーカスの調教師夫妻に飼われていたところを、弁護士のマイケル・ミラーが購入したと言われる。講入額は8000ドルで当時オリバーは推定年齢16歳だった。来日時には身長140センチ、体重56キロ。
オリバーが謎の類人猿とされた根拠は、直立二足歩行をすること、頭髪が薄い外見、人間の女性に発情すること、ビールを飲み、煙草を吸うことなどである。特に染色体の数が人間が46、チンパンジーが48なのに対して、オリバーは47であることが強調された。また、オリバーが捕獲された地域では原住民とチンパンジーが共生する風習があるとも説明された。
しかし、後に日本の放射線総合医学研究所における検査でオリバーの染色体は48本でチンパンジーと同一だったこと、腰椎のレントゲン検査により腰椎の数もチンパンジーと同じ4個、血清蛋白のパターンもチンパンジーと一致したことが判明している。
1976年7月のオリバーの来日は、興行師の康芳夫の仕掛けである。康はアメリカで話題になっていたオリバーに目をつけ、所有権を持つマイケル・ミラーと契約をして日本での興業権を得た。日本中を巡回してまわり、どの会場も満員だったという。
特別チャーター機で羽田に到着したオリバーをタラップから降りさせ、来日歓迎ディナーショーには正装で出席し、宿泊するのはダイヤモンドホテルのスイートルームにするなど、オリバーを人間扱いした巧妙な演出は、マスコミの興味を惹き、連日の報道はオリバーを一躍ブームにした。 特に日本テレビでは出演料500万円を払い、1976年7月22日に「木曜スペシャル 謎の怪奇人間オリバー!」と題して、学者らが鑑定分析する模様を放送して24.1%の高視聴率をあげた。ちなみにこれを担当したのが日本テレビの社員ディレクターだった矢追純一であり、ホテルでオリバーの世話をしていたのがIVSテレビのアシスタントディレクターだったテリー伊藤である。
高視聴率に気を良くした日本テレビはさらにオリバーの「花嫁」を募集。これに対して数十人の女性が応募する反響があったが、現在は占い師を営む当時無名の19歳のタレントを康が個人的に選び、記者会見まで行われた。しかし、出産したら1000万円の報酬が支払われるというこの前代未聞の企画はさまざまな事情で実現するには至らなかった。
アメリカに帰国したオリバーを待ち受けていたのは、マイケル・ミラーから売却され、所有者の間を転々として、サーカスや見世物小屋で見世物として扱われる生活だった。そして、見世物として飽きられてしまった1980年代末になると、今度は化粧品会社の実験所の1.5メートル四方の小さな檻で7年間を過ごした。
1996年にオリバーは動物保護ボランティア「プライマリリ・プライメイツ・アニマル・サンクチュアリ」に保護されて、余生を送っていると言う。この様子は2000年10月3日に日本テレビが「あの人は今!?」で取材した。来日時と異なり、毛が生え揃っているオリバーの外見はチンパンジーそのものだった。
[編集] 関連文献
- 朝日新聞1976年7月23日号
- 皆神龍太郎、加門正一、志水一夫、山本弘「新・トンデモ超常現象56の真相」(太田出版)
- 康芳夫「虚人魁人 国際暗黒プロデューサーの自伝」(学習研究社)
- 荒俣宏「荒俣宏の20世紀世界ミステリー遺産」(集英社)
- 竹熊健太郎「箆棒な人々 戦後サブカルチャー偉人伝」(太田出版)