シンガポール航空006便墜落事故
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シンガポール航空006便墜落事故 (Singapore Airlines Flight 006)とは2000年10月に台湾で発生した航空事故である。この事故は最新のボーイング747-400が事故機となり、シンガポール航空にとっても創業以来初めての人身死亡事故となったが、事故原因はパイロットの人的ミスであったとされた。
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[編集] 事故の概要
シンガポールを出発し台湾の台北を経由してアメリカ合衆国ロサンゼルスに行くフライトプランであったシンガポール航空006便は1997年1月製造の新しいボーイング747-400(機体記号9V-SPK)で運航されていた。
2000年10月31日午後11時17分(現地時間)に台北の中正国際空港(現・台湾桃園国際空港)で離陸に失敗し墜落炎上した。この事故で乗員20名、乗客159名の合わせて179名のうち、日本人1名を含む83名が犠牲になり80名が重軽傷を負う大惨事になった。
事故当時、台湾には台風20号が接近中で、台湾全土が風速15m以上の強風圏に入っていた。そのため当日は強い風雨のため発着する国内線航空便の欠航が相次いでいた。そのため事故は台風の強風による機体の横転や、ウインドシアを事故原因とする推測が出されたが、3名全員が生存した運航乗務員の証言とCVR、DFDRの解析結果から、パイロットミスと判明した。
[編集] コックピットボイスレコーダー(CVR)の記録
原語は英語、時刻は世界標準時UTC表記
15:14:58: Pilot-flying (PF)- Tell them we ready lah (管制官に離陸準備ができたと伝えてくれ。)
15:15:02: Radio 2 (RDO2)- Singapore Six ready (シンガポール6、離陸準備完了。)
15:15:04: Tower (TWR)- Singapore Six roger, runway zero five left, taxi into position and hold (シンガポール6、了解。滑走路は05L。離陸位置までタキシングして待機せよ。)
15:15:08: RDO2- Taxi into position and hold, Singapore Six (離陸位置までタキシングして待機。シンガポール6。)
15:15:12: Pilot-not-flying (PNF)- I get them seated ah (客室乗務員に伝えます。)
15:15:12: PF- Ok below the line please... yah
15:15:15: PNF- Cabin crew to your takeoff station thanks (客室乗務員は着席してください。)
15:15:22: TWR- Singapore Six, runway zero five left, wind zero two zero at two eight, gust to five zero, cleared for take off (シンガポール6、滑走路は05L。風は方位20度から28ノット。最大風速、50ノット以下。離陸を許可する。)
15:15:30: RDO2- Cleared for takeoff, runway zero five left, Singapore Six (離陸許可、滑走路05L。シンガポール6。)
15:16:43: Observer pilot (OBS)- Ok, thrust ref toga toga (スラストを入れろ。)
15:16:43: PNF- Thrust ref toga toga
15:16:44: PF- Ok, thrust ref toga toga
15:16:54: OBS- Hold
15:16:54: PNF- Hold
15:16:54: PF- Roger
15:16:55: OBS- Eighty knots (速度80ノット。)
15:16:55: PNF- Eighty knots
15:16:56: PF- Ok, my control (私がこのまま操縦する。)
15:17:13: PNF- Vee One (V1。)
15:17:13: OBS- Vee One
15:17:16: PF- Shit, something there (くそっ、何かあるぞ。)
15:17:17: (最初の接触音)
15:17:18: ****waaah****
15:17:18: (衝撃音)
15:17:22: (録音終了)
[編集] 事故原因
事故機は管制塔から離陸を指示された滑走路05L(左側)の約200m隣を平行に走る改修工事中の滑走路05R(右側)に誤って進入し、05Lにいるものと誤信したまま離陸滑走を行ったことが判明した。
当日、05R滑走路には運悪く工事用車両などの障害物が置かれていた。そのためパイロットは回避のために即座に離陸を行ったが、コンクリートブロックに衝突してバランスを崩したまま工事用クレーン車に衝突し墜落したものであった。機体はバラバラになり爆発炎上した。多くの乗客は事故の衝撃からは生存していたが、火災によって落命したといわれている。
台湾の行政院飛航安全委員会は2002年4月26日、事故機は左滑走路に入るべきところ、機長が誤って補修工事で閉鎖中の右滑走路に進入させたうえ、滑走路の確認を怠ったことが原因と最終的に結論付けた報告書を発表した。これは、パイロットは滑走路地図等で右滑走路が使用不能であることを確認できたこと、誘導路上の誘導灯は滑走路である左滑走路を示しており右滑走路の誘導灯は点灯していなかったとみられること、事故機は左滑走路に進入する姿勢を取っていなかったことなどをあげ、たとえ空港施設に欠陥があったとしても、これが事故機のパイロットに間違った滑走路を選ばせる原因になったとはいえないとするものであった。
それに対してシンガポール側は独自の調査を行い、右滑走路の誘導灯の点灯等滑走路の標識や照明等の不備、右滑走路への進入路が閉鎖されていなかったことなど、空港側の不備を指摘して、複合的要因によって起きたものであるとして、台湾側に不満を表明した。
[編集] 余談
事故機のボーイング747-400(機体記号9V-SPK)は、シンガポール航空特別塗装機『トロピカル・メガトップ』2機のうちの1機だった。なおもう1機(機体記号9V-SPL)の方は事故から1ヶ月ぐらいして、シンガポール航空の通常塗装に戻された。戻された理由としてシンガポール航空側は『被害者・遺族に対しての配慮』との事。