ジボラン
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ジボラン (Diboran、B2H6) は、ホウ素の水素化物。狭義のボラン(モノボラン、BH3)の二量体として存在する。
単体は無色で、特徴的な甘い臭気を持つ気体。分子量は27.67(空気を1とした場合の比重は0.965)。融点は-164.9度、沸点は-92.8度。CAS登録番号は19287-45-7。
空気中では自然発火し、水により加水分解し、ホウ酸 (H3BO3) と水素を生じる。また、ジボランはテトラヒドリドホウ酸ナトリウム (NaBH4) を硫酸で加水分解するか、BF3やBCl3と処理すると得られる。
[編集] ジボランの構造
ジボランの、水素-ホウ素間の4個の電子のうち2個(ホウ素-水素-ホウ素の結合)は、ホウ素の空軌道を使っている。水素-ホウ素結合で結びついている4個の水素原子と2個のホウ素原子は同一平面上に位置するが、ホウ素-水素-ホウ素の結合の中間に位置する2つの水素原子は平面の上下にある。このような結合を三中心二電子結合と呼ぶ。
- 詳細についてはボランの記事を参照。
[編集] ジボランの用途
ジボランは半導体材料ガスとして重要である。重合触媒や還元剤、ロケットの推進剤としても役立つ。ただし、引火性が高く、爆発性で、さらに毒性が高い。
ジボランを用いると、半導体表面にホウ素をドープ(添加)できる。シリコン膜上にホウ素をドープすると、電子の不足した領域、すなわちp型のシリコン膜を形成できる。なお、n型のシリコン膜を形成するには電子が過剰なヒ素をドープすればよいため、アルシンを用いる。単なるシリコン薄膜形成にはシラン(モノシラン)やジクロロシランが適する。
ジボランをドープするには化学気相成長 (CVD) 装置などの真空チャンバーを用いる。水素をキャリア(薄めるガス)としたジボランを通じ、放電を起こすことでドープできる。
また、他のボラン類の合成材料ともなる。
[編集] ジボランの危険性
ジボランの自然発火点は38度~52度と低く、爆発範囲は0.8~98%と広い。ホウ酸と爆発性の高い水素に分解しやすいことから、高圧ガス保安法では「その消費に際し災害の発生を防止するため特別の注意を要するものとして政令で定める種類」として、ジボランを含む、モノシラン、アルシンをあらかじめ定めている。
ジボランの許容濃度は0.1ppm (TLV-TWA: Threshold Limit Values-Time Weighted Average、時間加重平均許容濃度) である。吸入すると咳や息苦しさを覚え、脱力感を覚えるという。なお、アルシンの許容濃度は0.05ppmである。