タミル文字
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タミル文字 | ||
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類型: | アブギダ | |
言語: | タミル語 | |
時期: | ||
親の文字体系: | ブラフミー文字 タミル文字 |
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姉妹の文字体系: | グランタ文字 | |
ISO 15924 コード: | Taml |
タミル文字(タミルもじ)は、主にタミル語を表記するために使われる文字である。
現行のタミル文字は、紀元4~5世紀に北インドで用いられたブラフミー文字をその源とする。また同様に南インドでサンスクリットを表記するため歴史的に用いられてきたグランタ文字と並行的に発展進化してきたという経緯があり、両者には非常に多くの共通点がある。
しかしサンスクリットおよび現代ヒンディー語、マラーティー語、ネパール語等を表記するデーヴァナーガリー文字や、グルムキー文字、ベンガル文字、グジャラーティー文字、オリヤー文字といった、同じブラフミー文字を起源とする北インド系の各文字とは大きく異なった印象を受ける。また同じ南インドのテルグ文字、カンナダ文字、マラヤーラム文字などよりも北方の影響が少なく、最も南方的純粋さを残す文字と言えるであろう。また地域的に近いスリランカのシンハラ文字とも、かなり形態を異にしている。
現代タミル語には12の母音字、18の子音字に加えて6の外来語用の子音字がある。ただし子音字とその発音は、必ずしも一対一対応しているわけではない。音節文字であり、単独の子音字は短母音のaを伴った音を表現する。さらにそれぞれの子音字に11種の母音記号を付与することで、各母音を組み合わせた発音を表現するのが基本だが、組み合わせによって特殊な形になる場合もある。また母音を伴わない子音は子音字の上に付点を打って表現する。
文は左から右へと書かれ、各文字はデーヴァナーガリーのように頭線で繋がったりはせず個々独立する。また単語と単語の間には空白が取られるなどの点は、ラテン文字(ただし音節文字ではないが)と変わらない。
[編集] 文字表
現状、Unicode上に実装されているタミル文字は、発音を表記する上で必要最小限の文字記号しか用意されていない。そのため可読性が悪いうえに、実際・日常的に使われている表記とはかけ離れた表現になってしまっている。
そうした問題を考慮した上で、この項目では画像によって字形を示すこととする。
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a | ā | i | ī | u | ū | e | ē | ai | o | ō | au | ĥ(visarga) |
- a …… 短母音「ア」
- ā …… 長母音「アー」
- i …… 短母音「イ」
- ī …… 長母音「イー」
- u …… 短母音「ウ」
- ū …… 長母音「ウー」
- e …… 短母音「エ」または「イェ(ye)」
- ē …… 長母音「エー」または「イェー(yē)」
- ai …… 二重母音「アイ」。ヒンディー語のような曖昧母音にはならない。
- o …… 短母音「オ」
- ō …… 長母音「オー」
- au …… 二重母音「アウ」。ヒンディー語のような曖昧母音にはならない。
- ĥ …… サンスクリット由来の単語でヴィサルガ(visarga)を表現する。本来はドイツ語のchに近い、喉から出す強いhの発音。ただし普通のhのつもりで発音しても支障はない。直前の母音の口の形を保ちアハ(aĥ)、イヒ(iĥ)などと読む。
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k | ka | kā | ki | kī | ku | kū | ke | kē | kai | ko | kō | kau |
上の表は、仮にkaの文字に母音記号を組み合わせたもの。通常、子音字は"a"の母音を伴っているので、単独の子音のみを現わす時は字上に点(プッリ)を打つ。これらの母音記号は次の子音字と組み合わせて、ちょうど日本の仮名文字と同様に子音+母音の音節を現わすことができる。
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ka | ŋa | ||
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ca | ña | ||
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ţa | ņa | ||
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ta | na | ||
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pa | ma | ||
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ya | ra | la | va |
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la | ļa | ra | na |
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śa | ja | sa | ha |
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kşa | śri |
- ka …… 「カ」または「ガ」。ときに「ハ」とも発音される。
- ŋa …… 日本語でいう鼻濁音。共通語の発音で「マンガ(漫画)」と言う時の「ガ」
- ca …… 「サ」「チャ」または「ジャ」
- ña …… 「ニャ」
- ţa …… 反舌音(舌の先を硬口蓋まで反らせる)の「タ」または「ダ」
- ņa …… 反舌音の「ナ」
- ta …… 歯音(舌の先を歯につける)の「タ」または「ダ」
- na …… 歯音の「ナ」
- pa …… 「パ」または「バ」
- ma …… 「マ」
- ya …… 「ヤ」
- ra …… 舌の先で歯茎を弾く「ラ」。日本語のラ行音にいちばん近い子音。
- la …… 歯音の「ラ」
- va …… 「ワ」または「ヴァ」
- la …… 反舌音で、舌を浮かせて出す「ラ」
- ļa …… 反舌音で、舌の先を硬口蓋に付ける「ラ」
- ra …… raと同じだが舌を強く振動させる「ラ」
- na …… 舌の先を歯茎につけて出す「ナ」
以下はサンスクリットや英語その他からの外来語音を表記するために加えられた文字。
- śa …… 「シャ」
- ja …… 「ジャ」
- sa …… 「サ」
- ha …… 「ハ」
- kşa …… 「クシャ」
- śri …… 「シュリ」
基本的に語頭の子音は無声音、語中では有声音(日本語でいう濁音)で読まれる。ただし同系の鼻音(上の表でtaに対するnaなど並んでいるもの)が先行した場合は必ず有声、同じ子音が重なる場合は無声に変化する。
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各子音にu、ūが伴う時には、それぞれ(外来語音用の文字の場合を除いて)独特の形に変化するので注意を要する。注目すべきは次のような点。
- ţu、ţūのみならずţi、ţīも独特の字形になる。
- r、ri、rī、ru、rūに於いて、raの基本字形とは変化を見せる。
- ņai、rai、naiに使われるaiの形は、主に古い文書に登場する。現在は
ņaiのように書かれることが多い。
- 同様にņā、ņo、ņō、rā、ro、rō、nā、no、nōに使われるのも古い字形で、現在は、例えば
ņoのように書かれる。