トラクシオン・アバン
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トラクシオン・アバン (Traction avant) は、フランスの自動車製造者 シトロエン が1934年から1957年まで製造していた前輪駆動の中型乗用車の通称である。
世界でも極めて早い時期に、前輪による駆動とモノコック構造を採用した(しかし、この自動車が「世界初の前輪駆動車・モノコックボディ車である」という説は、完全な誤説である)。
軽量かつ低重心で操縦性に優れ、かつ室内も広いという理想的な乗用車であった。その性能は1930年代~1940年代においては極めて高い水準にあり、万人に好まれ、広く知られた製品となった。
しかしながら、その膨大な開発費に圧迫され、1934年にシトロエン社は最初の倒産の危機に瀕した。それは創業者のアンドレ・シトロエンが1935年に病死する遠因になったとさえ言われている。
Traction avant とは、元々フランス語で「前輪駆動」を意味する言葉であるが、このシトロエン最初の前輪駆動車が余りに有名になったために、これを指す固有名詞として通用するまでになった。これ以後シトロエン社は、生産モデルのほとんどが前輪駆動車という、1960年代以前においては極めて希有な自動車メーカーとなった。
1999年には、全世界の自動車雑誌編集者等によって選出された「カー・オブ・ザ・センチュリー」の自動車100選に入選し、うち特に傑出したとされる25台にも含まれた。
[編集] 沿革
元航空技術者のアンドレ・ルフェーヴル(Andre Lefebvre 1894~1964)を主任設計者としてわずか2年足らずの短期間で開発された。
最初のモデルである4気筒1300ccの「シトロエン7CV」は1934年4月に発表され、同年に4気筒1900cc形の「シトロエン11CV」が、また1938年には6気筒2900cc形の「シトロエン15CV-six」が発売された。これらは基本構造の多くが共通である。
第二次世界大戦で、フランスはドイツに降伏。ドイツ軍は接収したトラクシオン・アバンの性能の高さに注目した。軍用車や空軍パイロットのプライベートカーとして用いられ、東部戦線、北アフリカ戦線、西部戦線の戦場を駆け回った。
11CVと15CVの生産は第二次世界大戦後も続き、15CVは1955年、11CVは実に1957年まで生産された。23年間の製造期間中に、合計75万台が製造されている。