トンネルズ&トロールズ
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『トンネルズ&トロールズ』 (Tunnels & Trolls, T&T) は、米国製のテーブルトークRPGのひとつ。メインデザイナーはケン・セント・アンドレ(『ストームブリンガー』などのデザイナー)。ペーパーバック一冊に収まったルールブック(日本語版はちょうど文庫本一冊になった)と、6面ダイスのみを利用する簡素なシステムが特徴。
豊富な武器防具の設定や、ユーモアに富んだ独特のテイスト、銃器や奴隷のルール化などの一般のファンタジーRPGではとりあげられることの少ない奇抜なフィーチャーで異彩をはなった。ソロアドベンチャー(ゲームブック)が多数発刊されたことでも知られる。
1975年に米フライングバッファロー社 (Flying Buffalo Inc.) によって発表された。これはダンジョンズ&ドラゴンズ とほぼ同時期(T&Tが1年後)にあたる。日本では1987年に社会思想社から第5版の日本語版が発売され、同社から発刊されていた「ウォーロック」誌によって様々なサポートがなされた。また、サプリメントやソロアドベンチャーも同社から出版された。
2007年現在、フライングバッファロー社はT&Tの第5.5版(第5版にいくつかの選択ルールなどを追加したもの)を販売している。また、2005年夏に30周年記念版としてFiery Dragon Productions社より、“第7版”ルールブック、ソロアドベンチャー『バッファローキャッスル』やコンピュータゲーム『Tunnels & Trolls: Crusaders of Khazan』の復刻などを納めたCD-ROM、ハウスルール(“第7.5版ルール”)などを同梱した製品が発売された。
日本でも、2006年12月には新紀元社より第7版の日本語訳が発売された。
なお、第6版は存在しない。
以下に記述する解説は第7版に準拠している。
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[編集] システム
[編集] 戦闘
戦闘は、集団による乱戦を模し、個々のキャラクター同士で判定を行うのではなく、全体のヒット数(武器や魔法などの打撃点)を比べあい、少ない方がヒット数の差をダメージとしてを与えられるという大胆なシステムを採った。
また、サイコロで6が出た数だけ「悪意ダメージ」として、ヒットの差や防御点を無視して相手にダメージを与える。
戦闘システムの構造上、戦闘時にはサイコロを同時に多数振るため、他のテーブルトークRPGよりも多くのサイコロを必要とするのも特徴。同時に振るサイコロの数は、他のテーブルトークRPGの多くが1人あたり1~3個程度なのに対し、T&Tでは1人あたり3~5個程度が普通で、武器によっては10個ものサイコロを必要とする場合もある。
[編集] 行為判定
一般の行為判定は、セービングロール (SR)と呼ばれる、能力値(体力度、知性度、魅力度など)に6面ダイスふたつの合計(2D6) を足したものが、ある難易度数に達していたかどうかで合否を判断する。ただしダイスの目が4以上でなければ自動的に失敗となる。またゾロ目(同数字がふたつ)の場合には、更に2D6を振り足すことができる。
ゾロ目が繰り返し起これば、20、30といった極端な数値にもなりうるため、どんな困難な行為判定でも絶対に成功しないとは言い切れない。
判定に失敗した場合、自動的失敗でなければ達成値にレベルを加えることが出来る。これにより目標となる難易度数に達すれば、その行為はなんとか成功したことになる。
[編集] キャラクター
キャラクターの能力は体力度・耐久度・器用度・速度・知性度・魔力度・幸運度・魅力度の 8つの能力値で表される。キャラクター作成時には 6面ダイス三つの合計(3D6)の値に選んだ種族の係数をかけて能力値を決める。
作成時に6面ダイスの目が三つとも同じだった場合、さらに6面ダイス三つを振り足すことが出来る。
このため、サイコロの結果と種族によっては作成時から能力値が50以上になることもあり得る。
能力値を MR (モンスターレート) という数値ひとつで表現する方法もある。MR はキャラクターの攻撃の強さと耐久度を同時に表す数値で、戦闘時にゲームマスターの計算を楽にするために使われることが多い。MR で表されたキャラクターは普通の能力値をもたないため、セービングロールを行うことができない。
[編集] 種族
種族は、人間・エルフ・ドワーフ・ホビット・レプラコーン・フェアリーの 6種類が基本となる。ゲームマスターが許可すれば、トロールやウルクなど、さまざまな種族を選ぶこともできる。
[編集] 役割
市民・戦士・盗賊・魔術師・専門家・達人の 6つの役割が用意されている。
- 市民
一般市民であり、戦うことも魔法も、どちらもあまり得意ではない。
- 戦士
すべての武器・防具を使うことができ、戦闘に大きなボーナスがある。魔法は決して使うことが出来ない。
- 盗賊
戦士同様すべての武器・防具を使うことができるが、特にボーナスはない。盗賊は魔法を使うこともできるが、魔術師のように魔力度の消費を軽減することができず、本来のレベルより高いレベルで魔法を使うこともできない。盗賊らしい行動をとるのに特典がある。
- 魔術師
魔法を使うことができる。短剣や杖など限られた武器しか使えない。防具に制限はない。自身のレベルが上がったり魔法の杖を使ったりすることで、魔法使用時の魔力度消費を軽減することができる。
- 専門家
超自然に近い能力を持って生まれたキャラクターであり、いくつか種類がある。ある系統の魔法だけを非常に少ない魔力度消費で使え、さらに呪文を自動的に覚えていく専門家魔法使い、射撃がほぼ確実に成功する野伏せり、説得がほぼ確実に成功する指導者などがいる。いずれも、キャラクター作成時に、特定の能力値が条件を満たしていないと選ぶことが出来ない。
- 達人
以前の版では魔法戦士と呼ばれる役割で、キャラクター作成時の能力値 (種族係数をかける前の数値) がすべて12以上でないと選ぶことができない。能力値が条件を満たす確率は非常に低い。達人は盗賊と同じように、戦うことも魔法を使うこともでき、どちらも盗賊よりも熟達している。
[編集] 武器や防具
武器のルールはあまり多くない反面、種類は非常に多く、中には釿(ちょうな)や木樵用の斧、肉切り包丁、かなてこ、ウォーショベルなどの道具や、テルビーチェ(木の棒の両側にサメの歯を並べた武器)や、フィッシュ・スパイン・ソード(ノコギリエイのノコギリ状の吻に持ち手をつけた物)など、他のゲームではまず見られることがない武器が登場する。
さまざまな毒も存在し、使用を許されているというのも特色である。
[編集] 魔法
魔法を使うには知性度の判定に成功しなくてはならない。成功しても失敗しても魔力度を消費する。
特色として、魔力度はマジックポイントであると同時に、魔法抵抗力も表しているという点がある。魔力度が自分より高い相手に対してかけた魔法は、まったく効果を現さないが、代わりに相手の魔力度を消費させる。
このため、魔法を使いすぎると相手に魔法がかからなくなったり、相手が魔法を使うのを防ぐため、魔力度を下げる目的で魔法を使ったりという状況が起こる。
魔術師と達人は、キャラクター作成時点でレベル1の魔法をすべて使うことができる。レベル2以上の魔法を憶えるには、知性度・器用度が規定値以上であり、かつ魔術師組合に規定の金額を納めなければならない。魔法の価格はレベルごとに決まっている。魔法ひとつあたりいくら、なので、魔術師は大量の金貨が必要になる。
盗賊は作成時点でレベル1の魔法を一つだけ覚えているが、魔術師組合から魔法を教えてもらうことはできない。パーティー内の魔術師から教えてもらうことはできる。このとき盗賊は魔術師に、魔術師組合での値段と同じ金額を払うのが慣例になっている。この慣例を守らなかった場合、教えた魔術師は魔術師組合から狙われることになり、まず助からない。
一部の魔法(価格調査の魔法や警報の魔法など)は一般に対しても販売されている。
専門家魔法使いは魔法を自動的に修得していくため、魔術師組合に頼る必要はない。
[編集] タレント
いわゆる技能であり、伝承、剣術、賭博、音楽、文学、動物使役、軽業など、さまざまなタレントを作り出して良い、とされている。
特定の能力値を基準に決定され、行為判定の時、能力値の代わりに使うことが出来る。また、基準となった能力値が上昇するとタレントも上昇する。
[編集] 成長
行為判定や魔法、冒険の成功などにより、キャラクターは冒険点を手に入れることが出来る。
冒険点を消費することでキャラクターは能力値を伸ばすことが出来、役割によって定められた能力値の十分の一(端数切り捨て)がそのキャラクターのレベルとなる。
種族によっては、キャラクター作成時から経験レベルが2になることはごく普通に見られるし、サイコロの出目によっては作成時から5レベルを越えることもあり得る。
[編集] その他のT&T
第5版のT&Tの世界観やシステムを利用したコンピュータゲーム『Tunnels & Trolls: Crusaders of Khazan』が New World Computing 社から1990年に発売された。日本語版はスタークラフト社から『トンネルズ・アンド・トロールズ カザンの戦士たち』として発売。
日本語版の翻訳を行なったグループSNEは、その後第5版を独自に拡張した『ハイパートンネルズ&トロールズ』をデザインし、日本で出版している。
[編集] 日本での製品一覧
日本で出版されたT&T製品を以下に示す。社会思想社より現代教養文庫として発行されたものは、同社の倒産(2002年)により現在では全て絶版である。
[編集] ルールブック・追加ルール
- 『トンネルズ&トロールズ ファンタジーRPGルールブック』 ケン・セント・アンドレ著 安田均監修 清松みゆき訳
- 『トンネルズ&トロールズ 第7版』 (新紀元社 ケン・セント・アンドレ著 安田均監修 柘植めぐみ/グループSNE訳 2006年12月8日) ISBN 4-7753-0518-2
- 『モンスター! モンスター! T&T PRGシナリオ・追加ルール』 ケン・セント・アンドレ、ドロシー・V. マーチ著 清松みゆき訳著
[編集] シナリオ
- 『ベア・ダンジョン T&T PRGシナリオ』 J. ピータース他著 清松みゆき訳
- 『魔術師の島 T&T PRGシナリオ』 ラリー・ディティリオ著 高山浩訳
[編集] ソロ・アドベンチャー
- 『傭兵剣士 T&T ソロ・アドベンチャー』 J. ウィルソン著 安田均、清松みゆき訳
- 2006年11月、新紀元社より再刊。新紀元社版はこれをシナリオにしたリプレイ(北沢慶著)とのダブルブックになっている。
- 『カザンの闘技場 T&T ソロ・アドベンチャー』 ケン・セント・アンドレ他著 清松みゆき、高山浩訳
- 『恐怖の街 T&T ソロ・アドベンチャー』 マイケル・A. スタックポール他著 安田均、清松みゆき訳
- 『デストラップ T&T ソロ・アドベンチャー』 ケン・セント・アンドレ著 清松みゆき、高山浩訳
- 『鏡の国のダンジョン T&T ソロ・アドベンチャー』 J. マーシニャク、S. エストヴァンキー、S. マーシニャク著 安田均、清松みゆき訳
- 『オーバーキル城 T&T ソロ・アドベンチャー』 マイケル・A. スタックポール著 安田均、高山浩訳
- 『ゲームマンの挑戦 T&T ソロ・アドベンチャー』 R. クラム著 清松みゆき訳
- 『嘆きの壁を越えて T&T ソロ・アドベンチャー』 G. A. ラーマン、K. M. オウル著 清松みゆき訳
[編集] その他関連書籍
- 『T&Tがよくわかる本』 清松みゆき著