トンネル微気圧波
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トンネル微気圧波とは、高速で走行中の新幹線車両などの先頭部が長いトンネルに突入し、発生する空気の圧縮波が音速で前方に伝わる際、トンネル内の拡散できない空気の抵抗によって圧縮強調されて衝撃波のようになり、反対側のトンネル出口で開放されたときに大きな振動や発破音を発生させる現象である。トンネルドンなどと呼ばれることもある。
「バーン」・「ドーン」という砲撃のような音を発生したり、酷いときには家屋のガラス窓を振動させたり破損したりする。かつての東海道新幹線では最高速度が210km/hと低かった上、路盤の砕石の隙間が圧縮波を吸収する働きをしていたためあまり問題にならなかったが、山陽新幹線の建設以降、列車の高速化と路盤のスラブ軌道化に従って大きな騒音・振動問題の一つになった。しかし、最近では現象の解析やシミュレーション技術が進み、以下のような対策が効を奏しつつある。
- 車両側:先頭車の進行方向に対する断面積の変化率を、一定、かつ最小にする。
- 「一定」にするには運転席などの突起に対して断面の違う部分を凹ませることが必要である。JR東海とJR西日本による300系の開発時からこの原理は明らかになっており、300系や500系の先頭部は突起を押さえ、美しい流線型を保ちつつ断面積変化率が一定になるよう設計された。しかし営業運転を始めてみると、先頭と最後尾で路盤や側壁と車体の隙間に入る空気流の乱れや対向車の影響、最後尾の後方にできる空気の渦などで、横揺れが生じ乗客に不評であった。このため、その後の700系やJR東日本のE4系などでは、地上に近い部分を先に膨れさせ車体下部の空気流を安定させることでこうした横揺れを改善すると共に、これにより悪化する前面展望のために運転室や前照灯をある程度突起させた。エアロストリームとも呼ばれる一見奇妙な先頭形状はこうした経緯によるものである。
- 「最小」にするには先頭形状を極力長くすればよいと考えられてきた。その後の研究により、先頭形状の部位によって微気圧波への影響が異なることが判明したため、N700系では「エアロ・ダブルウィング形」の先頭形状が採用された。
- 地上側:トンネル入口に、これを手前に延長した形の筒(緩衝工という)を設け、先頭車がトンネルに突入する際に巻き込む空気を最小にする。また、出口をラッパ型にすることも多少ではあるが低減効果がある。