ニューハーフ
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ニューハーフ(new half)(別名Mr.レディー)は出生時には男性であったものの、現在は女性的な外見を持っている人で、特に芸能界・酒場・ショーパブ・風俗店などで活動する人の俗称である。
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[編集] 定義
女性的な服装さえしていれば一応ニューハーフではあるが、一般的には「女性にしか見えない」ようなレベルに到達していることが求められ、一見して男とバレる人は差別的に「おかま」と呼ばれてしまう場合が多い。ただそもそもショーパブやニューハーフ専門の風俗店には性別が曖昧な人を求めてくる人たちもいるので、男っぽい顔立ちでもそれなりの「需要」がある場合は多い。
またショーパブでは意図的にそういう「色物」を演じている人たちもいる。「色物」派などの中には性自認は完全な男性で、仕事として割り切ってニューハーフ或いはおかまを演じている人たちもいる。なお実際には「おかま」というのは差別語なので使用しない方が望ましい。
よく性同一性障害と混同されるが、両者は異なるレベルの概念である。性同一性障害は精神医学の用語であるのに対し、ニューハーフは職業上の類型的概念である。奇妙なことだが、ニューハーフの多くは、性自認はあくまで男性であるのに対し、性同一性障害の人間の性自認は女性であり、心の中の根本的性別が違う。ただし、ニューハーフの世界にも、性同一性障害の者もいくらか存在する。社会では、唯一、女性の格好をして生活費を稼げる職業であるからだが、しかし女性の格好をする「男性」であることを売り物にするニューハーフの世界では、本質的に精神が女性である性同一性障害者は、精神的に苦痛を感じており、生き残りは難しいとされる。実際こうした人々は女性として働ける仕事を見つけると、ニューハーフをやめることが多い。
[編集] 現在のニューハーフ
声で苦労している人は多く、いわゆる「おかま声」を使わざるをえない人も多かったが、最近は「メラニー法」などの発声技法が知られるようになり、しっかり訓練して女性の声にしか聞こえないような声を出せる人も増えてきた。
また昔は過度に古風な女性の仕草をコピーする人が多く「女より女らしい」と言われた時代もあったが、近年では、むしろ今風の女性達をまねて、普通の女性と変わらない自然な雰囲気の人が増えて来つつある。
性転換手術を受けている人(post-op)もいるが、大半は手術前の人(pre-op)である。手術しているかしていないかと、女性に見える(パスする)かどうかはほとんど無関係なので、身体には全く手を入れていないのに、美人で可愛いと評価されるニューハーフなどもいる。ただ多くの人は性転換手術まではしていなくても、豊胸手術や去勢手術、美容整形手術をしたり、また女性ホルモンの摂取をしていて「後戻りできない身体」になっている場合が多い。現在どのような状態であるかは「胸あり・竿あり・玉なし」などの表現で表される場合もある。
また性転換手術を終えた人の多くはニューハーフ専門の店を辞めて、普通のホステスになったり、あるいは水商売でない普通の職業に転じたりする。これは本人達が女性として普通に暮らしたいと願うことと、また、こういう店に好んで来る客の多くは、性別が曖昧なボディを持っている人が目当てなので、手術済みで見た目が完全な女性になってしまった人には興味を示さないことの、両方の要因があるものと思われる。
[編集] ニューハーフの歴史
- 1981年ごろに松原留美子を指すためのことばとして広く知られるようになった。松原留美子は「六本木美人」という宣伝キャンペーンのモデルを務め、美貌で大いに話題になった後に、実は男性であると公表し大反響を呼んだ人物。松原は「もし“六本木美女”だったらモデルに応募できないが、“美人”なら男である自分でも大丈夫だと考えた」と語っている。なお松原は少なくとも当時は一切身体には手を入れていなかったと言われ、ニューハーフ=身体は完全に男性、という認識があったと見る向きもある。なお、ニューハーフと名付けたのはサザンオールスターズの桑田佳祐であるという俗説があるが、桑田本人はラジオでこれを否定している。
アメリカでは同様の傾向の人たちを表すことばとしてシーメール(she-male)が使用されてきた。最近ではトラニー(trannie)という言葉も使われる。また、日本では「Mr.レディー」ということばも出来ているが「ニューハーフ」よりは少し緩い許容基準で使用されているように思われる(なお「Mr.レディー」の語源は映画「Mr.レディMr.マダム」(1978年、フランスとイタリア合作)に由来する)。
過去には美輪明宏(当時は丸山明宏)などを指す言葉として「シスターボーイ」、またパリのキャバレー「カルーゼル」の性転換ダンサーを指すことばとして「ブルーボーイ」という言葉が生まれたこともあるが、どちらも死語になっている。「シスターボーイ」は女性的な雰囲気の美形男性を指すもので、肉体的には手を入れていない人が主であった。ブルーボーイの方はその後性転換したダンサーだけでなく、性転換して風俗関係で働く人たちなどにも適用範囲が広がっていったが「ブルーボーイ事件」あたりを境目にして使用されなくなっていった。
また「ゲイボーイ」ということばは1960年代頃から女装あるいは性転換して酒場や風俗店などで働く人のことを指して使用されるようになっていた。この言葉はアメリカの用法とは全く異なるので注意。松本清張の「時の習俗」などはゲイボーイがまだ珍しい時代を背景に成立した物語で、1980年代にドラマ化された時はその付近の演出に苦労の跡が見られた。
[編集] ニューハーフの性的指向
一般にニューハーフと男性同性愛者を同一視する傾向があるが、両者は本来全く異なる物である。男性同性愛者は自分が男性であると自覚しながら男性を愛しており、女装をする者はあまり居ない。またニューハーフでも女性を愛する異性愛者や同性愛者(性自認が女性の場合)も多い。
過去には自称ニューハーフの男が「女性同士だから」と油断させて婦女暴行を繰り返していた事例もある。