バイノーラル録音
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バイノーラル録音( -ろくおん)とは、バイノーラル再生に適合するような録音方式。もっとも基本的なケースでは、HATS(ヘッド・アンド・トルソー・シミュレータ)またはダミーヘッドと呼ばれる、人間の上半身(少なくとも頭部のみならず肩口までを含む)人形の耳道入口部に小型マイクロフォンを備えた装置で集音し録音する。HATSが聴取者の特性とある程度合致していれば、これを左右1組のイヤーフォンで再生(バイノーラル再生)することで、現場に居合わせたかのような音の臨場感を得ることが出来る。
バイノーラル録音-再生により臨場感が得られるのは、人体各部で音波が回折や反射をすることにより干渉が生じ、単に左右の耳と音源間の距離からくる音量差と時間差のみに留まらず、周波数特性にも特徴的な影響を与えるからである。この特徴は人体各部の寸法形状と、音源の位置との関係によって定まり、これを数式化したものがHRTF(頭部伝達関数)である。HRTFは周囲の音響特性や人体各部寸法形状の個人差に依存するが、前者については拡散音場や自由音場で標準化するのが通例であり、後者についてはHATSの研究者やメーカがその周波数特性の特徴を損なわないように、多くの聴取者を可能な限り代表するように独自の工夫を重ねている。
以上のようにバイノーラル録音は理に適った方式に見えるが、実際には個人差や小型マイクロフォンの性能により思った程の効果が得られず、脚光を浴びることは少なかった。しかし、1970年代にアルゼンチンの脳生理学者ヒューゴ・ズッカレリが発見したホロフォニックスのブームに伴い、バイノーラル録音の可能性が再評価され、その後の研究が加速して現在に至る。(ホロフォニックス自体はバイノーラル以外の技術として自発耳音響放射と入力音声との干渉を利用しており、独自の効果を持つが、その詳細な原理は発見者により秘匿されており、ホロフォニックス以外にはサイバーフォニック、スフェリカルサウンドで同種の技術の効果が確認できるのみである。)
[編集] 簡易的なバイノーラル録音の方法
イヤフォン型の小型マイクを両耳に入れて録音することにより、高価なHATSを用いなくてもバイノーラル録音を行うことが可能である。特に聴取者自身がマイクを装着した場合HATSとの個人差が無くなる利点もあるが、マイクの存在そのものが音場に影響を与える他、装着者の心拍や呼吸音まで拾ってしまうなど欠点も多い。