バストロンボーン
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バス・トロンボーン(bass trombone)は、トロンボーンの一種。
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[編集] 構造
現代のバス・トロンボーンの基本的な構造はテナー・トロンボーンと同じで、標準的な調性は変ロ調(B♭)である。比較的太い管と大きなベルを持つ。マウスピースも比較的大きなものが使われることが多いが、太管のテナー・トロンボーン、テナーバス・トロンボーンのものを使用することも可能である。
現代のバス・トロンボーンは、たいてい1個または2個のバルブを持ち、そのため遠いポジションまで腕を伸ばさなくても低い音が得られるなどの特徴がある。なお、2個のバルブを主管に沿って直列に並べる形態のものをインライン、2個めのバルブが主管にではなく1個めのバルブから伸びた迂回管に付いたものをオフセットと通称する。追加の迂回管の調性はFとG、またはG♭、D、D♭などであることが多い。2つの管を両方迂回させることでさらに異なる調が得られる。バルブが1個の場合、迂回管の調性はFを基本とし、迂回管を引き抜いて伸ばすことでEに変更できるものが多い。
[編集] 奏法
基本的にテナー・トロンボーンと同じである。スライド式の楽器に追加のバルブが2個ある場合、それらのレバーの1つはテナーバス・トロンボーンと同じ親指の位置に、もう1つはその隣りか、または中指の位置にあることが多いが、楽器によって異なる。
[編集] 楽譜
低音部記号が一般的である。また、オーケストラや吹奏楽で Bass Trombone ではなく 3rd Trombone、もしくは 4th Trombone と書かれたパート譜を演奏する場合があるが、これにはいくつかの理由が考えられる。作曲家が求める音色や様式などの理由から元々テナー・トロンボーンが想定されていた場合や、バス・トロンボーンを備えていない楽団でも演奏できるよう音域などに配慮して楽譜が書かれている場合、単に慣習による場合などである。
[編集] 種類
変ロ調(B♭管)でテナー・トロンボーンよりやや大きめのベルと太い管をもつ楽器として、ある程度の均一化がされている。ドイツ式の楽器や古い楽器には特徴的な点がみられる。19世紀頃までは、バルブを持たず非常に小さなベルを持つバス・トロンボーン(F管)が用いられていた。
現在「バス・トロンボーン」と呼ばれている楽器の類縁の楽器としては、ヘ調(F管)のバス・トロンボーン、1オクターブ低いコントラバス・トロンボーンがある。本来「バス・トロンボーン」とはF管の楽器のことであったが、現代では変ロ調のバス・トロンボーンが主流になったため、F管にB♭迂回管を備えたものを指してコントラバス・トロンボーンと呼ぶこともある。この場合、後述のB♭管コントラバス・トロンボーンと紛らわしく、混乱の恐れがある。
- F管バス・トロンボーン
- 長いスライドを操作するためのハンドルを備える。操作性に劣ることや、歌劇場のオーケストラ・ピットで長いスライドが邪魔になったこと等が理由で衰退したと言われる。また音色が良くなかったからだという説もあるが、これに対しては反論もある。現代ではめったに使われないが、ルネサンス・バロックから近代まで、この楽器を想定して書かれたものも多く、例えばバルトークの『管弦楽のための協奏曲』には、この楽器のスライドを活かした典型的なポルタメントが出てくる。バルブ・トロンボーンが盛んに使われた19世紀にはバルブ式のF管バス・トロンボーン(画像参照)も存在した(※前述のバルトーク作品はこの楽器を想定していたという説もある)。また、イギリスではト調のG管バス・トロンボーンが20世紀に入っても使われていた。例えばグスターヴ・ホルストの「組曲『惑星』」はこの楽器を想定して書かれている。こういった楽器が使用された時代の作品を、現代のスライド式B♭管バス・トロンボーンで演奏する際には、時として楽器の機能が異なることによる困難がつきまとう。
- コントラバス・トロンボーン
- ここではテナー・トロンボーンより1オクターブ低い変ロ調の楽器のこと。現代ではあまり使われない。スライド式のものは2重のスライドを持ち、普通の操作でスライドをテナー・トロンボーンの2倍伸ばしたのと同じ効果が得られる。バルブ機構を持つものもあり、普通は前方に伸びている部分が下方に折れ曲がった形をしていることが多い。これはチンバッソという類縁楽器に非常によく似た形をしている。
[編集] 著名なバス・トロンボーン奏者
- ジョージ・ロバーツ(George Roberts)
- 主にジャズ、スタジオにおいて、バス・トロンボーンの神様と呼ばれた。
- ダグラス・ヨー(Douglas Yeo)
- アルミン・バッハマン
- スローカー・トロンボーン四重奏団、ソロなどで活動。
- ブレア・ボリンジャー(Blair Bollinger)
- フィラデルフィア管弦楽団のバス・トロンボーン奏者。
- チャールズ・ヴァーノン(Charles Vernon)
- シカゴ交響楽団のバス・トロンボーン奏者。テナー・トロンボーンやアルト・トロンボーンも演奏する。
- ドナルド・ハーウッド(Donald Harwood)
- ニューヨーク・フィルハーモニックのバス・トロンボーン奏者。
- エドワード・クラインハマー(Edward Kleinhammer)
- シカゴ交響楽団の前バス・トロンボーン奏者。
- ヨン・リンゲフェー(John Lingesjoe)
- スウェーデン放送交響楽団のバス・トロンボーン奏者。
- 篠崎卓美
- 読売日本交響楽団のバス・トロンボーン奏者。東京ミュージック&メディアアーツ尚美非常勤講師。
- 秋山鴻市
- NHK交響楽団のバス・トロンボーン奏者。東京トロンボーン四重奏団のメンバー。洗足学園大学客員教授、山形大学、駒沢大学各講師。
- 井上順平
- 東京都交響楽団バストロンボーン奏者、日本トロンボーン協会会長
- 門脇賀智志
- 新日本フィルハーモニー交響楽団バストロンボーン奏者・トロンボーンクァルテットジパング
[編集] 外部リンク
- Douglas Yeo Trombone Web Site(英語 / 一部分のみ日本語)
- Discography に公式参考音源があり、この楽器の音を聴くことができる。