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バルトーク・ベーラ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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バルトーク・ベーラ・ヴィクトル・ヤーノシュBartók Béla Viktor János, 1881年3月25日 - 1945年9月26日)はハンガリートランシルヴァニア(正確にはバナート)のナジセントミクローシュ(現在のルーマニア、ティミシュ県のスンニコラウ・マレ)に生れ、ニューヨークで没したクラシック音楽作曲家ピアノ演奏家、民俗音楽研究家。東ヨーロッパの民俗音楽の収集家でもあり、アフリカアルジェリアまで足を伸ばすなど、学問分野としての民俗音楽学の祖の1人である。また彼はフランツ・リストの弟子トマーン・イシュトバーンから教えを受けたドイツオーストリア音楽の伝統を受け継ぐピアニストであり、演奏会活動やドメニコ・スカルラッティJ・S・バッハらの作品の校訂なども行っている。

なお、ハンガリーでは名前は姓、名の順をとるが、ヨーロッパ風にベーラ・バルトークと表記する場合もある。

画像:Bartok.jpg

目次

[編集] 作風

ドイツ・オーストリア音楽の強い影響から出発したバルトークだったが、ハンガリー民族やハンガリー王国内の少数民族の民謡をはじめとした民俗音楽を科学的に分析し、その語法を自分のものにしていった側面と、同時期の音楽の影響を受けた側面の二律背反的なバランスの中で作品を生み出す、という独自の道を歩んだ。ただし、彼の楽曲はソナタ形式の活用など、いわゆる西洋の音楽技法の発展系の上で成立しており、音楽史的には新古典主義の大きな流れの1人と位置付けても間違いではないだろう。

彼の作品の変遷は大まかに以下のように区分することができる。

  • ~1905年
    ブラームスリヒャルト・シュトラウスの影響が色濃い、後期ロマン主義的な作風の時期。ハンガリー民族としての意識を曲で表現しようとする作品もあったが、それはまだ先人達同様いわゆるジプシー音楽的な要素を取り入れる形であった。
  • 1906年~1923年頃
    友人コダーイと共に、当時のハンガリー王国の各地から民謡収集を行い、一方では民謡を編曲したピアノ曲などを作り、他方では民謡の語法を科学的に分析した形で自身の作品に活かし出した時期。また自身の作品には、民謡以外にもドビュッシーストラヴィンスキー新ウィーン楽派など当時の最先端の音楽の影響も強く反映されている。
    この時期の末期には民謡の語法をほぼ消化し、独自のスタイルをほぼ確立する。
  • 1926年~1930年頃
    無調的(ちなみにバルトークの作品には厳密な意味での「無調」は存在しない)な和声と荒々しいまでの強烈な推進力を持ちながら、緻密な構造を持つ数々の作品を生み出した時期。バロック音楽や古典派の影響も見られるなど、新古典主義の流れに乗っている面も見られる。
  • 1930年~1940年
    その前の時代と同様な緻密な楽曲構造を持ちながら、もう少し和声的にも明快で、より新古典的なスタイルを打ち出した時期。数々の傑作を発表している。
  • 1943年~1945年
    アメリカ時代。傾向としてはその前の時代の延長線上にある。より明快、明朗に大衆に受ける方向へ変化したとも言われるが、曲によってはそれ以前の厳しい顔をのぞかせる。

音楽学者レンドヴァイ・エルネーは、バルトークは作品の構成(楽式)から和音の構成に至るまで黄金分割を基礎に置き、そのためにフィボナッチ数列を活用したとの論文を発表している。これについては当てはまらない作品もかなりあるため異論もある。なお、彼は「作曲は教えるものではない」という考え方の持ち主で、その理論的な面について自身では明らかにしていない点が多い。

[編集] 年譜

  • 1888年(7歳) 農学校の校長だった父が病気で死亡。母パウラはピアノ教師だったため早くから彼女の教えでピアノを学ぶ。ピアニストとしての初舞台は10歳の時であった。
  • 1894年(13歳) 母と共にポジョニへ引っ越す。
  • 1898年(17歳) ウィーン音楽院に入学を許可されたが、友人のエルンスト・フォン・ドホナーニに従いブダペスト王立音楽院を選んだ。
  • 1899年(18歳) ブダペスト王立音楽院に入学。ワグネリアンの学長からワーグナーの洗礼を受けるが、ブラームスの影響を脱して先に進もうとしていた彼に、ワーグナーは答えをくれなかったと回想している。
  • 1902年(21歳) リヒャルト・シュトラウスの《ツァラトゥストラはこう語った》に強烈な衝撃を受け、交響詩《コシュート》を作曲。1848年のハンガリー独立運動の英雄コシュートへの賛歌であった為、当時ハプスブルク帝政の支配下にあったブダペストの世論を騒がせた。
  • 1904年(23歳) 初めてマジャール民謡に触れる。
  • 1905年(24歳) パリのルビンシュタイン音楽コンクールにピアノ部門と作曲部門で出場。作曲部門は入賞すらせず、ピアノ部門では優勝者はバックハウスでバルトークは惜しくも2位であった。自分の人生をピアニストとして描いていたバルトークにとって、優勝を果たせなかった事はかなり落胆したようである。しかし、ハンガリーでは知られていなかったドビュッシーの音楽を知るという収穫を得た。
  • 1906年(25歳) コダーイに出会い、ハンガリー各地の農民音楽を採集。1913年にアルジェリアへ赴いた他は、専らハンガリー国内で民族音楽を採集していた。
  • 1907年(26歳) ブダペスト音楽院ピアノ科教授となる。ピアニストとしてヨーロッパを旅するよりもハンガリーに留まったことにより、更なる民謡の採集を行っている。
この時点でも、彼の大規模な管弦楽作品はまだブラームスやリヒャルト・シュトラウス、さらにはドビュッシーの影響を感じさせるものだった。しかし同時期の民謡編曲やピアノ小品、親しかった女性ヴァイオリン奏者シュテフィ・ゲイエルに贈ったヴァイオリン協奏曲第1番(ゲイエルの死後発表)の2楽章などでははっきりと民謡への関心を示してきている。おそらくこうした関心をはっきりと示しているものは1908年弦楽四重奏曲第1番であり、その中には民謡風要素が含まれている。
  • 1909年(28歳) ツィーグレル・マールタ(Ziegler Márta)と結婚。
  • 1910年(29歳) 長男ベーラ(バルトーク・ジュニア)が生れる。フレデリック・ディーリアスと知り合う。
  • 1911年(30歳) バルトークは、ただ1つのオペラとなった《青ひげ公の城》を書いた。これはハンガリー芸術委員会賞のために提出したが、演奏不可能という事で拒絶された。このオペラは1918年まで演奏されなかった。当時バルトークは政府により政治的見解から台本の作家バラージュ・ベーラの名を伏せるように圧力をかけられていたが、それを拒否し、同時に公的な立場から身を引いた。その後の人生でバルトークは民謡への愛着は別として、ハンガリー政府や組織とは深く関わらないようにしている。芸術委員会賞に失望した後2~3年、バルトークは作曲をせず、民謡の収集と整理に集中していた。
  • 1914年 第一次世界大戦の勃発により、こうした民謡の収集活動が難しくなった為(採集活動自体は1918年まで行っている)作曲活動に戻り、1914年から16年にかけてバレエ音楽《かかし王子》、1915年から17年には《弦楽四重奏曲第2番》を書いている。
  • 1917年(36歳) ユニテリアン教会の信徒となる。
  • 1918年 (37歳) 《かかし王子》の初演が成功し、ある程度国際的な名声を得た。引き続き《青ひげ公の城》が初演され、これもまた好評を博す。レンジェル・メニヘールトの台本によるパントマイム《中国の不思議な役人》を作曲開始。
  • 1921年-1922年 ヴァイオリンのための2つのソナタを書き、イェリー・ダラーニのヴァイオリンと自らのピアノで初演。更に彼女に同行してイギリスやフランスで演奏旅行を行う(この際、ラヴェルやストラヴィンスキーと会っている)。これはそれまでに作曲した中で和声上、構成上最も複雑な作品である。また民謡的要素を自分の作品の中で生かすということに自信を深めたのか、それまで編曲作品と自作を区別するために付けていた作品番号を、ソナタ第1番からは付けなくなる。
  • 1923年(42歳) ツィーグレル・マールタと離婚し、ピアノの生徒パーストリ・ディッタ(Pásztory Ditta)と結婚。ブダペスト市政50年祭に政府から委嘱され《舞踏組曲》を提出。この後、1926年にピアノ・ソナタやピアノ協奏曲第1番などを発表するまで3年ほど作品を発表せず、どちらかといえば演奏会活動に力を入れる。
  • 1924年(43歳) 次男ペーテル(バルトーク・ペーテル、Bartók Péter)誕生。(ペーテル(ピーター)は後年アメリカで録音技師として活躍し,父親の作品を中心に優秀な録音を世に出した。また楽譜の校訂にも大きな功績がある)
  • 1927年から1928年(46歳-47歳) 彼の弦楽四重奏曲としては最も素晴らしい作品である第3番第4番を作曲した。その後の彼の作品は次第に単純になり始めた。またピアノ協奏曲第1番をフルトヴェングラーの指揮と自らのピアノで初演。
  • 1929年-1930年(48歳-49歳) アメリカソヴィエトへの演奏旅行を行い、ヨゼフ・シゲティパブロ・カザルスらと共演する。帰国後ピアノ協奏曲第2番を作曲。
  • 1934年(53歳) いくぶん伝統に帰った《弦楽四重奏曲第5番》を作曲。
  • 1936年(55歳)バーゼル室内管弦楽団を率いていたパウル・ザッハーの委嘱で《弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽》を作曲。翌年ザッハーの手で初演。
  • 1939年(58歳) 《弦楽四重奏曲第6番》を作曲。これはヨーロッパで書いた最後の作品である。母の死。ヨーロッパを去ることを考え始める。
この頃、反ユダヤ主義者との対話の中で、自らの祖父がユダヤ人だったことを示唆。ただしバルトークはマジャル人クロアチア人の混血であり、ユダヤ人の祖父はいなかった。
  • 1940年10月(59歳) 第二次世界大戦の勃発の後、バルトークは政治的に硬化していくハンガリーの情勢を嫌い、不本意であったがアメリカ合衆国へ移住した(この半年前、彼は演奏旅行でアメリカ合衆国を訪れ、友人達にアメリカへ移住する打診をしている)。
少々自己中心的で人と打ち解けるタイプではなかったバルトークにとって、アメリカは決して居心地は良くなかったし、ピアニストとして生計を立てるつもりだったとはいえ、作曲する気にもならなかったようでコロンビア大学で民俗音楽の研究に没頭する。
遺体はニューヨーク州ハーツデイルのファーンクリフ墓地に埋葬されたが、40年後の共産主義体制の崩壊後、指揮者ゲオルグ・ショルティらの尽力で亡骸が1988年7月7日ハンガリーに移送され、国葬によりブダペストのファルカシュレーティ墓地に埋葬された(ファーンクリフには記念碑が残されている)。

[編集] 作品

バルトークは当初オリジナルの作品には作品番号を付け、民謡からの編曲作品には付けないというルール付けを行っていたが、前述のようにヴァイオリン・ソナタ第1番の出版の際からこれを止める。そのため彼の作品は後年学者達が分類する番号が付けられることも多い。ここではハンガリーの作曲家アンドラーシュ・セーレーシ(Andras Szollosy)が「ベラ・バルトークの音楽作品と音楽学論文の目録」で付番した「Sz.」を付記する。

[編集] 交響曲

  • 交響曲変ホ長調 1902年-1903年 Sz.16 ※未完で楽譜自体紛失。スケルツォ楽章のみ現存(Sz.17)

[編集] 管弦楽曲

  • 交響詩『コシュート』 (1903年) Sz.21
  • 管弦楽のための組曲第1番 (1905年1920年改訂) Op.3 Sz.31
  • 小管弦楽のための組曲第2番 (1905年-1907年1943年改訂) Op.4 Sz.34
  • 管弦楽のための2つの肖像 (1907年-1911年) Op.5 Sz.37
    第1曲はヴァイオリン協奏曲第1番の第1楽章を流用。第2曲はピアノ曲『14のバガテル』最終曲の編曲
  • 管弦楽のための2つの映像 (1910年) Op.10 Sz.46
  • ルーマニア舞曲 (1910年) Sz.47a
    『2つのルーマニア舞曲』の第1曲を編曲
  • 4つの小品 (作曲1912年、管弦楽化1921年) Op.12 Sz.51
  • ルーマニア民俗舞曲 (1917年) Sz.68
    ピアノ版(Sz.56)の編曲
  • 舞踏組曲 (1923年) Sz.77
  • トランシルヴァニア舞曲 (1931年) Sz.96
    ピアノ曲『ソナチネ』の編曲
  • ハンガリーの風景 (1931年) Sz.97
    ピアノ曲集の『10のやさしい小品』『3つのブルレスク』『4つの挽歌』『子供のために』より5曲を抜粋して編曲
  • 9つのハンガリーの農民歌 ( 1933年) Sz.100
    ピアノ曲『15のハンガリー農民歌』の後半9曲を編曲
  • 弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽 (1936年) Sz.106
  • 弦楽のためのディヴェルティメント (1939年) Sz.113
  • 管弦楽のための協奏曲 (1943年) Sz.116

[編集] 協奏曲

協奏曲に類するものも含む。

  • ピアノと管弦楽のためのラプソディー (1904年) Op.1 Sz.27
    『ピアノのためのラプソディー』の編曲
  • ピアノと管弦楽のためのスケルツォ(ブルレスク)(1904年) Op.2 Sz.28
  • ヴァイオリン協奏曲第1番 (1907年-1908年) Sz.36
  • ピアノ協奏曲第1番 (1926年) Sz.83
  • ヴァイオリンとオーケストラのためのラプソディー 第1番 (1928年) Sz.87
    『ヴァイオリンとピアノのためのラプソディー 第1番』の編曲
  • ヴァイオリンとオーケストラのためのラプソディー 第2番 (1928年、1945年改訂) Sz.90
    『ヴァイオリンとピアノのためのラプソディー 第2番』の編曲
  • ピアノ協奏曲第2番 (1930年-1931年) Sz.95
  • ヴァイオリン協奏曲第2番 (1937年-1938年) Sz.112
  • 2台のピアノと打楽器と管弦楽のための協奏曲1940年 Sz.115
    『2台のピアノと打楽器のためのソナタ』の編曲
  • ピアノ協奏曲第3番 (1945年) Sz.119
    残り17小節の管弦楽についてのみティボール・シェルイが補筆
  • ヴィオラ協奏曲 (1945年) Sz.120
    未完。ティボール・シェルイによって完成

[編集] 舞台作品

  • オペラ『青ひげ公の城』 (1911年) Op.11 Sz.48
  • バレエ『かかし王子』 (1914年-1916年、1931年改訂) Op.13 Sz.60
    改訂時に一部を抜粋した演奏会版を作成している
  • パントマイム『中国の不思議な役人』(1918年-1924年) Op.19 Sz.73
    一部をカットした演奏会版がある。

[編集] 室内楽曲

[編集] ピアノ曲

ピアニストで教育者でもあったバルトークは、ここに挙げた以外にも多数の作品(教則本含む)がある

  • ピアノのためのラプソディー (1904年) Op.1 Sz.26
  • 14のバガテル (1908年) Op.6 Sz.38
  • 10のやさしい小品 (1908年) Sz.39
  • 2つのエレジー (1908年) Sz.41
  • 子供のために (1908年-1909年) Sz.42
    民謡の影響が濃厚な子供の教育用教本。死の1945年まで何度も改訂している。
  • 2つのルーマニア舞曲 (1910年) Op.8a Sz.43
  • 4つの挽歌 (1910年) Op.9a Sz.45
  • 3つのブルレスク (1911年) Op.8c Sz.47
  • アレグロ・バルバロ (1911年) Sz.49
    題名はフランスの新聞にバルトークとコダーイの作品の演奏会時に「ハンガリーの若き2人の野蛮人」と書かれたことに対する皮肉。
  • ピアノの初歩 (1913年) Sz.53
  • ソナチネ (1915年) Sz.55
  • ルーマニア民俗舞曲 (1914年) Sz.56
  • ルーマニアのクリスマス・キャロル (1915年) Sz.57
  • ピアノのための組曲 (1916年) Op.14 Sz.62
  • 15のハンガリーの農民の歌 (1918年) Sz.71
  • ハンガリー民謡による8つの即興曲 (1920年) Op.20 Sz.74
  • ピアノ・ソナタ (1926年) Sz.80
  • 組曲『戸外にて』 (1926年) Sz.81
  • 9つのピアノ小品 (1926年) Sz.82
    8曲目に「タンバリン」という曲があるが、バルトークがスペインを訪れた際の印象を元にしたもの。
  • ミクロコスモス (1926年-1939年) Sz.107

[編集] 声楽曲

ここに挙げた以外にも多数。

  • 民謡様式による3つの歌 (1904年) Sz.24
  • ハンガリー民謡 (1906年-1907年) Sz.33
  • 5つの歌曲 (1915年) Sz.61
  • エンドレ・アディの詞による5つの歌曲 (1915年) Sz.62
  • 8つのハンガリー民謡 (1908年-1916年) Sz.64
  • 村の情景 (1924年) Sz.78
  • 室内管弦楽と女声合唱のための『3つの村の情景』 (1926年) Sz.79
    『村の情景』より3曲を抜粋し、伴奏を管弦楽化したもの
  • カンタータ・プロファーナ 1930年 Sz.94
  • 声とオーケストラのための5つのハンガリー民謡 (1933年) Sz.101

[編集] 参考資料

[編集] 外部リンク

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