ヒステリシス現象
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ヒステリシス現象 (Hysteresis) とは、ある系(おもに物理系)の状態が、加わった力に対して即時に追従せずに、反応が遅れること。別な言い方をすると、最初の状態には完全に戻ることがないこと。つまり系の状態が直前の状態に依存していることをいう。たとえばこれは以下のような事例である。パテの塊を押しつぶし、変形させたとする。手を放してもすぐには、さらに完全には、もとの形には戻らない。
Hysteresis の語は古典ギリシア語で 「不足・不備」を意味するυστέρησις hysteresisから生まれた。この現象はジェームズ・ユーイングによって、1890年に定義・命名された。なお、本来は Hysteresis の語のみで「ヒステリシスという現象」を意味するが、日本語で「ヒステリシス」とのみ表記すると意味するところがわかりにくいので、あえて「ヒステリシス現象」としておく。
(英語版 03:43, 7 July 2005の版から一部翻訳)
[編集] 磁力のヒステリシス現象
磁性体は磁界の中に置かれるとそれ自身が磁石になる。これを磁化と呼ぶ。磁界を強くしていくとどこまでも磁化されるわけではなく、ある一定値で飽和する。この値を飽和磁化と呼ぶ。逆に磁界を弱くしていくと、磁化はなかなか弱くならず、逆方向の磁界のある値のところで磁化がゼロになる。この時の磁界の大きさを保磁力と呼ぶ。このように磁性体の磁化は、磁界を強くするときと弱くするときとでは別のルートを辿り、特徴的なループを描く曲線になる。この、磁場を逆方向も含め交互にかけた時の磁化曲線を磁気ヒステリシス曲線と呼ぶ。縦軸は磁束密度 B = I + μHであり、横軸はH(磁場の強さ)である。透磁率は B = μH で定義されるので、ヒステリシス曲線の勾配が透磁率になる。
このヒステリシス・ループを一回描くごとに、そのループで閉じられた面積に相当する分だけのエネルギーが外部の磁界から磁性体に供給される。そのエネルギーは結局は熱に変わることになり、したがって交流磁界によって磁性体を加熱できることになる(IHヒーター)。なお、この飽和磁化は温度が高くなると徐々に低下し、磁性体の元素組成に応じた一定温度で磁性体でなくなる。この温度をキュリー温度と呼ぶ。