ヒル球
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ヒル球(Hill sphere)は天体力学の分野で、重い天体のまわりを公転する天体の重力が及ぶ範囲を示す。2天体に対し第3の天体の質量が無視できる場合に、第1の天体の摂動を受けながら第2の天体の周りを運動する第3の微小天体がいつまでも第2の天体の周りにとどまるような領域をいう。アメリカの天文学者ジョージ・ウィリアム・ヒルにより求められた。同様の解析をフランスのエドゥアール・ロシュも独立して行ったので、ロシュ球と呼ばれることもある。
ヒル球の半径rは次の式で求められる。
ここでMは大きい天体(たとえば太陽)の質量、mは小さい天体(たとえば惑星)の質量、aは天体間の距離である。
ヒル球の内側にある第3の小さい天体は惑星の衛星となり、ヒル球の外側では太陽のまわりを独立して公転する天体となる。
たとえば質量5.97×1024 kgの地球と1.99×1030 kgの太陽の距離が 149.6 Gm(1AU)の時のヒル球の半径は約1.5 Gm (0.01 AU)であり実際の月までの距離0.370 Gmよりも十分に大きい。
別の例として、地球の300Kmの高さをまわる104トンのスペースシャトルのヒル球の径は120cmにすぎず、スペースシャトルの重心からの距離120cmはスペースシャトル中にある。
ヒル球の径は天体の質量と主星との距離できまるので太陽系で最も大きいヒル球を持つのは海王星で116 Gm(0.775 AU)である。木星は53 Gm(0.354 AU)の径のヒル球を持つ。
ヒル球の解析は近似的なモデルであり、衛星となる天体の質量もモデルに影響を与えないように十分小さくなければならない。さらに放射圧などの考慮されてない力もあるため、衛星が長期的に安定である軌道はヒル球の1/2から1/3の内側の範囲にある。