フィアット・ムルティプラ
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ムルティプラ(Multipla)は、イタリアの自動車メーカーフィアットが製造、販売する多目的車。1956年から1966年まで生産されたオリジナルモデルと、1998年デビューの現行型がある。
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[編集] 歴史
[編集] 初代(1956年-1966年)
初代モデルである600 ムルティプラは、フィアット・600のコンポーネンツを用いて設計されたリアエン ジン・リアドライブ(RR)のキャブオーバー型で、全長3535×全幅1450×全高1580mmのサイズは、1998年以降の軽自動車規格(全長3400×全幅1480mm)と比べても全長がわずかに長いだけの矮躯であるが、3列シートの6人乗り仕様を基本とした。この設計は(ヒット作フィアット・500でも知られる)ダンテ・ジアコーザによるもので、エンジンルームを含めたリアセクションは600と共通としながら、キャビンスペースを前方へ押し広げるように拡大し、ガソリンタンクやスペアタイヤの配置にまで工夫を凝らすことで、3列シートの配置を可能としている。
外観は、キャブオーバーらしく切り立ったフロント部に対し、600から流用のリア部はなだらかな形状になっており、「一見どちらが前か分からない」と言われる独特のものであった。丸型のヘッドライトや純正で設定されたツートンカラーの塗装とも相俟って、愛嬌あるルックスが人目を惹く。
6人乗りのほかに、2列シートの4人、もしくは5人乗り仕様や、タクシー仕様車も存在した。2列シート仕様車ではフルフラットにすることもできる。
[編集] 2代目(1998年-)
30年以上を経て復活したムルティプラの名を持つ車は、初代に勝るとも劣らない個性的なルックスをもって現れた。その見た目から「世界で最も醜い車」、「この車は実際に乗るべきだ。何故なら車の中にいる限り、醜い外観を目にしなくて済むから」と言われたこともあるが、逆に、その奇異なフォルムに惹かれた人も少なくない。
デビューは1998年。フロントガラスの直下にハイビーム用ヘッドランプを配したり(ロービームは通常の配置)、後述のシート配置など機構的にも独特の設計が目立つ。
駆動形式はフロントエンジン・フロントドライブ(FF)ながら初代モデル同様6人乗りとなる。シート配列は3人掛け×2列という珍しいもので、このような配置は日産・ティーノやホンダ・エディックスのほかは、北米向けのフルサイズセダンの一部にしか見られない。すべてのシートは独立しており、運転席以外は個別に折りたたみ、取り外しが可能である。このシート配列は、全長をフロントエンジンの6人乗り車としては異例に短い3999mm(前期型。日本の車検証上は4005mm)に抑えながら広い荷室を確保することに貢献している。欧州ではカーフェリー料金が4mを境に大きく跳ね上がるため、バカンスを島嶼部で過ごす消費者にとってこの短い全長と広い荷室は魅力的であり、フィアットもこれをセリングポイントの一つとしていた。
短い全長に関しては逸話があり、ニュームルティプラの開発当時、フィアットはプジョーとの協定により全長4mを超えるミニバンを開発できないことになっていた。そんな折にモーターショーに出展されたムルティプラの全長を実際に計測するために、プジョー側がフィアットのブースを訪れたという。上述の通り4mに満たないため協定は破られておらず、無事にムルティプラがデビューする運びとなった。
2004年にマイナーチェンジが施され、前年にフェイスリフトしたフィアット・プントに似た常識的なフォルムに姿を変えたことで、MC前のモデルのファンの一部から「つまらなくなった」と言われるようになった。また、全長は4097mmと、4mを超えてしまっている。
エンジンは1.6リッターガソリン、1.9リッターコモンレール式直噴ディーゼルターボ、圧縮天然ガス(CNG)を燃料として用いるブルーパワー、CNGとガソリンを任意に選択できるバイパワーの4種がある。