フリージア (漫画)
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『フリージア』は、月刊IKKIに連載中の松本次郎による漫画作品。2001年に連載開始、2007年現在第8集まで単行本が出ている。
目次 |
[編集] 概要
戦時下の日本で殺人等の凶悪犯罪の被害者遺族が一定のルールに基づいて加害者に復讐する敵討ち法が成立した時代を舞台としたバイオレンスアクション。
被害者遺族に依頼されたプロの執行代理人と対象者と警護人による殺戮合戦を幹に、平静ではいられなくなっていく執行代理人の歪んだ心理描写や、極限状態を生き延びる対象者達とその周辺の人々の葛藤などの人間ドラマが展開される。実写を彷彿とさせる濃密かつスタイリッシュな陰影の利いた作画と、時折現れるコミカルな部分の対比が特色。
またタイトルの由来はフリージアの花ではなく、"凍るほど冷たい"という意味の造語という説がある。(映画版の設定より)
熊切和嘉監督、玉山鉄二主演により実写映画化、2007年2月3日公開。
[編集] ストーリー
近未来、戦時下の日本には被害者が加害者に復讐することができる「敵討ち法」が存在した。叶ヒロシはその敵討ち執行代理人として活動していく。
[編集] 登場人物
()内は映画版の配役
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] カツミ執行代理人事務所
- 叶ヒロシ (玉山鉄二)
- 本作の主人公。敵討ち執行代理人。後に「幽霊殺し」という異名を取る。
- 精神異常気味、特殊部隊出身で卓越した戦闘能力を持ち、また敵に自分の幻影を見せる"擬態"能力を使う。他者への共感性というものが不完全で、「日常のバランスを保とうと」するあまり常に自らの世界に閉じこもっている。その後トシオ戦を通して「他人のして欲しいことをする」ということに興味を示したが、異常な認知や自分の殻にこもった思考回路はそのままで、まだまだ健常な心理状態とは言い難い。溝口や山田と違い、敵討ちを単なる「仕事」として認識している。
- ヒグチ (つぐみ)
- 敵討ち執行事務官の女性、冷酷な性格で人々を心理的に追い詰める。軍に入隊する前のヒロシの同僚達にレイプされた過去があり、その時に居合わせたヒロシに興味を抱いている。
- 溝口正樹 (三浦誠己)
- 敵討ち執行代理人。山田とヒロシの先輩。
- 暴力的な性格で周囲の人間を自分より弱い「シマウマ」とみなし、敵討ちを「狩り」と呼んで楽しんでいる。しかし、ヒロシや幽霊のような自分より強い存在には途端に臆病になる性格のため、ヒロシを恐れ、排除しようとしている。他者と共感しようとするヒロシと入れ替わるように、徐々に精神を病んでいく。
- 山田一郎 (柄本佑)
- 敵討ち執行代理人。
- 真面目で正義感が強い男。当初は童顔の青年で敵討ちに幻想を抱いていたが、数々の戦いを通して成長し、その真面目さゆえに買収された国選警護人に発砲するなど、酷薄で危険な一面も表すようになる。ルール違反を繰り返す溝口と仲が悪く、不正を告発したこともあった。(しかし寺島戦において自身も飯島と金子のルール違反を揉み消している)
- カツミ所長
- 代理人事務所の所長。敵討ち推進派の政治家や執行人協会の理事などにコネを持つ。
- 金子
- 新人の敵討ち代理執行人。山田の下で研修中。飯島に比べるとやや気弱。しかし寺島戦ではたった一人で立ち向かう慎重さと胆力を見せた。
- 飯島
- 新人の敵討ち代理執行人。山田の下で研修中。なにかと強気で挑戦的な態度が目立つ。寺島戦にてヒサエに射殺される。
[編集] 対象者とその警護人
- 杉山 (映画版ではケンジ ガンビーノ小林)
- ヒロシが最初に処理した対象者。仲間とともにとある夫婦の自宅を襲撃し、暴行殺害した過去を持つ。ヒロシに追い詰められて射殺される。
- アケミ (映画版ではナツミ 坂井真紀)
- 杉山の妻、子持ち。ヒロシに射殺される。
- 隅川栄一 (鴻上尚史)
- 対象者。過去に保険金殺人を犯したヤクザの幹部。敵討ちを以前にカツミ事務所とは別の事務所に申請されていたが、部下に事務所を脅させた上、弁護士の力で中止させたため、今回は執行の際に特例措置(外部からの妨害などを想定した、政府が指定した地域での敵討ち)をとられてしまう。幽霊を倒したヒロシに出会い、ナイフで喉を切られて死亡する。
- 広川 (阪本浩之)
- 隅川の舎弟のヤクザ。片耳が欠けている。粗暴な性格で女性にも容赦がないが、敵討ち執行時には間抜けな一面も見せる。警護人として敵討ちに参加。幽霊に支給された銃と自分用の銃の二丁を持って山田と交戦したが、予備にしていた幽霊の銃に弾が入っていないことに気付かず、そのまま射殺される。
- 幽霊 (大口広司)
- 隅川の警護人である小柄な老人。本名立花星一。ヤクザの傘下の警護事務所で働き、その実力は業界に知れ渡っていた。ヒロシと同じく"擬態"能力を持ち、硝煙の匂いを嫌いナイフを愛用する。無敵に近い戦闘能力を持つヒロシを追い詰めた唯一の男でもある。死闘の末、ヒロシに射殺される。
- 岩崎トシオ (西島秀俊)
- 元テロリスト、政治家を狙撃しようとしてSPを射殺したことから自らの信念に迷いが生じてしまい、その迷いから逃れるように軍隊に志願した矢先に今回の敵討ちを受けることになる。情に厚く、巻き込んでしまったシバザキのために敵討ちのルールを逸脱してしまう。最終的にはメール友達のコトミと出会い、敵討ちを通じ自分なりの答えを見つけ、ヒロシとの決闘の末命を落とす。
- シバザキ (竹原ピストル)
- トシオの友人。吃音などのせいでバイト仲間から手ひどくイジメられていたが、友情からトシオの敵討ちに参戦。その後少し明るくなり、トシオを守るため策を講じたが警護人の裏切りと不運によって全てが無駄になる。最期は傷を負いながらもトシオを守ろうとして山田に射殺される。
- 小倉マサエ
- 溝口が一人で処理することになった対象者。猫に餌をやるのが趣味、トリカブトの毒を使った保険金殺人を犯した。溝口に射殺されたが、執行時に見た幻覚の数々によって彼の狂気は加速していく。
- 井出
- 犯罪者更生NPOで働く元ヤクザ、離婚経験あり。寺島の幼馴染、NPOに参加していた寺島の敵討ちに参加することになる。飯島が放った銃弾により死に至る。
- 寺島
- 交通事故で母子を殺害し、敵討ちの対象となった男。なんでも人のせいにし、コツコツやっていくことが嫌いな夢見がちな性格で、子供好き以外とりえのない卑小な性格。命を落とした井出のために生き抜く事を選択したが、ヒロシに射殺される。
- 岩尾ヒサエ
- 独立開業している女警護人。執行代理人志望で父親と確執がある。アルコール中毒。
[編集] その他
- ケイコ
- ヒロシの恋人、登場初期は鈴木と寝ていたが、ヒロシのことを本気で愛している。異常者が多い本作において、比較的マトモなパーソナリティを持っている一人である。
- 鈴木
- ケイコの浮気相手、粗暴な性格で前科者。現在行方不明。
- ヒロシの母親
- 完全に痴呆状態の老婆、夫に暴力を振るわれていた。
- ハナ
- 山田の元恋人。両親が裕福。山田が敵討ち代理執行人に専念したいために別れてしまう。
- ヨシコ
- 溝口の妻、溝口に暴力を振るわれ奴隷同然の人生を送った挙句、責め苦の果てに自殺する。
- 新田 (小沢和義)
- 隅川の舎弟のヤクザ、幽霊が警護することになったので敵討ちには参加せず。
- 「友人」
- ヒロシにしか見えない謎の存在。最初はヒグチの姿をしてヒロシとも関係が良好だったが、ある事件を境にヒロシが「裏切った」と判断してしまったため関係が破綻してしまい、ほとんど会話する機会がなくなる。その後もヒロシが殺した対象者の姿を見せながらヒロシを悩ませ続ける。
[編集] 敵討ち法のルール
- 裁判所が敵討ち申請届を受理した翌日、(代理人に依頼した場合)対象者の下へ事務官が訪れ関係書類を提出する。敵討ちはその4日後の正午に執行され、逃亡した場合武装警察に射殺または逮捕される。
- 被害者遺族は敵討ち代理執行人を3人、対象者は警護人を2人まで雇うことが出来る。しかし民間の警護人は最低ランクのヒサエでも一千万円以上の報酬を取るため、多くの対象者は信頼出来ない(代理人事務所に買収され、警護をしないケースが圧倒的)国選警護人を雇いざるを得ないのが現状。そのため本作では対象者の友人や部下が警護人を務める場合が多い。
- 敵討ちのフィールドとなるのは対象者側の自宅とその周辺。代理人側と対象者側は事前に敵討ちの場所となる地域の地理を調べる権利を持つ。
- 執行代理人と警護人は事務所が保管している銃器を、対象者とアマチュアの警護人は国から支給された銃器を武器として使用することが出来る。弾はマガジン一つ分のみ、リロードは認めない。また、事前に申請すればナイフなどの凶器を使用することも許される。
- 執行当日の正午に戦闘が開始、両者はフィールドにおいて互いに殺し合い、代理人側は対象者が死ぬまで、対象者側は代理人が全員死ぬか2日間対象者が生存するまで執行が続く。
- 執行中、他の民家に侵入したり無関係の市民を攻撃する行為は双方禁止。
- 警護人が投降した場合、代理人は速やかに警護人を武装解除し、警護人に一切の敵対行為をしてはならない。
[編集] 映画
[編集] 概要
2007年2月3日公開。PG-12指定。
トシオ戦までをベースとしたオリジナルストーリー。主人公達の接点として存在する軍事実験『フェンリル計画』の設定や、ヒロシとトシオの間に面識(実験に参加した部下と上官の関係)がある。ヒグチがその実験の犠牲者であるなど、原作とは異なる設定が幾つかあり、またストーリーの方向性も原作とは違うものとなっている。そのため原作ファンの批判を浴びることが多いが、一般的に玉山鉄二のリアルな銃捌きやガンアクション、独特の空気感を持つ映像などが評価されている。人間の痛みをテーマとした独自のストーリーに関しては「訳がわからない」という意見があり、賛否両論である。
[編集] 出演
- ヒロシ: 玉山鉄二
- トシオ: 西島秀俊
- ヒグチ: つぐみ
- 溝口: 三浦誠己
- 山田一郎: 柄本佑
- シバザキ: 竹原ピストル
- 隅川: 鴻上尚史
- 岩嶋: 嶋田久作
- ナツミ: 坂井真紀
- 幽霊: 大口広司
- 岩崎恒夫: すまけい
[編集] スタッフ
- 監督: 熊切和嘉
- 原作: 松本次郎
- 脚本: 宇治田隆史
- 音楽: 赤犬、松本章
- エンディングテーマ: Chara『虹を渡る平和がきた』(UNIBASAL J)
- 配給: シネカノン
- 製作: 小学館、東宝、バンダイビジュアル、ソニーPCL、オフィス・シロウズ