ブラックソックス事件
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ブラックソックス事件(ブラックソックスじけん、Black Sox Scandal)は、1919年アメリカメジャーリーグのワールド・シリーズで発生した八百長事件。優勢を予想されたシカゴ・ホワイトソックスがシンシナティ・レッズに3勝5敗と敗退(この年にかぎり、ワールドシリーズは9試合制)、シリーズ前からささやかれていた賭博がらみの八百長疑惑が真実味を帯び、結果的にホワイトソックスの主力8選手が刑事告訴され、球界を永久追放されるにいたった。
目次 |
[編集] 経緯
ホワイトソックスのチャールズ・コミスキーオーナーのけち癖が、事件の最大の要因であったとされている。ホワイトソックスの選手たちは、当時他のどのチームの選手より低賃金でプレイさせられていた。ついにはクリーニング代も惜しみだしたため、彼らのユニフォームはトレードマークのはずの白ソックスまで常に黒ずんでいた。そのために、彼らは1919年の八百長事件以前から「ブラックソックス」とあだ名されていた。
こうした仕打ちに耐えかねていた選手たちのうち、まず賭博師の誘いに乗り八百長に手を染めたのは正二塁手のチック・ガンディルだったといわれている。彼に誘われた者、自ら話を聞きつけて仲間に加わった者、計7選手が、問題のシリーズで八百長を働いたとされている。他に八百長の全貌を知りながらそれを球団に報告しなかったとして処罰された三塁手のバック・ウィーバーを含めた8人が、いわゆる「悲運の8人」(アンラッキー・エイト)である。
少年ファンが渦中のスター、ジョー・ジャクソンに対し発した、"Say it ain't so, Joe(嘘だと言ってよ、ジョー)"というせりふは有名。ジャクソンはこれに対して「坊や、本当のことなんだ。」と応えたという。
- チック・ガンディル
- スウィード・リスバーグ
- ハッピー・フェルシュ
- バック・ウィーバー
- エディ・シコット
- レフティ・ウィリアムズ
- フレッド・マクマリン
- ジョー・ジャクソン
シリーズ途中で彼らに話を持ちかけた賭博師が破産、約束通りの報酬は得られないことがわかり、彼らは八百長とは手を切ろうとしていた。しかし、事態はすでに裏社会の大物たちも関与するところとなっていた。ある選手は試合で全力を出せば妻子に危害が及ぶと脅迫されていたという。
映画『エイトメン・アウト』ではレフティ・ウィリアムズが脅され、言いなりになって初回失点するシーンがあるが、事実かどうか定かではない。
結局、1919年ワールドシリーズは、シンシナティ・レッズが5勝3敗で制することになった。
[編集] 影響
問題のシリーズから約1年後、「アンラッキー・エイト」は大陪審に呼び出され、証言を求められる。ここで彼らは自身らの行為を認めた。大陪審は、彼らに情状酌量の余地を認め、無罪評決を下した。
一方、事件によって国民的スポーツとして面目を失いかけていた米球界は、謹厳を以って知られた判事のケネソー・マウンテン・ランディスを、絶対的裁量権を有する「コミッショナー」として迎え入れる。コミッショナー制度は「ブラックソックス事件」によって生まれたといって良い。そして、初代コミッショナーであるランディスは、「大陪審の評決に関係なく、八百長行為に関与した選手、また八百長行為を知りながら報告を怠った選手は『永久追放』に処する」と判断を下した。かくて、「アンラッキー・エイト」は、メジャー球界から追われる事となる。
一方でランディスは、同じく八百長疑惑のあった別の有名選手(例えばタイ・カッブ)たちを救済してもいる。人気選手を多数失った後のメジャーリーグの運営に配慮した形であった。ランディスのこの公正を欠く処断が、「アンラッキー・エイト」たちがむしろ悲運のヒーローとして美化されて描かれる事にもつながっていく。
また、この一大スキャンダルの最中で、米球界は一人の救世主の出現を見る事になる。ベーブ・ルースである。ブラックソックス事件は、野球が真の意味でアメリカの国民的スポーツとなるための生みの苦しみであったかもしれない。
[編集] この事件をテーマにした作品
- ノンフィクション
- ドナルド・グロップマン『折れた黒バット ジョー・ジャクソンとブラック・ソックス事件』ベースボール・マガジン社 1984年
- 映画
- 『エイトメン・アウト』
- 『ナチュラル』
- 『フィールド・オブ・ドリームス』
- 小説
- W・P・キンセラ『シューレス・ジョー』文春文庫 1989年(ファンの叫んだ「嘘だと言ってよ、ジョー」で知られる)
[編集] 関連項目
カテゴリ: メジャーリーグ | スポーツのエピソード | アメリカ合衆国の事件